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外堀から③
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「下手人だと?下手人も何も、諸悪の根源はあの大和屋の主人本人だろう。山南、お主とて芹沢さんと共にあの店に乗り込んだと申していたではないか」
「ええ。もちろん、あの大和屋の行いは看過できるものではありません。ですが、火をつけて無理矢理に焼き払うというやり方はよくなかった。何の罪もない、裏手の町家まで延焼したそうですよ。死者こそ出ませんでしたが、住んでいた方は路頭に迷うことになってしまいました」
新見はぐっと唇を噛むような仕草をした。
「わかった。確かにそうだな。それならば、処断されるべきは芹沢さんだろう。主導したのはあの人。まさしく下手人。そうか。この私に協力してほしいというわけか。おおかた、弱点を教えてくれといったところか」
「いいえ」
新見の余裕ぶった発言を、歳三がピシャリと遮った。
「最初に火をつけたのは、田中さん、あんただったと、目撃した者がいる」
「なんだと?誰だそんな出鱈目をいう奴は」
「島崎だ。あの時、あんたが最初の火種を店内に放つのを、見たと言っていた」
「なっ、あんな女の言うことを信じるというのか?」
「もちろんさ」
「田中さん、いえ、新見錦さん」山南が丁寧に名前を呼んだ。
「火付けは、重罪です。今この場で、切腹していただきたい」
新見は顔面蒼白になった。
「断る、と言ったら」新見は山南を睨みつけた。
「我々で、あなたを切り伏せます」
「ほう、我々、ね。確かにな。そこにまだいるんだろう」新見は隣の部屋を顎で指した。
歳三は苦々し気に新見を見た。
酒を飲んでもこれだけ冷静でいられる新見は、ある意味では芹沢よりタチが悪い。
先に狙いを定めたのは正解だった、と思った。
襖が開き、総司と斎藤が現れた。
「こんばんは、田中さん」総司が淡々と言った。斎藤は、何も言わずにぺこりと頭を下げた。
「ふん、沖田に、斎藤。四対一とは、武士として、卑怯ではないのか」新見が言った。
「それはあくまで稽古の上の話。実際の戦では、兵の数は相手の兵より多いに越したことはない。敵の数に合わせて味方の数を調整する愚将がどこにいますか」歳三はにやりと笑った。
これを聞いた新見は立ち上がると、部屋の隅にあった自分の大小二本を取りに行った。
歳三たちは俄かに殺気を放ち、新見を睨みつける。だが、新見は可笑しそうに鼻で笑うだけであった。
「心配するな。お前たちに斬られるくらいなら、自ら腹を切った方がマシだ」
新見が手に取ったのは、短い、脇差の方であった。着物の身ごろを左右に広げ、腹を見せる。
「次は、芹沢さんか?」
尋ねられたが、誰一人縦にも横にも首を振らなかった。だが、新見にはそれで十分伝わってしまったようだった。
「自業自得、というものか。だが、あの人も私も、もともと一度は捨てる覚悟をした命。短かったが、悪くない余生だったさ」
新見は、脇差を鞘から抜いた。行燈の薄明かりが反射し、刀身がきらりと光る。
「あの人がいる壬生浪士組の舵取りも大変だが、いなくなった後の壬生浪士組も、それ以上に大変な舵取りとなるだろうよ。果たしてお前たちにそれができるのか。あの世から見守っててやるさ」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、新見は脇差を自身の腹に突き立てた。
その様を、四人は黙って見つめていた。
「ええ。もちろん、あの大和屋の行いは看過できるものではありません。ですが、火をつけて無理矢理に焼き払うというやり方はよくなかった。何の罪もない、裏手の町家まで延焼したそうですよ。死者こそ出ませんでしたが、住んでいた方は路頭に迷うことになってしまいました」
新見はぐっと唇を噛むような仕草をした。
「わかった。確かにそうだな。それならば、処断されるべきは芹沢さんだろう。主導したのはあの人。まさしく下手人。そうか。この私に協力してほしいというわけか。おおかた、弱点を教えてくれといったところか」
「いいえ」
新見の余裕ぶった発言を、歳三がピシャリと遮った。
「最初に火をつけたのは、田中さん、あんただったと、目撃した者がいる」
「なんだと?誰だそんな出鱈目をいう奴は」
「島崎だ。あの時、あんたが最初の火種を店内に放つのを、見たと言っていた」
「なっ、あんな女の言うことを信じるというのか?」
「もちろんさ」
「田中さん、いえ、新見錦さん」山南が丁寧に名前を呼んだ。
「火付けは、重罪です。今この場で、切腹していただきたい」
新見は顔面蒼白になった。
「断る、と言ったら」新見は山南を睨みつけた。
「我々で、あなたを切り伏せます」
「ほう、我々、ね。確かにな。そこにまだいるんだろう」新見は隣の部屋を顎で指した。
歳三は苦々し気に新見を見た。
酒を飲んでもこれだけ冷静でいられる新見は、ある意味では芹沢よりタチが悪い。
先に狙いを定めたのは正解だった、と思った。
襖が開き、総司と斎藤が現れた。
「こんばんは、田中さん」総司が淡々と言った。斎藤は、何も言わずにぺこりと頭を下げた。
「ふん、沖田に、斎藤。四対一とは、武士として、卑怯ではないのか」新見が言った。
「それはあくまで稽古の上の話。実際の戦では、兵の数は相手の兵より多いに越したことはない。敵の数に合わせて味方の数を調整する愚将がどこにいますか」歳三はにやりと笑った。
これを聞いた新見は立ち上がると、部屋の隅にあった自分の大小二本を取りに行った。
歳三たちは俄かに殺気を放ち、新見を睨みつける。だが、新見は可笑しそうに鼻で笑うだけであった。
「心配するな。お前たちに斬られるくらいなら、自ら腹を切った方がマシだ」
新見が手に取ったのは、短い、脇差の方であった。着物の身ごろを左右に広げ、腹を見せる。
「次は、芹沢さんか?」
尋ねられたが、誰一人縦にも横にも首を振らなかった。だが、新見にはそれで十分伝わってしまったようだった。
「自業自得、というものか。だが、あの人も私も、もともと一度は捨てる覚悟をした命。短かったが、悪くない余生だったさ」
新見は、脇差を鞘から抜いた。行燈の薄明かりが反射し、刀身がきらりと光る。
「あの人がいる壬生浪士組の舵取りも大変だが、いなくなった後の壬生浪士組も、それ以上に大変な舵取りとなるだろうよ。果たしてお前たちにそれができるのか。あの世から見守っててやるさ」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、新見は脇差を自身の腹に突き立てた。
その様を、四人は黙って見つめていた。
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