怪談レポート

№93 猫の鳴き声

　　私は霊感がありません。だから幽霊の見方がわかりません。

――杭さんはやつれた顔で語り始めた。

　私は猫を飼っていました。実家を出るときもペット可のマンションを必死で探して、一緒に暮らしました。あの子は女の子なのにやんちゃで、私が家事とかしてたら遊ぼう遊ぼうって、足元をぐるぐる回るんです。遊びだしたらコップやら時計やらひっくり返して、私が怒っても全然気にしない。寂しがり屋で、好奇心旺盛で、でもほとんど鳴かなくて、いい子でした。私が出張とかで友達に世話を任せたときだけ、夜にみゃーみゃー鳴いていたと隣人が言ってました。私はそんな声聞いたことないのに。

　ある日、あの子は私が家に帰ると同時にするりと部屋から飛び出していきました。それまでにも外に出ようとしたことはあったんですが、しばらくなかったので気を抜いていました。私が悪いんです。追いかけて、一番危ない大通りに向かったんですけど、本当は逆に行ってて、飛び出して、バイクに……。なんで、追いつけなかったんだろう、なんで、大通りって思ったんだろう、なんでなんで。

　正直気が狂いそうだと思ってました。あの子のことしか考えられませんでした。でも不思議なもので、体は淡々と日常生活を送るんですね。朝起きて準備して仕事に行って帰ってお風呂に入って寝る。最低限の生活を１年続けていました。ほとんど記憶はありませんが。

　１年経って隣人がおかしなことを言いました。「また猫を飼い始めたんですか？」って。私は「そんな気分になりません」と答えると、「そうよねぇ」と首を傾げます。聞くとたまにみゃーみゃーという鳴き声が私の部屋から聞こえるそうなんです。

　それからしばらくして私は引っ越ししました。更新の時期と異動が重なったからです。そしてどうやら何人か新しい人がその部屋に入ったそうなんですが、大家さんから電話があり「住んでいた時に何か変なことがなかったか」と電話がありました。「あの部屋に住んだ人、皆が部屋の中から猫の気配がすると、怖がって退去する」と言うんです。部屋に置いてあるものが倒れたり、鳴き声が聞こえたり、たまに姿も見えると。その特徴があの子と同じだったんです。

　今、私はまたあの部屋に戻っています。仕事はやめました。たまに物が倒れますがそれだけです。隣人は猫の声が気になると引っ越しして今は空き部屋です。

　どうしたら霊感が手に入りますか？　どうしたらあの子を見ることが出来ますか？　どうしたら……。