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№98 押し入れ
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僕は5歳まで母と一緒に暮らしていました。父はいません。ぼろいアパートに2人で暮らしでした。幼稚園や保育園には行っていませんでした。母も働いている様子はなく、ずっと家にいました。
たまに夕方出かけて、べろべろに酔っぱらって夜中に帰ってきました。そういうときは揺さぶり起こされて、怒鳴られたり小突かれたりしました。そして押し入れに閉じ込められました。それが日常で、それが僕の世界のすべてでした。
ある日、また押し入れに閉じ込められました。すごくつらかったけど、朝になったら出れるから我慢してそのまま寝ました。母は朝起きられないので、自分で出るのが通常でした。
だけどその時は違いました。うとうとし始めたとき、襖が開いたんです。そこには知らないお婆さんがいました。お婆さんは僕を見てびっくりしていました。
どこから入ったの? いつ入ったの? と聞かれましたが、あの頃僕はしゃべれなかったので答えられず、ただ泣いていました。お婆さんは細い手で抱っこして押し入れから出してくれました。そこは確かに母と二人で住んでいるアパートでしたが、とても明るく見えました。置いてある家具も配置も一緒なのに、明るくていい匂いがしました。匂いのもとはテーブルの上の食事でした。お婆さんは一人分の食事を僕に分け与えてくれました。
お婆さんは僕がお婆さんの家に捨てられたんだろうと言いました。とても嬉しそうでした。そしてご飯が終わると僕を抱っこしたまま外に出ました。
外に出るといろんな人がお婆さんに声を掛けました。
「その子は?」と。
するとお婆さんは
「うちに捨てられていたのよ」
と笑って言います。聞いた方は
「須江さんの所を選ぶなんて見る目がある親だ」
と、みんなニコニコ笑うんです。お婆さん……須江さんは
「親が育てられないと思ったら、育てられそうな家に捨てるんだよ」
と教えてくれました。
僕は須江さんに小5まで育てられました。小5の時に須江さんは寿命で亡くなりました。テレビで須江さんが亡くなったという報道もされました。
その日死んだ人と生まれた人の名前が、毎日1回報道されるんです。あと全国の冠婚葬祭情報ですね。有名無名関係なく。それを見て、本当に死んだんだなぁって悲しくなったのを覚えています。でもたくさんの人が遠方から訪ねてきて、僕を励ましてくれました。
それがひと段落したとき、ふと須江さんとで会ったときのことを思いだし、押し入れに自分で入ってみました。しばらくして出てみると、少し老けた母が化粧をしていました。僕の顔を見ると母は絶叫しました。どうも僕は行方不明になっていたらしいです。
僕はその後施設に入りましたが、これまでの世界と全然違うので驚きました。僕が須江さんと暮らしていたのは、いわゆるパラレルワールドというものだったのでしょう。
あれから10年経ちます。今でもあちらの世界に帰りたくなります。
たまに夕方出かけて、べろべろに酔っぱらって夜中に帰ってきました。そういうときは揺さぶり起こされて、怒鳴られたり小突かれたりしました。そして押し入れに閉じ込められました。それが日常で、それが僕の世界のすべてでした。
ある日、また押し入れに閉じ込められました。すごくつらかったけど、朝になったら出れるから我慢してそのまま寝ました。母は朝起きられないので、自分で出るのが通常でした。
だけどその時は違いました。うとうとし始めたとき、襖が開いたんです。そこには知らないお婆さんがいました。お婆さんは僕を見てびっくりしていました。
どこから入ったの? いつ入ったの? と聞かれましたが、あの頃僕はしゃべれなかったので答えられず、ただ泣いていました。お婆さんは細い手で抱っこして押し入れから出してくれました。そこは確かに母と二人で住んでいるアパートでしたが、とても明るく見えました。置いてある家具も配置も一緒なのに、明るくていい匂いがしました。匂いのもとはテーブルの上の食事でした。お婆さんは一人分の食事を僕に分け与えてくれました。
お婆さんは僕がお婆さんの家に捨てられたんだろうと言いました。とても嬉しそうでした。そしてご飯が終わると僕を抱っこしたまま外に出ました。
外に出るといろんな人がお婆さんに声を掛けました。
「その子は?」と。
するとお婆さんは
「うちに捨てられていたのよ」
と笑って言います。聞いた方は
「須江さんの所を選ぶなんて見る目がある親だ」
と、みんなニコニコ笑うんです。お婆さん……須江さんは
「親が育てられないと思ったら、育てられそうな家に捨てるんだよ」
と教えてくれました。
僕は須江さんに小5まで育てられました。小5の時に須江さんは寿命で亡くなりました。テレビで須江さんが亡くなったという報道もされました。
その日死んだ人と生まれた人の名前が、毎日1回報道されるんです。あと全国の冠婚葬祭情報ですね。有名無名関係なく。それを見て、本当に死んだんだなぁって悲しくなったのを覚えています。でもたくさんの人が遠方から訪ねてきて、僕を励ましてくれました。
それがひと段落したとき、ふと須江さんとで会ったときのことを思いだし、押し入れに自分で入ってみました。しばらくして出てみると、少し老けた母が化粧をしていました。僕の顔を見ると母は絶叫しました。どうも僕は行方不明になっていたらしいです。
僕はその後施設に入りましたが、これまでの世界と全然違うので驚きました。僕が須江さんと暮らしていたのは、いわゆるパラレルワールドというものだったのでしょう。
あれから10年経ちます。今でもあちらの世界に帰りたくなります。
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