怪談レポート

№49 兄の嫁

 兄の結婚式の時の写真に写っていました。これは僕が取った写真の一枚です。これだけ、花嫁の顔が違う。こっちの同じ結婚式で撮った写真と比べてもらえばわかります。ドレスやアクセサリーは同じなのに、顔が違うんです。

　なんかすごく嫌な気がして、両親に最初に見せました。両親はやれ光の加減だ、角度の問題だと言いつつも、写真をデータごと消しておけといいました。兄やお嫁さんには言うなって。確かにおかしな憶測をされても嫌だし――兄は決して浮気するような人ではありませんが――せっかくの結婚式で、どんな理由であれ嫌な気分を残すことはないと僕も納得してデータを消しました。この写真は両親に見せるときにプリントした一枚で、処分したつもりでしたが箪笥の底から出てきました。

　兄夫婦は結局５年足らずで離婚しました。子供はいませんでしたが、それが原因ではなく普通に性格の不一致ということになっています。
 というのも二人とも詳細は語ってくれなくて、ただ二人で離婚しましたという事後報告だけもらいました。それから３年たちました。元嫁さんの方は今どうしているか知りませんが、兄は近々再婚する予定です。離婚後に出会った女性だそうです。
　少し元嫁さんと似た感じの人でしたが、僕も両親も何も言いませんでした。まあ、兄のタイプなんだなと。で、顔合わせのため両家で食事をして僕はまた写真を撮りました。それがこの写真です。そうです、結婚式の写真の女の人と同じ顔なんです。でも、同じ日に撮った写真を見比べてください。全然違います。

　兄には写真を見せていません。実は実家に置きっぱなしの兄の卒業アルバムやデジカメのデータをのぞいたことがあります。そこにいくつかの写真にその女が映っていました。でもおかしいんですよ。集合写真にはいないのに、スナップ写真のようなものには映っている。

　兄はいつから写真の女に付きまとわれているのでしょうか？　両親は知っているのでしょうか？　兄の離婚もこの女の仕業なんでしょうか？　じゃあ、今回の結婚も……。

　この写真は２枚ともあなたに差し上げます。好きに処分してもらったかまいません。

――そう言って鵜飼さんは帰っていった。

――私の手元には顔の部分がぽっかりと穴が開いたように黒い女性の写真が残った。