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№58 白い腕
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――篠田さんは大学生くらいに見えたが着物をきっちりと着こなしていた。
呉服屋なんですよ。実家が。だから着付けも当たり前のようにしてますね。歴史のある家なので物心ついた頃から婿を取れって言われていました。私もそのつもりでした。妹も一人いますが、私が長女だったので。
店構え自体とても古く、よくおかしなモノを見ました。母も見える人でしたが、否定的で「絶対見たというそぶりをするな」と言われていました。他の人が見えないものを見たといえば狂人扱いされるし、見えたモノも近づいてきやすくなるとか。
たいていは無視できたのですが、あれだけはなぜか無視できませんでした。店の衣桁にかけた着物からすらっと伸びた白い腕。とても綺麗だったんです。ひらひらと柔らかく手首を動かして私を招いていました。ちょっとくらい大丈夫だろうと近づいた瞬間、ふわっとその着物が舞い上がり、私にかぶさりました。あっと言う間もなく真っ暗になりました。
驚きましたがすぐに着物を払いのけました。いつもよりも店が明るく感じ、まぶしさで目を細めていると女性の悲鳴が上がりました。
そこにはさっきまでいなかった中年の女性と妹がいました。妹は見たことがない洋服を着ていました。妹にその方はどなたかと尋ねると、妹は私だと中年女性が答えます。確かに妹によく似ていました。そして妹と思った同じくらいの年の女の子は、よく見ると妹に似た別の子でした。
わかってもらえないかもしれませんが、着物がかぶさってから私がはぎとるまでの間に20年以上たっていたんです。私が感じたままで言えば、そう言うことです。
ただ妹が言うには、私は店から突然消え、行方不明になり、20年を経てまた突然、店に現れたのです。年を取らない私を見て妹は混乱したようですが、私もまた混乱していました。妹の、妹によく似た娘だけが冷静に私たちの話をまとめてくれました。本当に聡明な子です。
ただ、やはり20年も経つと事情はいろいろ変わっていました。私の居場所はもうあの家にはなかったのです。それに行方不明になっていて、さらに年を取らずに帰ってきたなんて誰が信じるでしょう。
あなたのことは妹の娘からききました。大学で噂になっているそうですよ。私の話ならきっと買い取ってくれるって。遠回りにその金を持って出て行けと言われたんですね。
――そして謝礼を受け取り、封筒の中身を興味深そうに眺めた後、軽やかに去っていった。
呉服屋なんですよ。実家が。だから着付けも当たり前のようにしてますね。歴史のある家なので物心ついた頃から婿を取れって言われていました。私もそのつもりでした。妹も一人いますが、私が長女だったので。
店構え自体とても古く、よくおかしなモノを見ました。母も見える人でしたが、否定的で「絶対見たというそぶりをするな」と言われていました。他の人が見えないものを見たといえば狂人扱いされるし、見えたモノも近づいてきやすくなるとか。
たいていは無視できたのですが、あれだけはなぜか無視できませんでした。店の衣桁にかけた着物からすらっと伸びた白い腕。とても綺麗だったんです。ひらひらと柔らかく手首を動かして私を招いていました。ちょっとくらい大丈夫だろうと近づいた瞬間、ふわっとその着物が舞い上がり、私にかぶさりました。あっと言う間もなく真っ暗になりました。
驚きましたがすぐに着物を払いのけました。いつもよりも店が明るく感じ、まぶしさで目を細めていると女性の悲鳴が上がりました。
そこにはさっきまでいなかった中年の女性と妹がいました。妹は見たことがない洋服を着ていました。妹にその方はどなたかと尋ねると、妹は私だと中年女性が答えます。確かに妹によく似ていました。そして妹と思った同じくらいの年の女の子は、よく見ると妹に似た別の子でした。
わかってもらえないかもしれませんが、着物がかぶさってから私がはぎとるまでの間に20年以上たっていたんです。私が感じたままで言えば、そう言うことです。
ただ妹が言うには、私は店から突然消え、行方不明になり、20年を経てまた突然、店に現れたのです。年を取らない私を見て妹は混乱したようですが、私もまた混乱していました。妹の、妹によく似た娘だけが冷静に私たちの話をまとめてくれました。本当に聡明な子です。
ただ、やはり20年も経つと事情はいろいろ変わっていました。私の居場所はもうあの家にはなかったのです。それに行方不明になっていて、さらに年を取らずに帰ってきたなんて誰が信じるでしょう。
あなたのことは妹の娘からききました。大学で噂になっているそうですよ。私の話ならきっと買い取ってくれるって。遠回りにその金を持って出て行けと言われたんですね。
――そして謝礼を受け取り、封筒の中身を興味深そうに眺めた後、軽やかに去っていった。
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