15 / 254
№15 井戸の女神 別口
しおりを挟む
私の出身の村はなくなりました。その話をしたいと思います。
――早田さんは写真を一枚取り出した。
村で撮った最後の写真です。これが私。この頃はまだ村がなくなるなんて思わずやんちゃに野山を駆け回っていました。そしてこの娘。実は最近引退したあの女優なんです。びっくりしたでしょ? 全然あの頃と顔が違うんです。少子化で同じくらいの年の女の子が村にいなかったから、爺さん婆さんに可愛がられていましたが、私は高慢ちきで嫌いでしたね。私たちを田舎者だと見下していましたよ、自分も同じ村に住んでいるのにね。
その村には女神様の井戸がありました。いわゆる口承伝承で物心がついたときには皆知ってました。枯れ井戸なんですが、井戸に水が湧いたとき女神様が願いをかなえてくれるとか。んー、真偽は考えたことなかったです。七夕の織姫彦星や、クリスマスのサンタクロースみたいなものでしょう。村のシンボルというのかな。
ある時ね、その娘が井戸に泥や石を投げ込んでいるのを見てしまったんですよ。びっくりしたというか何してんだってあきれました。枯れ井戸何て用事もないし、どこの親も危ないから近づくなって躾けてましたし。
その娘が去った後、私は井戸をのぞき込みました。その娘が嫌いなカエルや何やらがいるんだと思ったんです。ですが予想と違う状況に私ははっとしました。水が湧いていたのです。願い事とかとっさに思い浮かばない物ですね。ただ滾々と水が湧いていてきれいだなと見とれていました。そして、これは初めて人に言うことですが、水の底から人が浮き上がってきたのです。一瞬さっきの娘が突き落とした人が浮いてきたのかと思いましたが、それはその娘自身でした。その娘は私を見上げにらんでいたのです。
それからの記憶はあいまいです。ただ高熱を出し、一週間寝込みました。たったそれだけの短い間に村で死人が相次いだようです。それも女性ばかり。その娘の親は娘が心配になったのか早々に引っ越ししました。そして村がなくなった後、あの娘が女優デビューしたのです。初めてテレビでその顔を見たとき整形したのかと思うほど美人になっていました。そして見るたびに美しくなっていきました。もしかして、彼女は女神様の顔を井戸の願いで奪ったのかもしれません。
井戸? ありますよ、まだ。ええ、村はなくなりましたが代々の土地をいまだに管理している元村人は結構いますよ。畑はあるし。井戸は危険がないように蓋をしています。一見しただけじゃわかりません。
そうそう、不思議なんですが彼女が引越しした後、何度も村を徘徊している姿をみたという人がいるんですよ。結構最近まで昔の顔の彼女の目撃談はあったんですけど、本物が引退してからぱたりとそんな話は聞かなくなりましたね。
――早田さんは写真を一枚取り出した。
村で撮った最後の写真です。これが私。この頃はまだ村がなくなるなんて思わずやんちゃに野山を駆け回っていました。そしてこの娘。実は最近引退したあの女優なんです。びっくりしたでしょ? 全然あの頃と顔が違うんです。少子化で同じくらいの年の女の子が村にいなかったから、爺さん婆さんに可愛がられていましたが、私は高慢ちきで嫌いでしたね。私たちを田舎者だと見下していましたよ、自分も同じ村に住んでいるのにね。
その村には女神様の井戸がありました。いわゆる口承伝承で物心がついたときには皆知ってました。枯れ井戸なんですが、井戸に水が湧いたとき女神様が願いをかなえてくれるとか。んー、真偽は考えたことなかったです。七夕の織姫彦星や、クリスマスのサンタクロースみたいなものでしょう。村のシンボルというのかな。
ある時ね、その娘が井戸に泥や石を投げ込んでいるのを見てしまったんですよ。びっくりしたというか何してんだってあきれました。枯れ井戸何て用事もないし、どこの親も危ないから近づくなって躾けてましたし。
その娘が去った後、私は井戸をのぞき込みました。その娘が嫌いなカエルや何やらがいるんだと思ったんです。ですが予想と違う状況に私ははっとしました。水が湧いていたのです。願い事とかとっさに思い浮かばない物ですね。ただ滾々と水が湧いていてきれいだなと見とれていました。そして、これは初めて人に言うことですが、水の底から人が浮き上がってきたのです。一瞬さっきの娘が突き落とした人が浮いてきたのかと思いましたが、それはその娘自身でした。その娘は私を見上げにらんでいたのです。
それからの記憶はあいまいです。ただ高熱を出し、一週間寝込みました。たったそれだけの短い間に村で死人が相次いだようです。それも女性ばかり。その娘の親は娘が心配になったのか早々に引っ越ししました。そして村がなくなった後、あの娘が女優デビューしたのです。初めてテレビでその顔を見たとき整形したのかと思うほど美人になっていました。そして見るたびに美しくなっていきました。もしかして、彼女は女神様の顔を井戸の願いで奪ったのかもしれません。
井戸? ありますよ、まだ。ええ、村はなくなりましたが代々の土地をいまだに管理している元村人は結構いますよ。畑はあるし。井戸は危険がないように蓋をしています。一見しただけじゃわかりません。
そうそう、不思議なんですが彼女が引越しした後、何度も村を徘徊している姿をみたという人がいるんですよ。結構最近まで昔の顔の彼女の目撃談はあったんですけど、本物が引退してからぱたりとそんな話は聞かなくなりましたね。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
追っかけ
山吹
ホラー
小説を書いてみよう!という流れになって友達にどんなジャンルにしたらいいか聞いたらホラーがいいと言われたので生まれた作品です。ご愛読ありがとうございました。先生の次回作にご期待ください。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる