怪談レポート

久世空気

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№131 ミニバン

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――寄木さんが大学3年生のとき就職のことで親と喧嘩したらしい。

 僕は家出をしました。青かったなぁと今では思いますが。友達の家に泊まらせてもらうことも考えましたが、家出の理由を説明するのが気恥ずかしかったのもあり、しばらく車中泊することにしました。道の駅とか公園とかに泊まるんです。真冬や真夏なら死んでましたね。

 家出して7泊目くらいの夜、コンコンという音で目が覚めました。何か高い声が聞こえます。浮浪者だろうかと自分を棚に上げて嫌な気分になっていましたが、それは子供の声みたいでした。
「いいなぁ。かっこいいなぁ」
「ねー。かっこいいよね。きっと速いんだよ」
「たくさん乗れるんだよ」
 と、男の子と女の子の声が交互に聞こえ、時たま車体に触るようなコンコンという音がしました。僕が乗っていたのは普通のミニバンでした。特別かっこいい仕様にはしていませんでしたが、まあ、子供ですから。僕だって小さい頃はゴミ収集車が大好きでした。親には何でこれ? って言われていましたが。
 不思議に思いつつも悪い気はしませんでした。僕が起きて驚かせても可哀想だと思い、好きなだけ見せてやろうと寝たふりをしました。子供たちはなおも
「乗りたいねー」
「乗ったら楽しいだろうねー」
 と話しています。話しながら車の周りをくるくる回っているようでした。ほっこりとした気持ちになっていましたが、ふと時間が気になりました。正確な時間は覚えていませんが、寝た時間は10時を過ぎていたと思います。車の中では浅くしか眠れないので2.3時間しか寝てない感じでした。
 子供だけで何してるんだろうと考えているところ、その時僕が車を停めているのが山の上だと言うことに気づきました。山頂の公園の駐車場に停めていたんです。もちろん周りに民家なんてありません。
 背筋が寒くなってくると、これまでコンコンとしか鳴っていなかった音が、バンバンと手のひらでたたくような音に変わりました。
「走らないかなー」
「速いだろうねー」
 と子供の声は続いています。このまま寝たふりをしてもいずれ車の中に入ってくるような気がしました。僕は叫びながら起き上がり、運転席に滑り込むと、すぐにエンジンを掛けて発車しました。エンジンが鳴る直前に子供の笑い声が聞こえた気がしましたが、無視してひたすらエンジン音を聞きながら山を下りました。そして気がついたときには夜でも比較的に車の量がある国道の、コンビニの駐車場に停まっていました。体中から汗が出ているのに芯から体は冷えていました。何か温かいものでも買おうと車を開けたとき

「楽しかったね」
「ありがとー」

 という子供の声がはっきり聞こえました。
 それから僕は両親に頭を下げて家に戻りました。例の車も売り、もう子供の声は聞こえません。でも、関係あるかどうかは分かりませんが、僕が最後に子供の声を聞いたコンビニの前の道、直進なのに、最近事故が絶えないそうです。関係ないとは思いますが。
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