156 / 254
№156 本のお化け
しおりを挟む
――千寿留さんは歴史ある図書館に勤めているという。
建物は何度も建て替えているようですが、書庫には古文書って言えるくらいの資料も保管してあります。もちろんそういうのは貸し出しできなくて、特別なときに展示している程度ですが、それだってちゃんと資料のデータはパソコンで管理しています。図書館の本の中で管理されていない本なんてないって、思ってたんです。
ある日貸し出した本の中に見覚えのない資料がありました。タイトルは『舌の上でころがす』、作者は書いてありませんが小説のようでした。バーコードが貼ってあったので不思議に思いながらも貸し出ししました。
古い本は、特に小説は次々に新しい本が出るのもあって、たいてい書庫にしまっているんです。何か意味があるのかと先輩に聞いてみました。先輩は
「お、出たな!」
と愉快そうに笑いました。曰く
「あれは本のお化けなんだ」
と。『舌の上でころがす』は、いつの間にか本棚にあって、誰かが借りていくそうです。貸し出しを手書きで管理していた時代からあって、バーコードで管理するようになってからはいつのまにかバーコードが付いていたそうです。どういう理屈かは不明ですが、あるはずのない本だけど、貸し出しは出来る。
「その本が出たら悪いことが起きたりするんですか?」
と恐る恐る聞いてみたら、
「起こるよ」
と先輩はあっさりと言いました。
「その本を借りる人はたいてい、本を汚す人だから。必ずそういう人の手に渡って、汚れて返ってくる。そして汚した張本人は不幸な目に遭う」
そう言われてはっとしました。確かに借りた人は要注意人物でした。部屋が汚いのか本に変な匂いが付いたり、表紙がベタベタしてたり。匂いは知らぬ存ぜぬで済まされるし、表紙は一応カバーがしてあるので拭けば取れます。決定打に欠けて、なかなか図書館としても強く注意できないんです。
そして返却日を過ぎてから、その本は返却されました。やっぱりかび臭いような、ちょっと湿気を含んだような状態で本は返ってきました。本は湿気に弱いですよね。梅雨だから・・・・・・と言っていたそうですが本当かどうか。
返却された本の中に『舌の上でころがす』はあったそうですが、いつの間にか消えていました。そして借りた人は雨の日に交通事故に遭ったそうです。
後日ご家族が残りの貸し出し本を持ってきて、話してくれました。自分で運転していた車がスリップして川に落ち、車が駄目になったそうです。幸い大怪我をしたものの回復すれば今まで通り生活できるとのことですが、運転にかなり自信があり、さらに車も大事にしていたこともあり、かなり意気消沈していてしばらく車は持たないだろうと。
危険な本だからどうにかしないととは思うんですが、探しても見つからないし、データもない。先輩は
「どうにもならん」
と諦めています。私も最近は諦め気味です。あれは図書館を守ろうとする本の付喪神みたいな物なんだと、思うようにしています。
建物は何度も建て替えているようですが、書庫には古文書って言えるくらいの資料も保管してあります。もちろんそういうのは貸し出しできなくて、特別なときに展示している程度ですが、それだってちゃんと資料のデータはパソコンで管理しています。図書館の本の中で管理されていない本なんてないって、思ってたんです。
ある日貸し出した本の中に見覚えのない資料がありました。タイトルは『舌の上でころがす』、作者は書いてありませんが小説のようでした。バーコードが貼ってあったので不思議に思いながらも貸し出ししました。
古い本は、特に小説は次々に新しい本が出るのもあって、たいてい書庫にしまっているんです。何か意味があるのかと先輩に聞いてみました。先輩は
「お、出たな!」
と愉快そうに笑いました。曰く
「あれは本のお化けなんだ」
と。『舌の上でころがす』は、いつの間にか本棚にあって、誰かが借りていくそうです。貸し出しを手書きで管理していた時代からあって、バーコードで管理するようになってからはいつのまにかバーコードが付いていたそうです。どういう理屈かは不明ですが、あるはずのない本だけど、貸し出しは出来る。
「その本が出たら悪いことが起きたりするんですか?」
と恐る恐る聞いてみたら、
「起こるよ」
と先輩はあっさりと言いました。
「その本を借りる人はたいてい、本を汚す人だから。必ずそういう人の手に渡って、汚れて返ってくる。そして汚した張本人は不幸な目に遭う」
そう言われてはっとしました。確かに借りた人は要注意人物でした。部屋が汚いのか本に変な匂いが付いたり、表紙がベタベタしてたり。匂いは知らぬ存ぜぬで済まされるし、表紙は一応カバーがしてあるので拭けば取れます。決定打に欠けて、なかなか図書館としても強く注意できないんです。
そして返却日を過ぎてから、その本は返却されました。やっぱりかび臭いような、ちょっと湿気を含んだような状態で本は返ってきました。本は湿気に弱いですよね。梅雨だから・・・・・・と言っていたそうですが本当かどうか。
返却された本の中に『舌の上でころがす』はあったそうですが、いつの間にか消えていました。そして借りた人は雨の日に交通事故に遭ったそうです。
後日ご家族が残りの貸し出し本を持ってきて、話してくれました。自分で運転していた車がスリップして川に落ち、車が駄目になったそうです。幸い大怪我をしたものの回復すれば今まで通り生活できるとのことですが、運転にかなり自信があり、さらに車も大事にしていたこともあり、かなり意気消沈していてしばらく車は持たないだろうと。
危険な本だからどうにかしないととは思うんですが、探しても見つからないし、データもない。先輩は
「どうにもならん」
と諦めています。私も最近は諦め気味です。あれは図書館を守ろうとする本の付喪神みたいな物なんだと、思うようにしています。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ジャングルジム【意味が分かると怖い話】
怖狩村
ホラー
僕がまだ幼稚園の年少だった頃、同級生で仲良しだったOくんとよく遊んでいた。
僕の家は比較的に裕福で、Oくんの家は貧しそうで、
よく僕のおもちゃを欲しがることがあった。
そんなある日Oくんと幼稚園のジャングルジムで遊んでいた。
一番上までいくと結構な高さで、景色を眺めながら話をしていると、
ちょうど天気も良く温かかったせいか
僕は少しうとうとしてしまった。
近くで「オキロ・・」という声がしたような、、
その時「ドスン」という音が下からした。
見るとO君が下に落ちていて、
腕を押さえながら泣いていた。
O君は先生に、「あいつが押したから落ちた」と言ったらしい。
幸い普段から真面目だった僕のいうことを信じてもらえたが、
いまだにO君がなぜ落ちたのか
なぜ僕のせいにしたのか、、
まったく分からない。
解説ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
近くで「オキロ」と言われたとあるが、本当は「オチロ」だったのでは?
O君は僕を押そうとしてバランスを崩して落ちたのではないか、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる