怪談レポート

久世空気

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№177 バア様

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 子供の頃、年末年始は母方の実家に行くのが恒例でした。でも大晦日お正月だから行くんじゃないんです。
 私と姉、弟はそこで順番にバア様の世話をさせられました。
 バア様は奥の一番広い座敷に寝たきりになっていました。ずっと寝ていて目を覚ましているところは見たことがありません。
 バア様の世話は、まず顔中の穴、口と目と鼻と耳ですね、から出る小さな虫を払うことから始めます。柔らかいタオルを濡らして、何度も拭ってるうちに虫はいなくなります。次に祖母が用意してくれた油のようなものを刷毛で顔に塗ります。少なすぎても、多すぎても怒られます。垂れないくらいに、均等に塗らなければいけません。次に一礼して布団を剥いで、浴衣の前を開きます。下着は一切身につけていません。大きな玉の数珠で、首から下、全身をこすります。強くしすぎたら赤くなるから後で祖母に怒られます。玉が転がるくらいで良いようです。そして浴衣を整え、布団を戻し、一礼して終わりです。
 宿泊している間、兄弟の誰かが祖母に呼ばれ、大体5,6回させられました。少しでも手抜きをすると祖母にばれて背中を竹刀で叩かれました。私たちは本当に嫌で母に何度も行きたくないと訴えましたが聞き入れられず、姉は
「せめて弟だけでも見逃して」
 と祖母に訴え、また竹刀で叩かれました。弟がストレスのせいで年末に腹痛を訴えても行かされました。
 ある年の夏、あの家は火事で全焼し、取り残された祖母が亡くなりました。私は世話がなったと胸をなで下ろしたんですが、その年の年末も母が
「バア様に会いに行くよ」
 と言い出したので、私は自殺を図りました。当時5年生。その時の記憶はありません。目が覚めたとき、別居中だった父が居てとても嬉しかったのを覚えています。父は私たち兄弟がそんな目に遭ってると知りませんでした。姉が母の手帳を盗み見て父の連絡先をつかみ、連絡してくれたそうです。
 その後両親は離婚し、私たちは父に引き取られました。母は最後まで親権を争ったそうです。

 先日、母が病気で他界しました。私たちは一応葬式だけ参列してすぐに帰りました。帰りの電車の中で私はずっと疑問に思っていたことを父に聞きました。バア様は一体誰だったのか。父は火事で死んだ祖母のことだと思っていました。でも私たちが世話をしたのは寝たきりの別の老女です。姉もずっと「火事で死んだのは祖母だけ」と言うことに引っかかっていたそうです。それに火事の後も母は私たちにバア様の世話をさせたがりました。

 弟は当時小さかったので、幸い今は何も覚えていないようです。姉と私はいまだにバア様の世話をする悪夢を見ます。せめて正体さえ分かれば安心できるんですけど、あの家が燃え、母が死んだ今、もう手がかりはありません。

――油木さんは30歳になった今でもカウンセリングに通っているそうだ。
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