怪談レポート

久世空気

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№196 下半身と上半身

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――10年ほど、滝田さんは学生だったそうだ。

 毎日アルバイト三昧で、容姿なんて二の次で勉強とお金稼ぎに奔走していました。別に苦学生というわけではないんですよ。でも両親が他界して、遺産で大学に行っていたので「後ろ盾がない!」っていう焦りでに追われて常に動いていました。

 その日も講義の後にバイトを入れていて、その後ファミレスでレポート書くために本を読んで、帰りは12時過ぎていました。

 家に帰ったらとりあえず明日の弁当の仕込みをして、ちょっとレポート書き出して・・・・・・、と考えながら歩いていたら、静かな道にコツーン、コツーンと堅い音が響いてきました。当然夜中で人影がなかったのでさすがに緊張しました。

 前方からヒールを履いた白い足が来るのが見えました。その頃本当におしゃれなモノとは無縁だったので「あ、ヒールってこんな音なるんだ」と怖がってしまったことをちょっと恥ずかしく思いました。でも近づいてくるそれを見て、固まってしまいました。その足、腰から上がなかったんです。ピンクのスカートをひらひらさせながら、ヒールを鳴らしてこちらに近づいてきました。冷静になれば、足だけだしヒールだし、全力で逃げたら絶対振り切れるんですけど、あの時は「あ、死んだ」って思いましたね。

 そうしているうちに足が歩いてきて、私の前で止まりました。そして、私の脛を蹴り飛ばしたんです。めちゃくちゃ痛かったです。いや、笑い事じゃないですよ。ヒールで蹴られると半端ないくらい痛いんです。腫れたし、ヒールの足は気づいたら居なくなっていたし、次の日バイト休むことになったし。

 今では就職先で出会った人と結婚して時間的にも金銭的にもそこそこ余裕のある生活が出来ています。

 で、最近の話なんですが、親戚の結婚式に行ったんです。旦那は先に帰って、私だけ2次会まで参加して帰りに一人だったんです。お酒も結構飲んだから駅から酔い醒ましのために歩いていました。

 そしたら街灯の下に人がいて、ゆらゆら揺れながら立っているんです。その場で足踏みしている感じですね。あの人も酔っ払いかなと、馬鹿なんですけど、特に警戒しなかったんですよ。

 それで近づいてヒッと声が出ました。腰から下がないんです。怖かったんですけどね、お酒のせいで気が大きくなってたんだと思います。それが浮いているのか、透明な下半身があるのか気になっちゃったんですよ。それで足でちょんって体の下あたりを蹴ってみたんです。特に感触はなかったんですが、その瞬間その人物が顔を上げたんです。その時が一番びっくりしました。

 私だったんですよ、その上半身。

 それはふわって煙になるみたいに消えてしまったんですが、それまで忘れていた10年前のことを思い出しました。そういえばあの時蹴ってきた足のスカートと同じような服着てるなって。

 そんなことよりあれが本当に10年前の私なら、あの頃酷い顔してたんだなぁと。やっぱり余裕のある生活って必要ですよね。
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