103 / 254
№103 絶叫系
しおりを挟む
遊園地が怖いんです。
――津島さんが最後に遊園地に行ったのは10年くらい前らしい。
あの頃私はまだ小学生でした。父も母も仕事をしていて忙しかったので、なかなか休みが合わなくて、皆で遊園地に行くのはとても楽しみでした。
地元の小さな遊園地でしたが、ジェットコースターはありました。絶叫系とは名ばかりの単純なものでしたが、怖がりの母にはそれでも嫌だったそうで、私と父だけ乗っていました。何度も乗ったことがあるのでどのくらいの高さでどのくらいのスピードが出るかも分かっていました。それでも父と一緒に乗って騒ぐのは楽しかったです。
その時は閑散期だったようで私と父以外は乗る人がいませんでした。二人でどっちが大きな声を出せるかと言う競争をしていました。後で母にどちらが大きかったか聞こうって。
だけどその日、ジェットコースターはおかしな動きをしました。一番高いところに登ると一旦止まって勢いよく降下するはずなんですが、そのまま平行にカタカタと進んで、止まってしまったんです。
おかしなことに、そこには乗降場がありました。父を見ると父もぽかんと口を開いていました。二人で顔を見合わせているとピンクのウサギの着ぐるみが現れて、私たちしかいないのに拡声器を使って
「おりてくださーい」
と言いました。
その遊園地で着ぐるみは見たことがありません。皆可愛い制服を着たスタッフで、ジェットコースターも優しそうなお兄さんが見送ってくれていました。ウサギは私たちに向かってただ
「おりてくださーい」
と繰り返すだけ。
父は私にそのまま乗っているように言って安全バーを押し上げ、乗物から降りました。そしてウサギに
「どうなっているんだ」
というように詰め寄りました。しかし、ウサギは私の方を見て
「おりてくださーい」
と続けます。私は怖くて安全バーを握りしめていました。
その時ブザーが鳴りました。発車の合図です。私は
「お父さん乗って!」
と叫びました。何故乗った方がいいと思ったのかはわかりません。直感でした。父も私の声に反応して再び乗ろうとしました。しかしウサギが、がっしりと父の腕をつかんだんです。そしてジェットコースターは発車しました。呆然と私を見送る父。それが私が見た最後の父の姿です。
次の瞬間、がくんと急降下して、ジェットコースターは元のコースに戻りました。止まって乗降場で降りると、スタッフのお兄さんが真っ青な顔をしていました。
それから父がどこかで振り落とされたんじゃないかと警察や消防やら大変な騒ぎになりました。私も始めは話を聞かれましたが、正確に起こったことを話そうとするほど、周りの大人は絶望的な表情になりました。
今でも父は出てきません。私はあの場所で生きていると思うんですが、もう二度と行けなくなりました。
遊園地、閉園しちゃったんです。
――津島さんが最後に遊園地に行ったのは10年くらい前らしい。
あの頃私はまだ小学生でした。父も母も仕事をしていて忙しかったので、なかなか休みが合わなくて、皆で遊園地に行くのはとても楽しみでした。
地元の小さな遊園地でしたが、ジェットコースターはありました。絶叫系とは名ばかりの単純なものでしたが、怖がりの母にはそれでも嫌だったそうで、私と父だけ乗っていました。何度も乗ったことがあるのでどのくらいの高さでどのくらいのスピードが出るかも分かっていました。それでも父と一緒に乗って騒ぐのは楽しかったです。
その時は閑散期だったようで私と父以外は乗る人がいませんでした。二人でどっちが大きな声を出せるかと言う競争をしていました。後で母にどちらが大きかったか聞こうって。
だけどその日、ジェットコースターはおかしな動きをしました。一番高いところに登ると一旦止まって勢いよく降下するはずなんですが、そのまま平行にカタカタと進んで、止まってしまったんです。
おかしなことに、そこには乗降場がありました。父を見ると父もぽかんと口を開いていました。二人で顔を見合わせているとピンクのウサギの着ぐるみが現れて、私たちしかいないのに拡声器を使って
「おりてくださーい」
と言いました。
その遊園地で着ぐるみは見たことがありません。皆可愛い制服を着たスタッフで、ジェットコースターも優しそうなお兄さんが見送ってくれていました。ウサギは私たちに向かってただ
「おりてくださーい」
と繰り返すだけ。
父は私にそのまま乗っているように言って安全バーを押し上げ、乗物から降りました。そしてウサギに
「どうなっているんだ」
というように詰め寄りました。しかし、ウサギは私の方を見て
「おりてくださーい」
と続けます。私は怖くて安全バーを握りしめていました。
その時ブザーが鳴りました。発車の合図です。私は
「お父さん乗って!」
と叫びました。何故乗った方がいいと思ったのかはわかりません。直感でした。父も私の声に反応して再び乗ろうとしました。しかしウサギが、がっしりと父の腕をつかんだんです。そしてジェットコースターは発車しました。呆然と私を見送る父。それが私が見た最後の父の姿です。
次の瞬間、がくんと急降下して、ジェットコースターは元のコースに戻りました。止まって乗降場で降りると、スタッフのお兄さんが真っ青な顔をしていました。
それから父がどこかで振り落とされたんじゃないかと警察や消防やら大変な騒ぎになりました。私も始めは話を聞かれましたが、正確に起こったことを話そうとするほど、周りの大人は絶望的な表情になりました。
今でも父は出てきません。私はあの場所で生きていると思うんですが、もう二度と行けなくなりました。
遊園地、閉園しちゃったんです。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
アポリアの林
千年砂漠
ホラー
中学三年生の久住晴彦は学校でのイジメに耐えかねて家出し、プロフィール完全未公開の小説家の羽崎薫に保護された。
しかし羽崎の家で一ヶ月過した後家に戻った晴彦は重大な事件を起こしてしまう。
晴彦の事件を捜査する井川達夫と小宮俊介は、晴彦を保護した羽崎に滞在中の晴彦の話を聞きに行くが、特に不審な点はない。が、羽崎の家のある林の中で赤いワンピースの少女を見た小宮は、少女に示唆され夢で晴彦が事件を起こすまでの日々の追体験をするようになる。
羽崎の態度に引っかかる物を感じた井川は、晴彦のクラスメートで人の意識や感情が見える共感覚の持ち主の原田詩織の助けを得て小宮と共に、羽崎と少女の謎の解明へと乗り出す。


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】本当にあった怖い話 コマラセラレタ
駒良瀬 洋
ホラー
ガチなやつ。私の体験した「本当にあった怖い話」を短編集形式にしたものです。幽霊や呪いの類ではなく、トラブル集みたいなものです。ヌルい目で見守ってください。人が死んだり怖い目にあったり、時には害虫も出てきますので、苦手な方は各話のタイトルでご判断をば。
---書籍化のため本編の公開を終了いたしました---
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる