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№143 学習塾
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――押江さんは大学生の時に塾でアルバイトをしていたそうだ。
主な業務はプリントの印刷や、試験監督、教室などの清掃です。出勤の時は掃除をするために誰よりも早く行く必要がありました。
その日も僕が入り口を解錠し、ドアを開けました。するとちょっと開いた瞬間に扉が内側から開き、子供が飛び出してきたんです。僕の腰あたりを黒い影が通り過ぎ、ビルの外に消えていきました。呆然としましたが、すぐに「不法侵入」の4文字が浮かび、塾の中を確認しました。小さな教室なのでたいした現金は置いてありませんが、高価な教材はたくさんあります。
ドキドキしながら事務所、教室をくまなく確認しましたが、荒らされた様子もなく、窓が割れていたり無理矢理こじ開けられていたりということもありません。首を傾げつつ、とりあえず通常業務に戻って清掃を始めました。
それも終わったころに塾の事務職員が出勤しました。その人はアルバイトの管理もしている人です。なので塾長に報告する前にその事務職員に不法侵入のことを話しました。
するとその人は笑って「それ、塾長の娘さんよ」と教えてくれました。塾長の娘は小学校高学年になるが不登校で、ずっと塾長が勉強をみていて、塾の教材も使い放題。いつも誰もいないうちに塾に来て欲しい教材を持って行ってるのだとか。人見知りだから僕が解錠したのに驚いて逃げたのかとのこと。塾長に報告する必要はない、と事務職員の言質も取ったので僕はほっとしてその日の業務をこなしました。
しかし家に帰って風呂に入っているとき唐突におかしなことに気づきました。塾の鍵は普通にあけるだけではなく必ずセキュリティを解除する作業が必要なんです。僕はその日もちゃんとセキュリティを解除して鍵を開けました。つまりあの子はセキュリティのかかった部屋にいたことになります。しかしそれだと窓でもドアでもどこから入っても、セキュリティが作動し警備会社の人が当然やってくるはずです。でもその日はそんな騒ぎなどありませんでした。それに気づいて僕はぞっとしました。
でもそれを事務職員に話す気にもなれず、かといってもう塾が怖くてたまらなくなったので、僕はいろいろ言い訳をしてすぐにアルバイトをやめました。やめてから一度だけ事務職員さんから電話がありました。何か言いづらそうでしたが、あの日見たのは塾長の娘で間違いないかという話でした。もちろん塾長の娘を見たことがなかったので分かりませんと答えましたが、一体それがどうしたのか聞き返したところ
「今来ているアルバイトも、出勤したら子供が飛び出してきたって言うの」
ともごもごと言って電話は切れました。
電話は病めてから3年後にありました。あの塾は小学生対象だったので、もうお嬢さんも卒業しているはずなんですよね。今になってはもう関係ないので恐怖はありませんが、あの事務職員、3年してやっと気づいたのかと思うとそれもちょっと怖いですね。
主な業務はプリントの印刷や、試験監督、教室などの清掃です。出勤の時は掃除をするために誰よりも早く行く必要がありました。
その日も僕が入り口を解錠し、ドアを開けました。するとちょっと開いた瞬間に扉が内側から開き、子供が飛び出してきたんです。僕の腰あたりを黒い影が通り過ぎ、ビルの外に消えていきました。呆然としましたが、すぐに「不法侵入」の4文字が浮かび、塾の中を確認しました。小さな教室なのでたいした現金は置いてありませんが、高価な教材はたくさんあります。
ドキドキしながら事務所、教室をくまなく確認しましたが、荒らされた様子もなく、窓が割れていたり無理矢理こじ開けられていたりということもありません。首を傾げつつ、とりあえず通常業務に戻って清掃を始めました。
それも終わったころに塾の事務職員が出勤しました。その人はアルバイトの管理もしている人です。なので塾長に報告する前にその事務職員に不法侵入のことを話しました。
するとその人は笑って「それ、塾長の娘さんよ」と教えてくれました。塾長の娘は小学校高学年になるが不登校で、ずっと塾長が勉強をみていて、塾の教材も使い放題。いつも誰もいないうちに塾に来て欲しい教材を持って行ってるのだとか。人見知りだから僕が解錠したのに驚いて逃げたのかとのこと。塾長に報告する必要はない、と事務職員の言質も取ったので僕はほっとしてその日の業務をこなしました。
しかし家に帰って風呂に入っているとき唐突におかしなことに気づきました。塾の鍵は普通にあけるだけではなく必ずセキュリティを解除する作業が必要なんです。僕はその日もちゃんとセキュリティを解除して鍵を開けました。つまりあの子はセキュリティのかかった部屋にいたことになります。しかしそれだと窓でもドアでもどこから入っても、セキュリティが作動し警備会社の人が当然やってくるはずです。でもその日はそんな騒ぎなどありませんでした。それに気づいて僕はぞっとしました。
でもそれを事務職員に話す気にもなれず、かといってもう塾が怖くてたまらなくなったので、僕はいろいろ言い訳をしてすぐにアルバイトをやめました。やめてから一度だけ事務職員さんから電話がありました。何か言いづらそうでしたが、あの日見たのは塾長の娘で間違いないかという話でした。もちろん塾長の娘を見たことがなかったので分かりませんと答えましたが、一体それがどうしたのか聞き返したところ
「今来ているアルバイトも、出勤したら子供が飛び出してきたって言うの」
ともごもごと言って電話は切れました。
電話は病めてから3年後にありました。あの塾は小学生対象だったので、もうお嬢さんも卒業しているはずなんですよね。今になってはもう関係ないので恐怖はありませんが、あの事務職員、3年してやっと気づいたのかと思うとそれもちょっと怖いですね。
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