怪談レポート

久世空気

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№35 お借りします

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 最初は知らない人からのメールでした。はい、携帯電話の方に。夫が裸でベッドに横たわっている写真が添付されていました。件名はなく、本文には「少しお借りします」とだけ書かれていました。私は怒るとか、悲しむとかいう感情はなく、ただ「めんどくさい女と浮気したんだな」と若干あきれましたが特に関心は抱きませんでした。

 もともと愛し合って結婚したんじゃないんです。私は私の将来の安泰のため、夫は規則が少ない家政婦が欲しかっただけ。もちろんお互いそんな内心を隠して結婚しましたよ。でも一緒に居るうちに透けて見えてくるんですよ。それでも不都合はないのでそのまま結婚生活を続けました。

 夫はそのメールが来た日、突然上司に飲みに誘われたと少し酒気を帯びて帰ってきました。
 また数日して同じアドレスからメールがありました。同じように夫がベッドに横たわる写真と、今度は本文に「また少し借りました」と書いてありました。その日もやはり夫は同じような言い訳をして遅く帰ってきたので、私は馬鹿々々しくなって
「本当のことを言えばいいのに」
 と言いました。
 私に嘘を言う理由がわかりませんでしたし、下品なメールを受け取るのも気分が悪かったので。
 しかし夫は
「なんのこと?」
 とキョトンとしました。
「恋人が出来たんでしょ?」
 と確認のつもりで尋ねました。すると夫は笑って「君以外の女性は目に入らないよ」と私を抱きしめたのです。そんなことを言う男ではなかったので面喰いました。

 また数日してメールがありました。夫が横になっている写真と本文に「またお借りしました。あと数回で終わります」と。3枚の写真を見比べたらどれも裸の夫を同じ角度から撮ったものです。場所はよくわかりません。ホテルではないようです。だいぶ殺風景でした。でもオフィスでも誰かの住む部屋でもない……壁とかはカラフルなんですがベッド以外の家具や窓なんかも見えないんですよ。メールのとおり数回写真が送られてきました。
 そのたびに夫が別人のように変化していきました。いったい何があったのか、聞いても首を傾げるだけです。もうメールも来ませんし、思い切って返信をしてみましたが宛先不明で戻ってきました。

――怖くないんですか? と私は話し終わって茶を飲む茂木さんに聞いた。

 怖い? 全然。私は今の私に優しい夫が大好きなんですよ。

――茂木さんがそう言うと、それまで彼女の隣で静かに座っていた男が、その言葉に反応するかのように口だけで笑って見せた。
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