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№28 クレーム
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ファミレスでパートをしていました。週に3回程度、夫の扶養の範囲内で。仕事は給仕です。
それほど立地はよくなかったのですが、どこにでもあるチェーン店のためかそこそこお客さんは入っていました。常連客も多かったです。常連が多いということは、大きな声では言えませんが、変な客も多いということです。
そのお客さんは入店時はとても感じのいい好々爺なんですが、店を出て家に帰ってから電話をしてくるんです。クレームの電話を。あれが不味かったとか、あの店員の態度が悪かったとか。
最初こそ店員は皆、顔色変えて謝って本社に連絡して社員に怒られてと大騒ぎだったんです。でも次来店されたときご機嫌で、また家に帰ってからクレームの電話。
それが何回も繰り返すと、これはおかしいとなるわけです。クレームも内容は大して変わらず、ただ怒りたいだけみたいなんですよ。本社もそれに気付いてクレームの報告もそれに関しての注意はなくなりました。地元に住んでいるパートが言うには、アパートに独居のお爺さんのようでした。
そう知ってしまうとクレームの電話も怖くなくなり、お爺さんが帰った後電話が鳴ると「誰がヘルパーする?」みたいな会話になってました。寂しいのだろう、10分ほど相手をしてやるかって感じで。もちろんそんな本心は出さずに電話口では平身低頭謝っていました。
そのお爺さんが脳卒中で倒れ、亡くなりました。これも地元のパートの情報です。ファミレスから帰る途中に倒れたそうです。
皆で「店内で倒れなくてよかったね」と話していたら電話が鳴りました。私が出ました。「さっきそこで定食食べたものだけどね」それはそのお爺さんと同じ口調でした。「あの魚、生焼けだったぞ! 腹壊したらどうしてくれるんだ!」私はパニックになってしまい「え」とか「あ」しか言えなかったので、何か深刻なトラブルかと思った店長が代わってくれました。店長は電話の声にうなずきながらだんだん険しい顔になり「ふざけるのもいい加減にしろ!」と怒鳴って電話を切りました。店長はお爺さんのフリをしたいたずらだと思ったようです。
しかしその電話はお爺さんの来店頻度と同じくらいの頻度でかかってきました。私たちは生前と変わらず謝っていました。謝ってたら満足してすぐ終わるので。
でも店長はむきになっていたのかその電話に当たると怒鳴り散らしていましたね。そしてだんだんと体調を崩すようになって、そのせいで大きなミスを犯したりして店も潰れてしまいました。
生きてようが死んでようが適当にあしらっておけば、今でも店はあったと思うですけどね。
――藤川さんは残念そうにため息をついた。
それほど立地はよくなかったのですが、どこにでもあるチェーン店のためかそこそこお客さんは入っていました。常連客も多かったです。常連が多いということは、大きな声では言えませんが、変な客も多いということです。
そのお客さんは入店時はとても感じのいい好々爺なんですが、店を出て家に帰ってから電話をしてくるんです。クレームの電話を。あれが不味かったとか、あの店員の態度が悪かったとか。
最初こそ店員は皆、顔色変えて謝って本社に連絡して社員に怒られてと大騒ぎだったんです。でも次来店されたときご機嫌で、また家に帰ってからクレームの電話。
それが何回も繰り返すと、これはおかしいとなるわけです。クレームも内容は大して変わらず、ただ怒りたいだけみたいなんですよ。本社もそれに気付いてクレームの報告もそれに関しての注意はなくなりました。地元に住んでいるパートが言うには、アパートに独居のお爺さんのようでした。
そう知ってしまうとクレームの電話も怖くなくなり、お爺さんが帰った後電話が鳴ると「誰がヘルパーする?」みたいな会話になってました。寂しいのだろう、10分ほど相手をしてやるかって感じで。もちろんそんな本心は出さずに電話口では平身低頭謝っていました。
そのお爺さんが脳卒中で倒れ、亡くなりました。これも地元のパートの情報です。ファミレスから帰る途中に倒れたそうです。
皆で「店内で倒れなくてよかったね」と話していたら電話が鳴りました。私が出ました。「さっきそこで定食食べたものだけどね」それはそのお爺さんと同じ口調でした。「あの魚、生焼けだったぞ! 腹壊したらどうしてくれるんだ!」私はパニックになってしまい「え」とか「あ」しか言えなかったので、何か深刻なトラブルかと思った店長が代わってくれました。店長は電話の声にうなずきながらだんだん険しい顔になり「ふざけるのもいい加減にしろ!」と怒鳴って電話を切りました。店長はお爺さんのフリをしたいたずらだと思ったようです。
しかしその電話はお爺さんの来店頻度と同じくらいの頻度でかかってきました。私たちは生前と変わらず謝っていました。謝ってたら満足してすぐ終わるので。
でも店長はむきになっていたのかその電話に当たると怒鳴り散らしていましたね。そしてだんだんと体調を崩すようになって、そのせいで大きなミスを犯したりして店も潰れてしまいました。
生きてようが死んでようが適当にあしらっておけば、今でも店はあったと思うですけどね。
――藤川さんは残念そうにため息をついた。
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