怪談レポート

久世空気

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№155 不信感

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――束野さんは実家から電車と飛行機を乗り継いだ場所に就職したそうだ。

 別に都会に憧れて、という訳ではなく高校の先生が紹介してくれた就職先がそこだったというだけです。実家を離れて不安がないわけではなかったんですが、職場の人は優しいし、交通とか物流とかいろいろ便利だし、すぐになじんだと思います。
 両親も実家を離れることには反対しなくて、むしろ喜んでくれていました。たまに田舎で撮れた作物が届いたり、メールがあったりするくらいで特別心配もされませんでしたね。
 それなのに2年前に突然
「今年はいつ戻ってくる?」「夏休みはとれそう?」
 と頻繁に帰省を促すような連絡が来るようになりました。すでに実家を出て5年くらい経っていたんですが、こんなことは初めてで、それまで帰省も予定がなければ年末年始だけ、という感じでした。
 ひょっとして何かあったのか? と心配になりちょっと長めに夏期休暇を取り慌てて帰省しました。先に連絡をしていたので父が空港に車で迎えに来てくれていました。
 父は道中楽しそうに家族の近況を話してくれましたが、特に深刻な話はありませんでした。古い実家は少し前にリフォームして外観と水回りが綺麗になっていました。そのほかは特に変わらず、皆健康そうで、大きな問題があるようには見えません。
 夜になってさすがに両親に何故帰省させたのか聞きました。すると二人はそろって口をつぐみ、何を質問しても困った顔で答えません。他の家族……祖父母と妹二人、に聞いても知らないと言われたので、おそらく両親が私を呼び寄せたかったんだと思います。しかし、何を聞いても答えない。さすがに苛ついて
「明日にはもう戻るから」
 と言うと二人は慌てて引き留めてきました。その様子にやっぱり何かあるんだろうと、戻ることはやめましたが、二人を警戒することはやめませんでした。
 でも帰省させた理由を聞かれたとき以外は本当に普通なんです。悩み事がある様子もないし、お金に困っている気配もない。そうやって観察しているうちに帰る日になりました。最後まで両親は私に心中を打ち明けず、見送ってくれました。
 そして一人暮らしのアパートに戻ると、見計らっていたかのように父から電話がありました。出ると開口一番に
「部屋に戻ったのか?」
 と聞かれたので「そうだ」と答えました。その瞬間父が大声で笑い出し
「やった!やったぞ!!」
 と叫びだしたんです。電話のそばに母が居たようで歓呼の声が上がり、二人で大喜びしている音だけがしばらく続き、切れました。その後かけ直すかどうか迷い、メールをしましたが返信はなく、しばらく不信感で近寄らなかった実家との関係は、最近結婚したことで元に戻りました。両親はいつも通り・・・・・・でも、それが今は怖くてたまらないのです。
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