怪談レポート

久世空気

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№77 白いセーター

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 彼は私が一人暮らしをしたばかりの時に、隣の部屋に一人で住んでいました。彼はその頃新社会人だったと記憶しています。家を出たばかりの大学生だった私に、いろいろ教えてくれて、優しくて頼りがいがあるように見えて、好きになるのにそんなに時間はかかりませんでした。私がアプローチしているのに気付いた彼から告白してくれた感じです。

 彼の家には時々彼のお母さんが来ていました。私も何度かご挨拶しましたが、何というか、はかなげな少女のような人でした。彼は「お母さんは体が弱い」といっていましたが、何か病気を持っていたのかどうかは聞いてません。とにかくか弱いのだと……。

 付き合い始めて初めての冬、彼からセーターをもらいました。白い可愛らしいセーターで、私はよくそれを着て大学に行くようになりました。彼もそんな私を嬉しそうに見ていました。でも、ある日大学の友達から言われたんです。

「嬉しいのは分かるけどさ、さすがに3日連続はきついって」

 私、全然そんなつもりはなかったんです。無意識というか、他の服を着るつもりだったのに、気がついたらそのセーターに手が伸びてるんです。
 そしてだんだんと体にも異変が出てきて……最初は朝起きられないくらいだったんですが、体がだるくなって、食欲が落ちて……。私は大学に行けなくなりました。彼は毎日のように私に会いに来てくれて、世話をしてくれました。とても優しかったです。私も彼がいれば大丈夫という気になっていました。
 でもある日、大学の友達が訪ねてきました。セーターの件を指摘してきた友達です。そこでも開口一番、友達が「またそのセーター着てる!」って言ったんです。それも私は気づいていませんでした。セーターは黄色くなって毛玉がたくさんついていたんですけどね。さらに彼が同じセーターを着たおばさんを連れて歩いているのを見たと友達は言いました。きっと彼のお母さんだというと、友達は烈火のごとく憤慨して

「母親と同じ服を着せるのってやばいって! そもそもそんなに汚くなってるのになんで彼氏はそれを脱がそうとしないの?」

 不思議と、その言葉がすとんと胸に入ってきて、上手く言えないんだけどそのセーターがすべての元凶のような気がして。私はその場でセーターを脱いで友達に処分をお願いしました。

――牧田さんはその彼氏とすぐに破局したそうだ。

 彼のお母さん、あの後すぐに亡くなったんですよ。50代位に見えたんですけど80代だったって。なんでか彼に私がお母さんを殺したみたいないい方されて、喧嘩別れしました。
 あのセーター、結局何だったんでしょうか。

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