怪談レポート

久世空気

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№110 携帯電話

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――その女は野部と名乗った。

 怪談ねぇ。私もあるにはあるわよ。聞きたい? ……え? 買い取ってるって? 別に無料でいいけど、そうねぇ、じゃあここの飲み代払ってよ。それでいいわよ。

 私が花の高校生だった時の話よ。同級生が一人自殺したの。その1か月くらい前に、その同級生の友達の財布がなくなってね、結構お金が入っていたらしいのよ。事件の後に携帯電話を持つようになった子が疑われた。
 当時は珍しかったし、タイミングが悪かったわよね。 本人は盗ってないと言っても、やっぱり怪しいし、皆で糾弾したの。そしたら財布を盗られた子は
「この子はそんなことするような子じゃない」
 って庇ったから場がしらけちゃって。せっかく私たちが犯人に怒ってやってるのにって。
 でも、やっぱり財布が見つからないし、携帯電話は疑わしいしで、だんだんギクシャクしてきたみたい。
 泥棒と疑われた子は結局孤立して、自殺した。きっかけは携帯電話を誰かに壊されたことみたいね。教室でぎゃーぎゃー言ってたけど、誰も相手にしなかった。教師にも言ったらしいけど、携帯電話の持ち込みの許可を得てなかったらしくて「自業自得」って門前払いだったみたい。彼女、呆然としてたわ。その次の日ね、校庭の木で首を吊ってるのが見つかったの。遺書はなかったみたい。

 その後に少しずつ携帯電話を持つ子が増え始めて、卒業するころにはみんな持っていたわね。私以外。私は家の方針で社会人になるまでもっちゃダメってことになってたの。今じゃ考えられないわよね。
 卒業の日にね、クラス全員で集まっていたら全員の携帯電話にメールが入ったの。それがね、自殺した子からだったんだって。もちろん見せてもらったわよ。
「卒業おめでとう。でも携帯電話はもたない方がいいね」
 って。あの子の家族が嫌がらせに送ってきたかと思ったけど、あの頃は誰も携帯電話を持ってなかったから、メールアドレスを知ってるはずないのよね。気持ち悪くてすぐメールを消した子もいれば、誰かの悪戯と決めつけて無視する子もいたわ。でも消したらまた来るんだって。
「また仲間はずれにするの、酷い」
 って。消さなかった子はね、すぐに自殺したの。首を吊って。消しても届くし、消さなければ死んでしまう。メールアドレスを変えても拒否してもダメ。あのメールを受け取ったクラスメイトは全員、卒業して1年も経たないうちに残らず死んじゃったわ。

 残ったのは私だけ、いまだに携帯電話を持ったことないのよ。ただ今は本当に携帯電話を持たないと大変ね。仕事もあんまり人間関係を上手く築けないし、すごく奇異の目で見られる。友達もいないのよ。今は携帯電話がないと遊ぶ約束とかできないみたい。正直こんなに生きにくくなるとは思わなかったわ。
「そろそろ大丈夫かな」って欲しくなることもあるけど、やっぱり命が一番大切だから……。
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