163 / 254
№163 中退の理由
しおりを挟む
1ヶ月くらい前に偶然、大学時代の友人に会いました。友人は3年生になる直前くらいに突然退学して連絡も途絶えていたんです。
仕事の帰りに寄ったスーパーで、向こうから声を掛けてきました。
「もしかして、糠田?」
って。俺は一瞬誰か分からなかったけど、その顔を見ているうちにだんだん記憶がよみがえってきて、名前を呼んだらそいつ嬉しそうに
「ひさしぶり~」
って気さくに話しかけてきました。何も言わずにいなくなったから、何か実家で深刻なトラブルがあったのかとか重い病気だったのかとかいろいろ考えてたので拍子抜けしました。だから友人が
「明日仕事休みなら飲もう!」
と言ってきたときも気楽に部屋にあげてしまいました。
二人飲みはそれなりに盛り上がって、酔いが回ってきた頃ちょっと深掘りしてしまったんですよね。
「何があったか知らないけど、もう時効だろ? どうして中退したんだ?」
って。そしたらそいつ、それまでヘラヘラしていたのが急に真面目な顔になって
「お前に妹いただろ」
と話し始めたんです。話し始めようとしてくれたのは良いんですが、ちょっと待てと俺は思わず話の腰を折りました。俺に妹なんて居ません。それどころか一人っ子です。そう言うとそいつはぽかんとして
「いや、お前の妹だよ。大学に遊びに来ていただろ」
と言うんです。そこから一気に険悪になり口論になりました。言い合っているときに分かったんですがそいつと「俺の妹」はだいぶ親密な付き合いがあったようなんです。
友人は
「そこまで言うのなら付いてこい!」
と突然外に出ました。夜明け前でまだ暗い時間です。そいつは車を近くのパーキングに停めていて、俺を乗せて山の方に走り出しました。一応ハイキングコースのある山です。友人は山の麓に車を停めて後は徒歩でずんずんと山を登り始めました。手にはいつの間にかスコップを持っています。そして空が白んできた頃に道から外れ、木の茂っている場所を歩きにくそうに進んでいきます。俺も必死で後を追います。ずっと無言です。ある背の高い木の前で友人は急に止まり、そして枯れ葉をどけながら今度はすごい勢いで土を掘り返し始めました。どうしたら良いのか分からず、俺は誰も来ないか気になりずっと周囲に気を配っていました。さすがにその時間山の中に来る人は居ません。そして30分くらいした頃でしょうか。
「あった!あったぞ!」
と友人の声がしました。
「何があったんだ?」
と俺は振り返り、穴の中を見ました。穴は2メートルくらいの深さにまでなっていました。暗い穴の底に目をこらすと、人が二人横たわっていました。明らかに死んでいます。いや、ほとんど生前の姿を残していません。驚いて腰を抜かして、友人を呼びました。彼はいつの間にか消えていました。スコップもありません。俺は死体の入った穴の横で一人きりでした。急いで山を下りましたが、車もなくなっていました。後日、地元の人がその穴を発見したというニュースを聞きました。死体の一つはやはり、友人でした。警察は事故として処理したようですが、もう一つの死体に関してはいまだ、女性ということしかわかっていないようです。
仕事の帰りに寄ったスーパーで、向こうから声を掛けてきました。
「もしかして、糠田?」
って。俺は一瞬誰か分からなかったけど、その顔を見ているうちにだんだん記憶がよみがえってきて、名前を呼んだらそいつ嬉しそうに
「ひさしぶり~」
って気さくに話しかけてきました。何も言わずにいなくなったから、何か実家で深刻なトラブルがあったのかとか重い病気だったのかとかいろいろ考えてたので拍子抜けしました。だから友人が
「明日仕事休みなら飲もう!」
と言ってきたときも気楽に部屋にあげてしまいました。
二人飲みはそれなりに盛り上がって、酔いが回ってきた頃ちょっと深掘りしてしまったんですよね。
「何があったか知らないけど、もう時効だろ? どうして中退したんだ?」
って。そしたらそいつ、それまでヘラヘラしていたのが急に真面目な顔になって
「お前に妹いただろ」
と話し始めたんです。話し始めようとしてくれたのは良いんですが、ちょっと待てと俺は思わず話の腰を折りました。俺に妹なんて居ません。それどころか一人っ子です。そう言うとそいつはぽかんとして
「いや、お前の妹だよ。大学に遊びに来ていただろ」
と言うんです。そこから一気に険悪になり口論になりました。言い合っているときに分かったんですがそいつと「俺の妹」はだいぶ親密な付き合いがあったようなんです。
友人は
「そこまで言うのなら付いてこい!」
と突然外に出ました。夜明け前でまだ暗い時間です。そいつは車を近くのパーキングに停めていて、俺を乗せて山の方に走り出しました。一応ハイキングコースのある山です。友人は山の麓に車を停めて後は徒歩でずんずんと山を登り始めました。手にはいつの間にかスコップを持っています。そして空が白んできた頃に道から外れ、木の茂っている場所を歩きにくそうに進んでいきます。俺も必死で後を追います。ずっと無言です。ある背の高い木の前で友人は急に止まり、そして枯れ葉をどけながら今度はすごい勢いで土を掘り返し始めました。どうしたら良いのか分からず、俺は誰も来ないか気になりずっと周囲に気を配っていました。さすがにその時間山の中に来る人は居ません。そして30分くらいした頃でしょうか。
「あった!あったぞ!」
と友人の声がしました。
「何があったんだ?」
と俺は振り返り、穴の中を見ました。穴は2メートルくらいの深さにまでなっていました。暗い穴の底に目をこらすと、人が二人横たわっていました。明らかに死んでいます。いや、ほとんど生前の姿を残していません。驚いて腰を抜かして、友人を呼びました。彼はいつの間にか消えていました。スコップもありません。俺は死体の入った穴の横で一人きりでした。急いで山を下りましたが、車もなくなっていました。後日、地元の人がその穴を発見したというニュースを聞きました。死体の一つはやはり、友人でした。警察は事故として処理したようですが、もう一つの死体に関してはいまだ、女性ということしかわかっていないようです。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
【語るな会の記録】鎖女の話をするな
鳥谷綾斗(とやあやと)
ホラー
語ってはいけない怪談を語る会
通称、語るな会
「怪談は金儲けの道具」だと思っている男子大学生・Kが参加したのは、禁忌の怪談会だった。
美貌の怪談師が語るのは、世にも恐ろしい〈鎖女(くさりおんな)〉の話――
語ってはいけない怪談は、何故語ってはいけないのか?
語ってはいけない怪談が語られた時、何が起こるのか?
そして語るな会が開催された目的とは……?
表紙イラスト……シルエットメーカーさま
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる