5 / 254
№5 夜の騒音
しおりを挟む
大田と申します。正直誰にも話せない内容なので、もう、ここですべて話して忘れてしまおうと思っています。……引っ越しも考えていて……あ、そうですね。順番に話していきますね。
私は父と二人暮らしでした。母は私が離婚して出戻ってきてすぐに他界しました。老衰です。
私、恥かきっ子なんです。最後に母の介護ができたことはとても嬉しかったですよ。母は徐々に体の機能が停止していくような、きれいな死に方でした。最期までニコニコ笑ってて……。
それで私、介護を甘く見ちゃってたんです。父のことももちろん看取るつもりだったのですが、父は認知症で突然切れて暴れて手が付けられなくなったり、大人しくしていると思えば部屋の隅で大便を……すみません。とにかく母と正反対でした。それでも機嫌のいい時はあったし、大好きな父なので世話をしていました。
でも事態がさらに悪くなることが起きたのです。ある夜からうちの周辺をバイクの集団が大きな音を立てて走り回るようになりました。暴走族……というやつですね。
最初は遠くで聞こえたエンジン音が近くで聞こえるようになってきたころ、父がそれに対して激しく憤慨するようになりました。私が止めても凄い力で振り切って走ってバイクを追いかけます。暴走族の男たちはパジャマでギャーギャー叫ぶ老人を見て面白がつて……直接に暴力は振るわれませんでしたが、父をあおってからかったり、こけさせたり。わざとエンジンを切ってうちの前に集合して塀に落書きされたり……。私はそんな集団が怖くて父を助けに外に出ることもできませんでした。
昼の外出まで躊躇するようになった頃、ぴたっと彼らの来訪がやみました。父もその間はとても穏やかで私はほっとしました。
しかし数日後、思い出したかのように家の外が騒々しくなりました。その時うつらうつらと眠りかけていた父がはっと起き出し「あいつらだ!」と飛び出しました。止める間もありません。
思わず追って玄関から外に出ましたが、そこは真っ暗でした。バイクのライトどころか街灯すらありません。そして騒音、暴走族のエンジン音やざわめきではないんです。獣の唸るような声と遠吠えのような声、地響きのような低い音が何重にも重なり合った、聞いたことのない音。よく目を凝らすと家の前の道路を大きな黒い影が蠢きながら進んでいます。体が大きい様々な生き物が重なり合いながらゆっくりと同じ方向に進んでいます。
父の姿はその影の中に消えていきました。私は恐ろしくなって家に帰り布団をかぶってがたがた朝まで震えていました。父はそれ以降帰ってきません。たぶん、もう二度と帰ってきません。
――太田さんは怪談の謝礼を受け取ると振り返らずに去っていった。
私は父と二人暮らしでした。母は私が離婚して出戻ってきてすぐに他界しました。老衰です。
私、恥かきっ子なんです。最後に母の介護ができたことはとても嬉しかったですよ。母は徐々に体の機能が停止していくような、きれいな死に方でした。最期までニコニコ笑ってて……。
それで私、介護を甘く見ちゃってたんです。父のことももちろん看取るつもりだったのですが、父は認知症で突然切れて暴れて手が付けられなくなったり、大人しくしていると思えば部屋の隅で大便を……すみません。とにかく母と正反対でした。それでも機嫌のいい時はあったし、大好きな父なので世話をしていました。
でも事態がさらに悪くなることが起きたのです。ある夜からうちの周辺をバイクの集団が大きな音を立てて走り回るようになりました。暴走族……というやつですね。
最初は遠くで聞こえたエンジン音が近くで聞こえるようになってきたころ、父がそれに対して激しく憤慨するようになりました。私が止めても凄い力で振り切って走ってバイクを追いかけます。暴走族の男たちはパジャマでギャーギャー叫ぶ老人を見て面白がつて……直接に暴力は振るわれませんでしたが、父をあおってからかったり、こけさせたり。わざとエンジンを切ってうちの前に集合して塀に落書きされたり……。私はそんな集団が怖くて父を助けに外に出ることもできませんでした。
昼の外出まで躊躇するようになった頃、ぴたっと彼らの来訪がやみました。父もその間はとても穏やかで私はほっとしました。
しかし数日後、思い出したかのように家の外が騒々しくなりました。その時うつらうつらと眠りかけていた父がはっと起き出し「あいつらだ!」と飛び出しました。止める間もありません。
思わず追って玄関から外に出ましたが、そこは真っ暗でした。バイクのライトどころか街灯すらありません。そして騒音、暴走族のエンジン音やざわめきではないんです。獣の唸るような声と遠吠えのような声、地響きのような低い音が何重にも重なり合った、聞いたことのない音。よく目を凝らすと家の前の道路を大きな黒い影が蠢きながら進んでいます。体が大きい様々な生き物が重なり合いながらゆっくりと同じ方向に進んでいます。
父の姿はその影の中に消えていきました。私は恐ろしくなって家に帰り布団をかぶってがたがた朝まで震えていました。父はそれ以降帰ってきません。たぶん、もう二度と帰ってきません。
――太田さんは怪談の謝礼を受け取ると振り返らずに去っていった。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。



奇妙な家
376219206@qq.com
ホラー
運転手なしのバスは、呪われた人々を乗せて、奇妙な黒い家へと向かった...その奇妙な家には、血で染まったドアがあった。呪われた人は、時折、血の門の向こうの恐ろしい世界に強制的に引きずり込まれ、恐ろしい出来事を成し遂げることになる... 寧秋水は奇怪な家で次々と恐ろしく奇妙な物語を経験し、やっとのことで逃げ延びて生き残ったが、すべてが想像とは全く違っていた... 奇怪な家は呪いではなく、... —— 「もう夜も遅いよ、友よ、奇怪な家に座ってくれ。ここには火鉢がある。ところで、この話を聞いてくれ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる