双子は神隠しから逃れたい!~変人な姉と腹黒な妹の非日常2人暮らしwith時々神~

大柳 律

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原始・古代

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12月4日(火) 朝 曇り 最高気温23℃

 ナレーション:「只今より【劇団おざ】の単独早朝公演、『何度目かの再会』を行います。お手持ちのピザトーストはそのまま召し上がって下さっても構いませんが、私語はご遠慮下さい」

 「えっ!何っ!?ちょっ…!あーちっ…」

 ブーーーーーーーッ!【ブザーの音】

 ガララララッ!【引き戸を開けた音】


 ミミ:「買い物も済んだし、のんびり帰ー…」
 効果音:ゴリッ!
 トム:「こちらを向かずに、大人しく従って貰おうか」
 ミミ:「…分かったわ」
 トム:「良し、良い子だ。そのまま真っ直ぐ目の前のカフェに入るんだ」
 ミミ:「……トム、何のつもり?」

 ナレーション:「ミミは肩甲骨あたりに思い切りめり込んだ、トムの人差し指の痛みを根性で堪え、視線だけを後ろに向けつつ気丈に返した」

 トム:「ま、ちょっと話したいことがあってね。他でもないミミにね」
 ミミ:「そう……。でも、先に言っとくけど…」

 ナレーション:「そう言うと同時にミミは大きく一歩を踏み出し、スカートをふわりと広げながらトムの方に向き直った。そして、後ろ手に手を組みながら少し前傾姿勢になり、勝ち気な表情を浮かべた上目遣いで口を開いた」

 ミミ:「連帯保証人にはならないわよ」
 トム:「HAHAッ!おー怖い怖い」

 ナレーション:「トムは出会った頃から少しも変わらぬ親友と、この温かい関係がいつまでも続けば良いなと心から思った。そして、いつか必ず来る別れを今一時は考えぬように、殊更明るく笑い返すのであった」

 パチパチパチパチ【拍手の音】

 ナレーション:「以上を持ちまして、劇団おざの公演を終了させていただきます。ご静聴誠にありがとうございました。お帰りの際はお荷物等をお忘れなさいませんようお気をつけ下さいませ。出演・演出・脚本、小澤麻来。ブザーの音、小澤麻来。ナレーション、小澤麻ー…」

 「いやいや、最後まで言わせないから!全部あーちじゃん!」
 「ふへっ」

 かかったな。
 絶対みーちはツッコミたくて仕方がなくなると思っていた。
 うちの思惑通りの反応をしてくれたもんだから、口に人差し指の横腹をあてつつ悪人風に笑ってしまった。
 これも全ては、いつかの紫のプリーツスカートを履くだけではなく、メイクをバッチリしてから登場した甲斐があったと言うもの。ビューラーを挟んだ時に睫毛が2本抜けちゃった代償を払った価値があるわー。麻来、報われました。
 これ以上無いってくらいの満足感に満たされる程寸劇も成功したし、スカートから部屋着のスウェットに履き替え直して朝ごはんを食べようと引き戸に手を掛けたところで、すかさずストップがかかってしまった。…そうは問屋が卸さないってか。
 
 「で、結局なんなの?」

 人差し指1本のみでは飽きたらず、右手の指全部で食卓をカッカッカッカと強めに叩きながら据わりきった目で聞かれた。指痛めるぞ。
 しかも、あろうことか聞き捨てならない発言!それに対して、つい大きい声で言い返してしまうのは自然の摂理。

 「もーっ!折角良い気分で舞台袖に引っ込もうとしてたのにー。そんでもって、メッセージ伝わって無かったんかい!」
 「何、勝手に観客にされた私に憤ってんのさ。責めるべきなのはあーちのやっすい演技力と台本のチープさでしょ。[金の切れ目が縁の切れ目]ってしか分かんなかったから!」
 「なんだとうっ!?」

 アンビリーバボー。シンジラレナイだよ。況してや即反論してくるし。
 思わず語尾が『~ですぅ』な、国民的アニメの男児の父親が驚いた時と似た反応をしてしまう程の衝撃だった。まさに、えぇ~っだよ。
 確かに連帯保証人なんてなるもんじゃないよ?でもこの台詞は、ミミのモデルである【一色実々】がモロ言いそうな返しだから入れただけだったのに。そもそも、出だしで伝えたい事言ってたからね!
 まぁここで再び言い争っても、獣の唸りのように『グォォッ…』と鳴り出したお腹の音が静まることは無いので、端的に・スマートに・スマイルで告げる。

 「今日は図書館に行くでしょ?で、その前でも後でも良いからお茶しよーって言いたかったのー…」
 グォォォォォッ!グォッ?【お腹の音】
 「あ、喋ってる途中でめっちゃ鳴っちゃった」
 「そんなもんスっと言えや。私の時間返せ。そしてその煩い腹の音どうにかしろ!」
 「んー。じゃあ着替えてくるわ」

 グォォォォォッ!ガラララーッ!

 みーちに大阪から鳴り物入りで東京に進出した芸人バリのツッコミをされて、ついつい口元が弛んでしまった。役者冥利につきますね。時間は返せないけど。
 いやーっ!それにしても朝から働いちゃったね。必要以上にカロリー消費しちゃったから、モーニングはインスタントのクラムチャウダーと冷凍してあるスコーンにしよう。
  
 「ふっふふーん♪」
 グォォーッ♪


*****
 
お昼過ぎ 晴れ

 
 「おー!暖かいねー!小春日和通り越して初夏ですな」
 「くるくる手を広げて回りながら話し掛けないで、身内ってバレるから」
 「喋らなくとも大体の人からバレてるから」

 広げていた腕を『ちょっと奥さん』と話しかける時のポージングに変えながら、すかさずみーちに現実を教えてあげた。
 当のみーちはピクッと眉間に一瞬皺を寄せて、物言いたげな空気をかまして来たけど、それ以上の反応は返して来なかった。とてもらしくない。が、これはひょっとしてアレなのかしら?
 服装に合わせて淑女然としようとしてるって事なの?やだ可愛い。
 
 ー時を遡ること数分前ー

 実々はお昼の釜揚げうどんに満足して、しばらく経っても機嫌が良かった。
 そしてお姉さんの麻来は、妹の事を何だかんだ分かっていたのである。

 「みーち、何着るの?」
 「えー?暖かいしパーカーにGパンで良いかなって感じ」
 「ほんとにー?」
 「何?その『ファイナルアンサー?』的な言い方…」
 「んー?別に。ただ後悔しないのかなって思っただけー」
 「女、何が言いたい」
 「ふふっ…。図書館に行くし、お茶した後にスーパーにも行くよね~?貴女はそれでも[ちょっとそこまでファッション]をしますか?って言いたい感じー」
 「……はっ!」
 「一度、わたくしめにお任せいただけますかな。ふふふっ」
 「……わっ…私の審査は厳しくてよ」

 
 みーちのツンデレ演技の後に、ボロボロの傘を突き出す少年ではなく、恭しく服を渡したのも功を奏したと思う。
 朝の寸劇のために良さそうな衣装を物色したついでに、『あ、これみーちに着せよう』と思って横に避けておいたコーディネートが見事に陽の目を見れて何より。
 ぽわんとした白のバルーン袖のハイネックのニットに、グレンチェックのライトブラウンの膝下丈のジャンパースカートを重ねて、黒タイツで締める!
 そしてダメ押しでモスグリーンのベレー帽に黒のショートブーツ!
 何処からどう見てもクラシカルな女子大生(文学部の常に広辞苑持ち歩いていそう系)の完成。
 言ってしまえば、みーちは2昔前からずっとチェックに目がないから、ある意味出来レースではあったけども、自分のプレゼンを採用されるのは嬉しいものですね。況してや、うちに対してツッコむ事を生業にしていそうな空気が緩和されているのが最高。
 斯く言ううちも、紫のスカートの上は黒のVネックニットにグレーのトライバル柄の大判ストールと紺のパンプスだから、いつもより落ち着いて見えているハズ。
 勿論、2人とも実年齢に見える事は何を着たとしても無いので、早々に諦めているのは言うまでもない。似合う服を着るのが大事。
 おまけに、いつもはペタンコな靴を履いているから早歩きになりがちなみーちも、慣れないヒール(3cm)で常人の速度になっているから、のんびりとお散歩も出来てしまう。

 散歩。
 ご機嫌に散歩…。
 ご機嫌に散歩と言えば……ハイヒールクリック!!
 ジャンプして斜めの体制になった状態で空中で両踵をカチッと合わせるアレだ!
 【ハイヒールクリック】が正式名称かは定かでは無いけど、確か……バレエ用語では【ブリゼ】だった気がする!

 キョロキョロ…

 良し、視界に入る人間は同行者のみーちだけ。
 やるか。
 今は不思議と上手く出来る気しかしない!

 「とりゃっ」
 
 とたたっ…ボスッ!

 「うわぁっ!惜しかったよぅ…ほぼ地面でクリックしちゃった。くっ…まだだ…まだ終ってないぞ…。今度は左側でクリックしー…」
 「やめい!」

 ドンッ!

 「へぶぁっ!!」

 一発良いパンチをくらっても尚、果敢に強者に挑む若者のように口許を拭うフリをしてから左に踏み込もうとしていたところを無慈悲にも後ろから体当たりをくらってしまった。不覚…。
 でも……ここで諦める訳にはいかないんだ!

 「離して!今なら綺麗に出来る気がするんだから!」

 ガシィッ!

 「なら尚更絶対離すか!てか、あーち医者にジャンプ止められてるんじゃないの!?」
 「そうだけど今は元気だもん!」
 「『だもん』じゃねーからっ!それに病気を期間限定で治して貰っただけであって、膝はそのまんまでしょ!」
 「うっ…うぅ~」

 住宅街の道路の真ん中で後ろから羽交い締めを受けても尚、ジタバタと拘束から逃れようとしながら舌戦を繰り広げるも……負けた。
 もうやらないと言う降伏の意思表示を込めて、全身の力を抜いたところでやっとみーちは手を離してくれた。大きい溜め息付きで。
 一瞬、自由の身になったからとジャンプしてしまおうかと魔が差したけど、医者に『本当にジャンプが好きって訳じゃないなら跳ぶな』と言われた台詞が過ったから踏み止まった。決してみーちが怖いからじゃない。膝に負担がかかるタックルを全力でかましてきたみーちが怖い訳ではない。
 ジャンプを本当に自分が好きかどうかの答えをまだ見付けていないし、うちの膝関節を労るために止めただけ。
 でも、ハイヒールクリックはしたい。このピュアな気持ちは、近いうちに実現しようと決めた。
 
 「ほら、普通にちゃきちゃき歩け」
 「へえ……」
 「いつの時代の下働きの返事してんの…」

 みーちに背中をぽんっと叩かれ、進むように促された。
 そうだった。図書館に行くんだったわ。
 それにしても…こんな家を出て直ぐにわちゃわちゃとやり取りするなんて、めっちゃ休日エンジョイしてるわー。
 取り敢えずもっと楽しむためにも、立ち止まっているうちの少し先を普通の速度で歩き始めたみーちを不敵な笑みを浮かべつつ競歩で抜かしに行くことにした。

 「片足のどちらかは常に地面!」

 シャカシャカシャカッー!
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