怪談レポート

久世空気

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№158 パラパラ

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――小学生の時、手塚さんの家族はとある団地に引っ越しをした。

 新しいところで結構綺麗でしたね。敷地内に公園とかあって自然も多くて子供の教育に良いだろうと思ったと親が言っていました。実際そこに引っ越すと言ったら同級生はうらやましがっていました。変な噂も聞いたことがなかったんですけど・・・・・・。

 その日は一人で風呂に入っていました。たいてい兄と一緒に入っていたんですが、高校生の兄がその頃塾に行き始めていたので時間が合わなかったんですよね。湯船に二人でつかって学校であったことを話すのが高齢になっていたんで、一人で黙って入るのは少し寂しかったです。
 ぼんやりしていたら、パラパラと小窓をたたく音がしました。ああ、とうとう雨が降ってきたんだ、と思いました。その日はずっと薄黒い雲が空にかかっていて、それなのに日中は全然降らない変な天気でした。
 しかし、よく考えたらおかしいんです。風呂場に付いている小窓は団地の通路側にあって雨が当たることなんてないんですよ。見上げてみるとパラパラという音と一緒にチラチラと影が磨りガラスに映っていました。真っ先に考えたのが虫でした。虫が大量発生したのかと。窓を開けて確かめようかと思いましたが蚊だった場合、裸の僕は大惨事です。親にも風呂場に虫を入れたことを怒られるでしょう。
 今考えると馬鹿みたいですが、あの頃の僕は玄関からちょっとだけ外を覗いてみようと思ったんです。玄関と風呂場の小窓は一直線上にありましたし、顔を出すぐらいならと、僕はタオル一枚腰に巻いてそろそろと玄関を開けて廊下に顔を出しました。
 そこに居る者を見て、それが何か頭が追いつく前に僕は「ひぃ!」と声を上げていました。そこには背の高い女が立っていたんです。団地なので天井はそれなりの高さはあるのに女は入りきらず首をかしげていました。そして爪でカチカチとうちの小窓を叩いていたんです。小窓の音はそれだったんです。女は首をかしげたまま振り返り、僕を見ると慌てたように走って去って行きました。その間、天井に頭がすれたのか、ぱらぱらと長い髪が落ちていました。
 誰も居なくなった廊下を呆然と見ていると後ろから母に怒鳴られました。なんて格好で外に行こうとしているんだと。僕は何があったのか話しましたが、湯船につかってうたた寝していたんだろうと信じてもらえませんでした。
 その後父にも兄にも話しました。父も全然信じてくれませんでしたが、兄は小窓がパラパラと鳴る音は聞いたことがあったらしく「それもその女かよ!」と震え上がりました。
 僕と兄は年が離れているのでその時まで隠されていたのですが、兄はだいぶ怖がりだったらしく、それから6年後に引っ越すまで、ずっと僕は兄と風呂に入るはめになりました。どこから漏れたのか当時の友達に知られ、今でも極度のブラコン扱いされます。

――それでもその間、忘れた頃に小窓はパラパラと鳴っていたそうだ。
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