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さくらの乱入①
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廊下に跪き、さくらが深々と頭を下げていた。数歩遅れて、呆れたような顔をした使いの侍がついてきた。どうやら「待たれよー!!」の声の主らしい。
さらに、追って現れたのは山本覚馬と神保内蔵助であった。
「そなた、ハア、無礼であるぞ、ここがなんたるか……わからぬわけではあるまいな」山本が言った。
「相わかっております。無礼はもとより承知でございます。申し訳ありませんが、どうしても殿にお伝えしたき儀があり参りました」
「お主は……?」
容保が声をかけた。さくらは頭を下げたまま、名乗った。
「新選組副長助勤、島崎朔太郎と申します」
――さくら、何をする気だ……?
勇がハラハラしながら様子を見守っていると、容保が再び声をかけた。
「島崎。そうか、お主も昨年の試合に出ておったな。面を上げよ。近う寄れ」
「と、殿……!」神保が驚きの声を上げたが、容保が首を縦に振ったので、それ以上は何も言えないとばかりにその場に座り込んだ。
さくらは、勇と新八らの間まで進み出て、再び頭を下げた。
「此度の騒動、殿のお手を煩わせることになってしまい、大変申し訳ございません。ここは、この不肖、島崎朔太郎の首ひとつでお許しいただきたく存じます」
「なっ……!?」
「おい、サク……島崎、何言って……?」
新八や勇が驚いて声をかけるのをよそに、さくらはそのまま頭を下げていた。
「なぜ、そなたの首なのだ」
容保がそう尋ねるのももっともであった。勇は、成り行きに任せるべきか割って入って何かを言うべきかと考えあぐねたが、その間にもさくらは話し始める。
「この者らは皆、新選組から欠けてはならぬ者たちです。永倉たちがこのようなことをするに至るまで、近藤の行いに気づかず、諫められなかったのは」
勇は、「まさか」と思った。だが、予感は的中した。
「近藤勇の義姉である私に責任がございます」
「あね……?」
容保が面を上げよ、と続けたのでさくらは顔を上げた。山本と神保が急いでさくらの前に回り込んできて、「あっ!」と息を飲んだ。
「お主、やはり女子……!」
「そなたの顔、どこぞで見たような気がしていたが……もしや、あの時の芸妓……!?」
「二人とも、落ち着け」
容保が諫めたので、山本と神保はすごすごと引き下がり、容保の傍に大人しく座った。
「姉とは、どういうことだ」容保が尋ねた。すっかり話の矛先が変わってしまったことで、勇も新八らも拍子抜けしたような顔でさくらを見るばかりであった。
「はっ。近藤勇は、我が近藤家の跡取りとして養子に参りました。すなわち私の弟ということになります。上洛の際は、同じ苗字というのも何かと不便であろうということで、私の方が島崎朔太郎と改名致しました。本日はどの道この命ないものとして、無礼は承知ながら殿の御前でこの者らに一言二言申したいと存じます」
そう言うと、さくらは勇に向き直った。勇はなんだかもう心労で胃の腑が奇妙に動くような心地さえした。
「勇!新八たちにここまで言わせるとは情けない!私たちは確かに武士になりたいと志し、公方様の警護、京の治安維持をするべく、ここまできたのではないか!?そこに優も劣もないはずだ。お前を局長としてついてきてくれるのは新八ら含め、隊の皆がお前の人格や剣技に一目おいているからではないか。それを忘れるようでは、お前は局長失格だ!」
勇はたじろぎ、「は、はい……スミマセン」と答えるしかなかった。さくらはふんっと鼻を鳴らすと真反対に体を向けた。
「新八!左之助に、斎藤、島田、尾関に葛山まで!お前ら何をやっておるのだ!殿を巻き込んでこんなやり方……!勇に不満があるのであれば正面からぶつかればよいではないか!男のくせに情けない!百歩譲って、私に陳情したって構わなかった!私なら勇に物申したところで角も立たぬ!」
「す、すいません……」
六人は小さくなってぼそぼそと謝罪の言葉を口にした。容保も、山本も神保もぽかんとしてただただその様子を見守るだけだった。
やがてさくらは正面上座――容保の方に向き直ると、再び深々と頭を下げた。
「ご無礼を失礼致しました。再度のお願いになりますが、此度のことは私の首ひとつで収めていただき、今後とも新選組の方をどうぞよろしくお願い申し上げます」
沈黙が流れた。勇はたまらず、さくらの隣に躍り出て頭を下げた。
「いいえ、殿!此度のことはすべて私の身から出た錆でございます!切腹はこの近藤勇ひとりにお申し付けくださいませ!」
さらに、追って現れたのは山本覚馬と神保内蔵助であった。
「そなた、ハア、無礼であるぞ、ここがなんたるか……わからぬわけではあるまいな」山本が言った。
「相わかっております。無礼はもとより承知でございます。申し訳ありませんが、どうしても殿にお伝えしたき儀があり参りました」
「お主は……?」
容保が声をかけた。さくらは頭を下げたまま、名乗った。
「新選組副長助勤、島崎朔太郎と申します」
――さくら、何をする気だ……?
勇がハラハラしながら様子を見守っていると、容保が再び声をかけた。
「島崎。そうか、お主も昨年の試合に出ておったな。面を上げよ。近う寄れ」
「と、殿……!」神保が驚きの声を上げたが、容保が首を縦に振ったので、それ以上は何も言えないとばかりにその場に座り込んだ。
さくらは、勇と新八らの間まで進み出て、再び頭を下げた。
「此度の騒動、殿のお手を煩わせることになってしまい、大変申し訳ございません。ここは、この不肖、島崎朔太郎の首ひとつでお許しいただきたく存じます」
「なっ……!?」
「おい、サク……島崎、何言って……?」
新八や勇が驚いて声をかけるのをよそに、さくらはそのまま頭を下げていた。
「なぜ、そなたの首なのだ」
容保がそう尋ねるのももっともであった。勇は、成り行きに任せるべきか割って入って何かを言うべきかと考えあぐねたが、その間にもさくらは話し始める。
「この者らは皆、新選組から欠けてはならぬ者たちです。永倉たちがこのようなことをするに至るまで、近藤の行いに気づかず、諫められなかったのは」
勇は、「まさか」と思った。だが、予感は的中した。
「近藤勇の義姉である私に責任がございます」
「あね……?」
容保が面を上げよ、と続けたのでさくらは顔を上げた。山本と神保が急いでさくらの前に回り込んできて、「あっ!」と息を飲んだ。
「お主、やはり女子……!」
「そなたの顔、どこぞで見たような気がしていたが……もしや、あの時の芸妓……!?」
「二人とも、落ち着け」
容保が諫めたので、山本と神保はすごすごと引き下がり、容保の傍に大人しく座った。
「姉とは、どういうことだ」容保が尋ねた。すっかり話の矛先が変わってしまったことで、勇も新八らも拍子抜けしたような顔でさくらを見るばかりであった。
「はっ。近藤勇は、我が近藤家の跡取りとして養子に参りました。すなわち私の弟ということになります。上洛の際は、同じ苗字というのも何かと不便であろうということで、私の方が島崎朔太郎と改名致しました。本日はどの道この命ないものとして、無礼は承知ながら殿の御前でこの者らに一言二言申したいと存じます」
そう言うと、さくらは勇に向き直った。勇はなんだかもう心労で胃の腑が奇妙に動くような心地さえした。
「勇!新八たちにここまで言わせるとは情けない!私たちは確かに武士になりたいと志し、公方様の警護、京の治安維持をするべく、ここまできたのではないか!?そこに優も劣もないはずだ。お前を局長としてついてきてくれるのは新八ら含め、隊の皆がお前の人格や剣技に一目おいているからではないか。それを忘れるようでは、お前は局長失格だ!」
勇はたじろぎ、「は、はい……スミマセン」と答えるしかなかった。さくらはふんっと鼻を鳴らすと真反対に体を向けた。
「新八!左之助に、斎藤、島田、尾関に葛山まで!お前ら何をやっておるのだ!殿を巻き込んでこんなやり方……!勇に不満があるのであれば正面からぶつかればよいではないか!男のくせに情けない!百歩譲って、私に陳情したって構わなかった!私なら勇に物申したところで角も立たぬ!」
「す、すいません……」
六人は小さくなってぼそぼそと謝罪の言葉を口にした。容保も、山本も神保もぽかんとしてただただその様子を見守るだけだった。
やがてさくらは正面上座――容保の方に向き直ると、再び深々と頭を下げた。
「ご無礼を失礼致しました。再度のお願いになりますが、此度のことは私の首ひとつで収めていただき、今後とも新選組の方をどうぞよろしくお願い申し上げます」
沈黙が流れた。勇はたまらず、さくらの隣に躍り出て頭を下げた。
「いいえ、殿!此度のことはすべて私の身から出た錆でございます!切腹はこの近藤勇ひとりにお申し付けくださいませ!」
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