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原始・古代
幕間:多神の現鬱日記 弐
しおりを挟む○過去時間 二〇十八年十一月廿八日(水) 十日目
日本史のまとめについては【可】。
寧ろ日本史に関しては記憶が曖昧になりそうな程、その後がまさに怒濤の時間だった。
麻来よ……環壕に落ちた友を回顧する事が、今後の生き方に作用するわけが無いだろう。十年以上前に向けてやれなかった優しさを悔やまなければならない人生って何なんだ。改めて麻来の思考には恐怖の念を抱いた。
だが、本当の恐怖は人間には出せぬものであると、麻来と別れた途端に思い知ってしまった。豊受大御神様……もしかすると天照様よりも畏怖の念を抱かざるを得ない御方かもしれない。
社内を元通り以上にして下さったのは言葉には言い尽くせぬ程の感謝でいっぱいだが、何故音も無く後ろから杓文字を余の首に当てて来られたのかが未だに分からない。『あんた如き、いつでも殺れるで』と言う意思表示だったのだろうか。
気付けば献上品を持って天照様の社に参じる事が決まっていたので、今から心が落ち着かない。
そして、置いて行かれた杓文字はお返しした方が良いのか分からない。
○過去時間 二〇十八年十一月廿九日(木) 十一日目
本日で弥生時代が終了したようだ。
239年の語呂合わせが『銅鏡2、3枚下さい』であるのに対して、無理矢理だと強く感じるのは余だけでは無いと信じたい。
かと言って他の案も出せない…。『卑弥呼にサンキュー』とかか?北海道米の[きらら397]みたくなってしまったな。忘れよう。
双子は明日、ゆっくり休むのであろう。余はまだ天照様の元をお訪ねする気力を持ち合わせていないため、通常業務に没頭しようと思う。何も考えずに済むように思考を埋めてしまいたい。ううぅっ……。
○過去時間 二〇十八年十一月三○日(金) 十二日目
仕事に専念出来た。これが学問の神様である余の本来のあるべき姿だったと思う。
しかし双子の居る過去の時間に当て嵌めるのであれば昼時、豊受大御神様からのメールを拝読して日常は終わりを告げた。
麻来、実々、何故いつもと違う動きをしたぁぁぁぁぁぁっ!!
いつも通り図書館に行くだけであれば天照様と思金神様にお会いするだけで済んだんだぞ!……とも言いたくは無いが、どうして根の国の須佐之男様にまでお会いしてしまうんだ…。引きの強さが異常だろう。
豊受大御神様も豊受大御神様で、『双子ちゃん達、須佐さんにファミレスで会うたよ。ひーちゃんがホンマに怒っとるわ。ほんで、いつ来るん?』って、情報が少なすぎです!
こうなってしまったならば、保護者として詳しい話を聞かねばなるまい。腹を括って明日伺おう。
ん?確か【明日やろうは馬鹿野郎】と言う言葉があった気がするが……何事も準備が必要なんだ。だいたいの事は準備段階で運命が決まるんだっ…!
○過去時間 二〇十八年十二月朔日(土) 十三日目
余に須佐之男様についてや入金の感謝を告げる会話の機会を一切申し出もせずに、何事も無かったかのように古墳時代が始まった。神経が図太すぎる。
こちらは天照様方と忘れられぬ時間を過ごしたと言うのに…。
一、先日お借りした食器を梅鉢紋が入った今様色の薄紅の風呂敷に包み、献上品の福岡銘菓の[通りもん][博多の人][ひよ子]、そして東京銘菓として[東京バナナ][東京ひよ子]を綺麗な紙袋に慎重に入れた所で社の戸が思い切り開け放たれたことに戦慄。
二、後ろを振り返る間も無く襟首を掴まれ、荷は建角身命様が余に同情の瞳を向けつつ軽々とお持ちになられた。
三、一瞬で天照様の社の宴会場に転移。
四、目の前にいらした豊受大御神様に「あら?部屋着のまま来てまうくらい楽しみやったの?なーんてな。いきなりひーちゃんに連れて来られて吃驚したやろ?って聞いた方が正解やな。ふふっ」と、仰られて涙が滲む。
五、畏れ多くも天照様の向かいの席に、部屋着から着替える機を逃してそのまま腰を下ろす。
六、豪華な食事をいただくも、緊張で味が良く分からない。
七、食後のお茶を飲みながら、福岡と東京どちらの[ひよ子]か当てる遊びに興じる天照様と豊受大御神様を黙って見る。
八、突然、須佐之男様と双子のやり取りを瞳の色を変えながら感情に任せて天照様がお話になる。それを聞いて麻来に初めて同情する。
九、食事会が終わり、お暇する時に割鮮を漬けにしたものと、[きらら397]を手土産にいただいたことに動揺。
十、気付けば自分の社に転移させていただいていた。
※非常に内容が濃かったため列記した。
以上、とても忘れられそうに無い出来事。
これからは何時如何なる時も出来るだけ気を抜かないようにしたい。
その為にも海を舞台としたテーマパークに居る、熊のマスコットキャラクターを模したパーカーは頻繁には着ないようにする。熊耳は油断してしまうと泣きを見るから……。肌触りがモフモフかつフワフワで気に入っているが背に腹は代えられぬ。
そして結局、杓文字はどうすれば良いのか分からなかった。数あるお米の中で、[きらら397]を何故選ばれたのかも分からなかった。
*****
2018年12月2日(日) 夕方
いつも通り、業務の手を止めて日本史を確認。1248字か。
双子は入金を買い物時にしか確認しない事は既に分かっている為、もう何も言うまい。
しかし、だからと言って思春期の娘を持つ、家庭にお金を入れるだけの仕事人間の父のようだと己の事を思ってはいない。何故ならこんな薄情な娘達を育てた覚えはないからな!
「待てよ…余を信頼しているから細々と確認するのは無礼だと二人は思って?……いや、彼奴らに限ってそれは無い無い無いっ!」
ピコンッ!ピコ……ピコン?
「ん?麻来?ではなく実々…?」
自分で希望を抱き、それを自ら打ち砕いている所に通知音が、これまた聞いた事の無い音で鳴った。疑問系で。
確認しない事には対応も出来ない為、日本史のページを閉じて、メッセージを開く。どれどれ。
{実々、質問をしに行かされます……。)
{直接会うのでは無くて…なんか、あーちがいつも多神さんと会話をしている真っ白で墨汁の匂いがする世界?)
{良く分からないですが、そこでお願いします?)
「へ……?」
何を聞く気なんだ…?取り敢えず、実々の精神面を守るためにも[了承]ボタンを押す。
それにしても……嫌々なのがあからさま過ぎだろう。
前回のアイコンの表情も見ている側の胸が締め付けられるかのような表情だったのに、今回はそれを優に超えてきたじゃないか。
目は大きく開いているが光は宿っておらず、曇りに曇りきっている。それにも関わらず此方をじっと訴えかけるように見つめているから、胸が苦しくなってきた。おまけに実々の後ろに見える景色が黒ずんだ雲と枯れ木なのも気になる…。
まぁ何にしろ、実々と話す事自体は別に良い。が……
「大盃で話すのはなぁー………ハッ!」
バッ!
良かった…気のせいだった。
先日、後ろに豊受大御神様が音も無くお立ちになられていたから、今回ももしかしていらっしゃるのでは無いかと思ってしまった。
後方から何か高貴な気配がしたと思ったが、おそらく数刻前まで全身に浴びていた御威光の名残だろう。
一先ず、今は実々と話す前に英気を養うのも兼ねてご飯を炊いて漬け丼にしてしまおう。悩むのはそれからだ。
「炊飯器あったかな……?土鍋で炊くか?」
料理と言えるものをした今までした事が無いが、まぁ何とかなるか。今度こそ割鮮の味を堪能しよう。
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