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№66 カプセル
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ガチャガチャが昔から好きなんです。子供の時もおもちゃ屋さんとかに置いてあると、おもちゃよりもガチャガチャに気を取られていました。
先月、近所の駄菓子屋さんの前に新しいガチャガチャが設置されたんですよ。子供が集まっていたから気づきました。子供たちは出てきたカプセルから紙を出すと、それを皆でのぞき込んで何やら一喜一憂し、その紙を駄菓子屋にもっていっていました。たぶん商品名が書いてあるのだろうと私は思いました。
店の中で駄菓子と交換してもらうシステムなのかと。さすがにこの年で子供たちに混ざるのも気が引けたので、なかなか回しに行けなかったのですが、ある日、子供が飽きたのか、たまたまなのか誰もいないときに駄菓子屋の前を通りました。私はわくわくしながらガチャガチャの前に立ちました。本体には「1回100円」「商品はお店で交換」と書かれているだけです。中のカプセルも真っ黒で中身がわかりません。まあ、駄菓子屋の前に置いてあるのだから菓子か玩具なんだろう。そんな軽い気持ちで100円を投じました。
ハンドルを回して出てきたカプセルを開けると小さな紙切れ。さて何が当たったのかとのぞき込むと……「目」と書いてありました。そういう玩具だろうかととりあえず店のカウンターに座っているお婆さんに渡しました。駄菓子屋は子供の頃きたときのまま、少し陳列してある駄菓子の装丁が変わっているくらいで懐かしさを覚えました。きょろきょろしているとお婆さんはニコニコ笑いながら、「目、目ね」と呟きました。
その瞬間ガツンと頭を殴られるような感覚がして、かけていた眼鏡が床に叩きつけられました。すぐ振り向いたのに誰も居ません。コンクリートむき出しの床でレンズが砕けていました。お婆さんはすぐに箒と塵取りを持ってきました。
「まあ、いいじゃない。もういらないんだから」
といわれて初めて、視界が良好なことに気付きました。今まで眼鏡無しだと1m先もはっきり見えなかったのに。僕がガチャで当てた「目」は本物の、しかも視力の良い「目」だったんです。なんか興奮してしまって再度5回ガチャガチャを回しました。「髪」「爪」「眉毛」「小指」、そして「脳」の紙が当たりました。それをまた婆さんに交換をお願いしましたが、「脳」だけは先に
「これ、変なことにはならないよね」
と思わず確認していました。
「変なことって?」
とお婆さんが聞き返しました。
「別の人間になるとか、頭が悪くなるとか」
と私が言うと、お婆さんがカラカラ笑いました。
「その目だって誰のものかわからないでしょう。それにたまたま同じ色だっただけで、青くなることもあるのよ?」
私はぎょっとして
「でも子供がやるものですよね?」
とさらに聞きました。
「そうよ、だから安全よ」
「いや、そうじゃなくて」
「ああ、今の子、あんまり自分のもとの見た目に執着ないみたいなのよね」
って。
――戸井さんは「よかったらどうぞ」と5枚の紙きれを置いて帰っていった。
先月、近所の駄菓子屋さんの前に新しいガチャガチャが設置されたんですよ。子供が集まっていたから気づきました。子供たちは出てきたカプセルから紙を出すと、それを皆でのぞき込んで何やら一喜一憂し、その紙を駄菓子屋にもっていっていました。たぶん商品名が書いてあるのだろうと私は思いました。
店の中で駄菓子と交換してもらうシステムなのかと。さすがにこの年で子供たちに混ざるのも気が引けたので、なかなか回しに行けなかったのですが、ある日、子供が飽きたのか、たまたまなのか誰もいないときに駄菓子屋の前を通りました。私はわくわくしながらガチャガチャの前に立ちました。本体には「1回100円」「商品はお店で交換」と書かれているだけです。中のカプセルも真っ黒で中身がわかりません。まあ、駄菓子屋の前に置いてあるのだから菓子か玩具なんだろう。そんな軽い気持ちで100円を投じました。
ハンドルを回して出てきたカプセルを開けると小さな紙切れ。さて何が当たったのかとのぞき込むと……「目」と書いてありました。そういう玩具だろうかととりあえず店のカウンターに座っているお婆さんに渡しました。駄菓子屋は子供の頃きたときのまま、少し陳列してある駄菓子の装丁が変わっているくらいで懐かしさを覚えました。きょろきょろしているとお婆さんはニコニコ笑いながら、「目、目ね」と呟きました。
その瞬間ガツンと頭を殴られるような感覚がして、かけていた眼鏡が床に叩きつけられました。すぐ振り向いたのに誰も居ません。コンクリートむき出しの床でレンズが砕けていました。お婆さんはすぐに箒と塵取りを持ってきました。
「まあ、いいじゃない。もういらないんだから」
といわれて初めて、視界が良好なことに気付きました。今まで眼鏡無しだと1m先もはっきり見えなかったのに。僕がガチャで当てた「目」は本物の、しかも視力の良い「目」だったんです。なんか興奮してしまって再度5回ガチャガチャを回しました。「髪」「爪」「眉毛」「小指」、そして「脳」の紙が当たりました。それをまた婆さんに交換をお願いしましたが、「脳」だけは先に
「これ、変なことにはならないよね」
と思わず確認していました。
「変なことって?」
とお婆さんが聞き返しました。
「別の人間になるとか、頭が悪くなるとか」
と私が言うと、お婆さんがカラカラ笑いました。
「その目だって誰のものかわからないでしょう。それにたまたま同じ色だっただけで、青くなることもあるのよ?」
私はぎょっとして
「でも子供がやるものですよね?」
とさらに聞きました。
「そうよ、だから安全よ」
「いや、そうじゃなくて」
「ああ、今の子、あんまり自分のもとの見た目に執着ないみたいなのよね」
って。
――戸井さんは「よかったらどうぞ」と5枚の紙きれを置いて帰っていった。
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