怪談レポート

久世空気

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№159 長い廊下

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――津野さんの父親の実家は山と田んぼに囲まれた、かなりの田舎だそうだ。

 父は田舎に帰省するのが好きで、盆と年末年始は泊まりで挨拶に行くのが決まりでした。
 しかし私が中三のとき、さすがに受験前の夏休みに2泊はきついと父に抗議しました。母も私に賛同してくれましたが、父は田舎でも勉強は出来るの一点張り。さらに田舎の祖母から電話があり母が何か言われたらしく、しぶしぶ帰省することになりました。
 そんな感じだったから道中もギクシャクしていて単語帳を開いても集中できず、あちらに行って挨拶してすぐに、2階の父の部屋で一人勉強していたら祖父から
「よっぽど偉くなりたいんだな」
 と夕飯の時に嫌みを言われ、気分は最悪でした。
 憂鬱な気分で夜中まで部屋にこもって勉強をしていました。多分2時くらいだったと思います。そろそろ寝ようと思い、寝る前に麦茶を一杯もらおうと部屋を出ました。廊下は真っ暗でした。勝手に電気をつけてまた嫌みを言われたくないので、そのままで私は廊下を歩き出しました。
 まっすぐ廊下を歩き、突き当たり右の階段を降りたら1階です。明かりが必要なほど複雑な廊下ではありません。私は廊下のきしみだけ注意しながらゆっくり歩きました。
 でもおかしなことに、全然突き当たりにたどり着かないんです。多分10分くらい歩いたと思います。真っ暗で先も見えず、徐々に不安になってきました。もう部屋に戻って寝ようかと思ったとき、
「振り返るな!」
 と突然怒鳴られたんです。それは女の子の声のようでしたが、私の後頭部の斜め上から聞こえました。怖くて涙が出てきました。そして
「そのまままっすぐ進め」
 とまた声が降ってきました。私は足がガクガク震えるのを必死に押さえながら歩きました。背後に人の気配がします。さらに10分ほど歩いた頃、暗闇に慣れた目が突き当たりの壁と階段を見つけました。その瞬間ふっと背後の気配が消えました。私は階段を駆け降りました。もう麦茶なんかどうでも良くて、客間で寝ている両親の元に早く行きたいという気持ちだけでした。
 階段を降りると1階の廊下に母が居ました。寝ているはずの母が何故洋服を着て起きているんだろうと不思議に思いましたが、ほっとして
「お母さん!」
 と声が出ました。母は私を見て驚愕し
「どこに行ってたの!」
 と怒鳴り、私をぎゅっと抱きしめたんです。なんと私が廊下をさまよっている間に二日経っていたんです。
 父の部屋にいたはずの私が消え、失踪か誘拐か神隠しかと警察も呼んで大騒動になっていました。私の体験したことを信じてくれたのは母だけでした。
「この子がこんな嘘つくわけないし、嘘なら居なくなった説明が付かない。この家は前からおかしいと思っていた」
 と言い、父と大げんか。母は無理矢理連れてこられた上に娘が居なくなって腹に据えかねていたんでしょうね。結局私の受験が終わった頃に両親は離婚し、私は母について行きました。
 父は離婚を機に田舎に帰ったそうで、たまに
「遊びにおいで」
 って連絡があります。どういう神経してるんですかね。
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