怪談レポート

久世空気

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№156 本のお化け

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――千寿留さんは歴史ある図書館に勤めているという。

 建物は何度も建て替えているようですが、書庫には古文書って言えるくらいの資料も保管してあります。もちろんそういうのは貸し出しできなくて、特別なときに展示している程度ですが、それだってちゃんと資料のデータはパソコンで管理しています。図書館の本の中で管理されていない本なんてないって、思ってたんです。

 ある日貸し出した本の中に見覚えのない資料がありました。タイトルは『舌の上でころがす』、作者は書いてありませんが小説のようでした。バーコードが貼ってあったので不思議に思いながらも貸し出ししました。
 古い本は、特に小説は次々に新しい本が出るのもあって、たいてい書庫にしまっているんです。何か意味があるのかと先輩に聞いてみました。先輩は
「お、出たな!」
 と愉快そうに笑いました。曰く
「あれは本のお化けなんだ」
 と。『舌の上でころがす』は、いつの間にか本棚にあって、誰かが借りていくそうです。貸し出しを手書きで管理していた時代からあって、バーコードで管理するようになってからはいつのまにかバーコードが付いていたそうです。どういう理屈かは不明ですが、あるはずのない本だけど、貸し出しは出来る。
「その本が出たら悪いことが起きたりするんですか?」
 と恐る恐る聞いてみたら、
「起こるよ」
 と先輩はあっさりと言いました。
「その本を借りる人はたいてい、本を汚す人だから。必ずそういう人の手に渡って、汚れて返ってくる。そして汚した張本人は不幸な目に遭う」
 そう言われてはっとしました。確かに借りた人は要注意人物でした。部屋が汚いのか本に変な匂いが付いたり、表紙がベタベタしてたり。匂いは知らぬ存ぜぬで済まされるし、表紙は一応カバーがしてあるので拭けば取れます。決定打に欠けて、なかなか図書館としても強く注意できないんです。
 そして返却日を過ぎてから、その本は返却されました。やっぱりかび臭いような、ちょっと湿気を含んだような状態で本は返ってきました。本は湿気に弱いですよね。梅雨だから・・・・・・と言っていたそうですが本当かどうか。
 返却された本の中に『舌の上でころがす』はあったそうですが、いつの間にか消えていました。そして借りた人は雨の日に交通事故に遭ったそうです。
 後日ご家族が残りの貸し出し本を持ってきて、話してくれました。自分で運転していた車がスリップして川に落ち、車が駄目になったそうです。幸い大怪我をしたものの回復すれば今まで通り生活できるとのことですが、運転にかなり自信があり、さらに車も大事にしていたこともあり、かなり意気消沈していてしばらく車は持たないだろうと。
 危険な本だからどうにかしないととは思うんですが、探しても見つからないし、データもない。先輩は
「どうにもならん」
 と諦めています。私も最近は諦め気味です。あれは図書館を守ろうとする本の付喪神みたいな物なんだと、思うようにしています。
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