怪談レポート

久世空気

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№48 廃墟の洋館

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 後にも先にも肝試しをしたのはそれきりです。

――石崎さんはぽつぽつと話し始めた。

 大学の時のことです。友達の車でよく遊びに出かけていました。
 車を持った友達を飯田、もう一人の友達を岩井とします。ドライブをして夜も遅くなったときに、私はふと幽霊がいると噂されている廃墟の洋館を思いだしました。そのことを話すと飯田は「幽霊なんかいるわけないだろ」と言いつつ面白がり、岩井は怖がりらしく絶対行きたくないとごねましたが、ハンドルを握っているのは飯田だったため、そのまま廃墟に向かうことになりました。

 廃墟につくとさすがに諦めが付いたのか岩井もおずおずとついてきました。敷地をレンガの塀がぐるっと囲み、崩れ落ちた門を通ると石階段の上に二階建ての洋館。庭は背の高い草がうっそうと茂っています。扉は鍵がさびてしまったのか少し力を加えると簡単に開きました。
 懐中電灯とスマホのライトで照らすと家の中は砂埃が積もっているものの荒らされた様子はなく、比較的きれいな廃墟といえました。

「おい、地下室があるんじゃないか?」
 と飯田が指した先には、地下に降りる階段があります。しかし私が聞いた噂では幽霊は2階に現れるとのことでした。なので地下に行きたい飯田は地下に、私と「地下室なんて怖すぎる」と半泣きの岩井は2階に、二手に分かれて探索することになりました。

 2階は月の光が差し込み少し幻想的に廃墟の風景を浮かびあがらせていました。

「女の幽霊がいるらしい」
 と私が言いながら振り返ると、そこに岩井がいません。階段を上がったところは見ていたんですが。まさか踏み外したのかと急ぎ階下に戻りましたがやはりいません。急に気味が悪くなりました。古い建物で歩くたびにギシギシと床が鳴るのに、岩井が落ちた音も降りた音もしなかったのです。
 地下にいるはずの飯田に階段の上から声を掛けましたが返事はなく、それどころか階段に落ちた砂埃には足跡一つついていません。
 館の中はしんと静まり返っています。そこに私が一人。耐え切れませんでした。私は館を飛び出し転がるように、両脇に伸びる繁みの闇も見ないように一目散に石階段を駆け下りました。すると飯田の車がエンジンをかけていました。中に驚いた顔の二人がいます。
 助かったと手を振ると車は急発進をしました。あわてて車の前に飛び出し二人を引き留めました。なぜ置いていこうとするんだと抗議しましたが、二人は一体いつ車から降りたんだと聞き返してきました。
 彼らが言うには廃墟についたとたん、後部座席にいた私がいなくなっていたんだそうです。
 当然その後私たちは言葉少なに帰りました。彼らとは疎遠になっています。当然ですよね。
 でも、私が一緒に肝試しをした彼らは……誰だったんでしょうか?
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