29 / 37
写真の裏側②
しおりを挟む
それにしても、急に連絡がつかなくなれば武雄には心配をかけるだろう。キヨには、学校には、どのように話が伝わっているのだろうか。
このまま、九州に行くのだろうか。キヨにも会えず、武雄にも会えず。考えたら、ぞっとした。
せめてそれぞれに手紙を出そうと、悉乃は事情をしたためた。シゲに託して郵便に出してもらおうとしたが、悉乃の行動は文信にはお見通しだったようで。
「悉乃さま……申し訳ありません。旦那さまから、悉乃さまが外の方と連絡を取ることを許すなと仰せつかっておりまして」
シゲは本当に申し訳なさそうな様子ではあったが、文信の命令に反してまで悉乃の味方をするつもりはないようだった。シゲの事情も気持ちもわからないではない。文信の逆鱗に触れれば、自らが路頭に迷ってしまうのだから。シゲを責めるのはお門違いだ。
「そう。わかったわ」
悉乃は、シゲから返された手紙を受け取った。だが、このままでは終われない。
シゲに頼んでダメなら、自分でなんとかするしかない。悉乃は直接文信の部屋に行き、手紙を出させてくれと談判した。
「そんなもの、許可できるわけがないだろう。お前を外に出せないはあの男のせいだというのがまだわからんのか」
「ですが、急に消息を絶ったら不義理というものですわ」
「あの男に義理など立てる筋合いはない。それと、学校にはもう退学の意思を説明してある。鹿嶋キヨとかいう女への手紙もならぬ」
「あんまりですわ。せめてキヨさんだけでも。退学するならなおさら、学友に別れの挨拶くらいしなければそれこそ不義理ですわ」
「知ったことか」
ここで、ハイそうですかとは引き下がらない。悉乃は、考えておいた台詞を放った。
「キヨさんは、あの鹿嶋財閥のご令嬢ですのよ。友人としての縁を繋いでおくことはお父様にとっても悪い話でないと思いますけれど。残念ですわ。ろくな挨拶もせずキヨさんの前を去ったら、きっと私、嫌われてしまう……」
「か、鹿嶋財閥だと……!」
文信の目の色が変わった。悉乃は「本当ですわよ」と念を押した。文信は悔しそうに唇を噛み、しばらく考え込んだ。
「……そのキヨ殿という友人に手紙を出すことを許そう。ただし、本当に挨拶だけなのかどうか、送る前に中は確認する。いいな」
「ありがとうございます……!」
悉乃はパッと顔を綻ばせた。中を確認する、というのは厄介だが、一歩前進だ。悉乃は早速自室に戻ってペンを取った。
このまま、九州に行くのだろうか。キヨにも会えず、武雄にも会えず。考えたら、ぞっとした。
せめてそれぞれに手紙を出そうと、悉乃は事情をしたためた。シゲに託して郵便に出してもらおうとしたが、悉乃の行動は文信にはお見通しだったようで。
「悉乃さま……申し訳ありません。旦那さまから、悉乃さまが外の方と連絡を取ることを許すなと仰せつかっておりまして」
シゲは本当に申し訳なさそうな様子ではあったが、文信の命令に反してまで悉乃の味方をするつもりはないようだった。シゲの事情も気持ちもわからないではない。文信の逆鱗に触れれば、自らが路頭に迷ってしまうのだから。シゲを責めるのはお門違いだ。
「そう。わかったわ」
悉乃は、シゲから返された手紙を受け取った。だが、このままでは終われない。
シゲに頼んでダメなら、自分でなんとかするしかない。悉乃は直接文信の部屋に行き、手紙を出させてくれと談判した。
「そんなもの、許可できるわけがないだろう。お前を外に出せないはあの男のせいだというのがまだわからんのか」
「ですが、急に消息を絶ったら不義理というものですわ」
「あの男に義理など立てる筋合いはない。それと、学校にはもう退学の意思を説明してある。鹿嶋キヨとかいう女への手紙もならぬ」
「あんまりですわ。せめてキヨさんだけでも。退学するならなおさら、学友に別れの挨拶くらいしなければそれこそ不義理ですわ」
「知ったことか」
ここで、ハイそうですかとは引き下がらない。悉乃は、考えておいた台詞を放った。
「キヨさんは、あの鹿嶋財閥のご令嬢ですのよ。友人としての縁を繋いでおくことはお父様にとっても悪い話でないと思いますけれど。残念ですわ。ろくな挨拶もせずキヨさんの前を去ったら、きっと私、嫌われてしまう……」
「か、鹿嶋財閥だと……!」
文信の目の色が変わった。悉乃は「本当ですわよ」と念を押した。文信は悔しそうに唇を噛み、しばらく考え込んだ。
「……そのキヨ殿という友人に手紙を出すことを許そう。ただし、本当に挨拶だけなのかどうか、送る前に中は確認する。いいな」
「ありがとうございます……!」
悉乃はパッと顔を綻ばせた。中を確認する、というのは厄介だが、一歩前進だ。悉乃は早速自室に戻ってペンを取った。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
蘭癖高家
八島唯
歴史・時代
一八世紀末、日本では浅間山が大噴火をおこし天明の大飢饉が発生する。当時の権力者田沼意次は一〇代将軍家治の急死とともに失脚し、その後松平定信が老中首座に就任する。
遠く離れたフランスでは革命の意気が揚がる。ロシアは積極的に蝦夷地への進出を進めており、遠くない未来ヨーロッパの船が日本にやってくることが予想された。
時ここに至り、老中松平定信は消極的であるとはいえ、外国への備えを画策する。
大権現家康公の秘中の秘、後に『蘭癖高家』と呼ばれる旗本を登用することを――
※挿絵はAI作成です。
楽将伝
九情承太郎
歴史・時代
三人の天下人と、最も遊んだ楽将・金森長近(ながちか)のスチャラカ戦国物語
織田信長の親衛隊は
気楽な稼業と
きたもんだ(嘘)
戦国史上、最もブラックな職場
「織田信長の親衛隊」
そこで働きながらも、マイペースを貫く、趣味の人がいた
金森可近(ありちか)、後の長近(ながちか)
天下人さえ遊びに来る、趣味の達人の物語を、ご賞味ください!!
夢の雫~保元・平治異聞~
橘 ゆず
歴史・時代
平安時代末期。
源氏の御曹司、源義朝の乳母子、鎌田正清のもとに13才で嫁ぐことになった佳穂(かほ)。
一回りも年上の夫の、結婚後次々とあらわになった女性関係にヤキモチをやいたり、源氏の家の絶えることのない親子、兄弟の争いに巻き込まれたり……。
悩みは尽きないものの大好きな夫の側で暮らす幸せな日々。
しかし、時代は動乱の時代。
「保元」「平治」──時代を大きく動かす二つの乱に佳穂の日常も否応なく巻き込まれていく。
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)
浅葱色の桜 ―堀川通花屋町下ル
初音
歴史・時代
新選組内外の諜報活動を行う諸士調役兼監察。その頭をつとめるのは、隊内唯一の女隊士だった。
義弟の近藤勇らと上洛して早2年。主人公・さくらの活躍はまだまだ続く……!
『浅葱色の桜』https://www.alphapolis.co.jp/novel/32482980/787215527
の続編となりますが、前作を読んでいなくても大丈夫な作りにはしています。前作未読の方もぜひ。
※時代小説の雰囲気を味わっていただくため、縦組みを推奨しています。行間を詰めてありますので横組みだと読みづらいかもしれませんが、ご了承ください。
※あくまでフィクションです。実際の人物、事件には関係ありません。
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

本能のままに
揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった
もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください!
※更新は不定期になると思います。
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる