怪談レポート

久世空気

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№151 団地の怪談

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 小学生の時、同級生の大半は同じ団地に住んでいました。大きな団地でしたから。
 えっと、20棟くらいあったかな。公園もあって良いところだったんだけど、変な噂も多かった。学校の怪談見たいな。11棟には首つりの幽霊が出るとか、3棟と4棟の間を通ると異次元に連れ込まれるとか。子供も多かったせいかな。怖がりの私からすればすごく怖かった。

 ある日、雨が降って友達と遊べなくなって、家で宿題をしていたんです。うちは共働きで、お母さんがパートから帰ってくるまで基本一人。そういう家庭も結構多かった気がします。まあ、一人だからテレビを見ながらダラダラ宿題をしていたら、キーキーと何かをひっかく音がしたんです。
 あれって不快ですよね。いやだなぁと思いながらも特に何の音か調べずにいたらまた、キーキー、キーキーって。それがベランダの方から聞こえるんです。風も強かったし、何か飛ばされてきたのかなと思ってカーテンを開けました。私は思わず声を上げてその場に尻餅をつきました。多分腰が抜けてたんだと思います。
 ベランダには長い爪でガラス戸をひっかく黒い顔の女が腹ばいに寝そべっていたんです。墨みたいに真っ黒な顔に、目と髪が真っ白で。爪? 爪はどうだったかな。いや、目が合った状態でそこまで見れなかったと思います。
 座り込んだまま動けないで居たら、女から目をそらして腕で這ってベランダを横切りました。でも通り過ぎたのは上半身だけで、下半身はなかったんです。白いワンピースが腰のあたりでぺたんと地面に落ちて引きずられていました。
 私は気が遠くなって、次に気づいたのはお母さんがパートから帰ったときでした。

 私は次の日、学校で前日にあったことを仲の良い友達に話したんです。すると友達の顔は真っ青になり
「私もそれ見た」
 と震える声で言ったんです。その友達も団地の別棟に住んでいました。二人で
「怖い、怖い」
 とおびえていると、団地に住む他の同級生も
「見た!」
 と言う子も現れました。見た日はまちまちでしたが、総合すると、あの女は雨の日に誰かのベランダでガラスをキーキー鳴らせて、気づいたらベランダを横切って去って行くようです。今までの噂レベルの怪談ではなく、実際に皆同じものを見たことに震え上がりました。
 しかし、そこで
「そんなの俺だったらベランダに出て捕まえるけどな!」
 とクラスの男子の一人が言い出しました。彼もまた団地に住んでました。
「やめなよ。危ないよ」
 と皆止めましたが、逆に焚き付けることになったのかもしれません。
「まかせろ。捕まえてやるよ」
 と大見得を張っていました。

 その次の雨の日、どうかあの子の家にお化けが出ませんようにと祈っていました。でも、その次の日、その男の子は欠席しました。先生は男の子が怪我をしたと言ってましたが、皆言葉に出しませんが半信半疑だったと思います。数日後、その子はふらっと学校に来ました。しかしその目はぼんやりとし、腕には白い包帯。包帯には赤い血がにじんでいました。誰も何も聞けず、その子は数日登校して、また来なくなりました。
 それっきりです。雨の日のお化けの噂はその後も続き、いつの間にか聞かなくなり、また新しい怪談が生まれています。

――大地さんは早く独り立ちして引越し出来るよう頑張っているそうだ。
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