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謀略④
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そしてその日の夜、早々に獲物は罠にはまった。
まさに先般、清川を討ち損ねた時に待ちぼうけを食らっていた仏光寺通に向かい歩いていく殿内の姿を、壬生寺近辺の物陰に隠れていた斎藤と新八が発見。新八はすぐに八木邸に戻り、さくらと勇にその報を伝えた。
さくらと勇は音もなく八木邸を飛び出した。二手に別れ、さくらは仏光寺通に向かった。勇は前方から回れるよう、一本隔てた綾小路通りを全速力で走った。
万が一のために、歳三や総司らも周囲の通りに身を潜めた。
新八と分かれたあと、相手を見失わぬよう尾けていた斎藤に追いつくと、さくらは小声で声をかけた。
「斎藤」
「あれです」斎藤も小声で応え、前方の人影を指した。
なるほど殿内は、帯刀をせず、鞘ごと袋に入れて背負った旅装である。堀川通に向かっているようだ。今晩中に大津宿に入り、夜があければ仲間を集めにかかるであろうことは一目瞭然であった。歩みは、足音をなるべく立てないよう、それでいてコソコソと速い。やましいことをしている、という自覚があるから、このような歩き方なのだろう。
さくらは斎藤にこの場を離れるよう指示し、交代して殿内を少し離れた後ろから尾けた。
心臓が、早鐘のように鳴った。
これから、初めて人を斬るのだ。
まさか、不逞の浪士ではなく仲間内の暗殺がそれになるとは予想外ではあったが。
決心が鈍る前に一思いに斬りかかってしまいたい衝動に駆られたが、確実に仕留めるためには、相手が帯刀していないとはいえ、一人で向かうのは得策ではない。殿内の前方に勇が現れるまではその衝動を抑えなければいけなかった。
その勇は、どの角を曲がればぴたりと殿内の前に出られるかを思案しながら走っていた。しかし次第に前方がガヤガヤと騒がしくなってきた。堀川通が近いのだ。堀川通は夜でも比較的賑やかだ。そこまで出られては、人混みに紛れ目的の人物を見つけるのは難しくなってくる。勇は、一か八か、目の前の角を曲がった。
振り返ると、前方から人影が歩いてくるのがわかった。さらにその後ろから、もう一人。暗くて顔までは見えないが、さくらに間違いないだろう。
勇は、刀の鞘を左手でぎゅっと握り、殿内と思しき人影に近づいていった。
さくらも、前方から勇らしき人影が歩いてくるのを見とめた。今か、と思った。殿内は刀を背中に背負っているので、返り討ちに合う心配はないに等しい。だが、その大きな包みがむしろ盾の役割を果たしており、背中から斬ることは難しい。どうしたものか、と思っていると、殿内が足を止めた。
「先ほどから、なんだ。用があるなら話せばいいだろう」
尾行されていること自体は気づいていたらしい。そう言って振り返った殿内は、尾けていたのがさくらだと知り、ぎょっとした顔をした。
そして、背後からの足音に振り返ると、そこにはすでに刀を抜いた勇が立っていた。
挟み撃ちにされた格好の殿内は、おろおろとした様子でさくらと勇を交互に見ることしかできなかった。
「御免」
さくらはそれだけ言うと、抜刀した。
”対実戦”を謳い文句にした天然理心流を、人生の半分以上の時間を費やし稽古してきた。
今、初めて真剣を握り生身の人間を目の前にしている。
――ためらうな。実戦では、一瞬の隙が命取りになる。
さくらは胸の内で自分に言った。
そして、そう言うであろう父・周斎の顔が浮かんだ。
さくらは一足飛びに殿内の間合いに入り、袈裟懸けに刀を振り下ろした。
肉を断ち、骨を断つ感触。
それは今までに味わったことのない感触であった。
顔には生暖かい返り血がピシ、ピシ、と張り付いた。
同時に、背後から勇が殿内の脳天を割った。
その一瞬で息絶えた男は、その場にバタンと倒れ、ピクリとも動かなくなった。
まさに先般、清川を討ち損ねた時に待ちぼうけを食らっていた仏光寺通に向かい歩いていく殿内の姿を、壬生寺近辺の物陰に隠れていた斎藤と新八が発見。新八はすぐに八木邸に戻り、さくらと勇にその報を伝えた。
さくらと勇は音もなく八木邸を飛び出した。二手に別れ、さくらは仏光寺通に向かった。勇は前方から回れるよう、一本隔てた綾小路通りを全速力で走った。
万が一のために、歳三や総司らも周囲の通りに身を潜めた。
新八と分かれたあと、相手を見失わぬよう尾けていた斎藤に追いつくと、さくらは小声で声をかけた。
「斎藤」
「あれです」斎藤も小声で応え、前方の人影を指した。
なるほど殿内は、帯刀をせず、鞘ごと袋に入れて背負った旅装である。堀川通に向かっているようだ。今晩中に大津宿に入り、夜があければ仲間を集めにかかるであろうことは一目瞭然であった。歩みは、足音をなるべく立てないよう、それでいてコソコソと速い。やましいことをしている、という自覚があるから、このような歩き方なのだろう。
さくらは斎藤にこの場を離れるよう指示し、交代して殿内を少し離れた後ろから尾けた。
心臓が、早鐘のように鳴った。
これから、初めて人を斬るのだ。
まさか、不逞の浪士ではなく仲間内の暗殺がそれになるとは予想外ではあったが。
決心が鈍る前に一思いに斬りかかってしまいたい衝動に駆られたが、確実に仕留めるためには、相手が帯刀していないとはいえ、一人で向かうのは得策ではない。殿内の前方に勇が現れるまではその衝動を抑えなければいけなかった。
その勇は、どの角を曲がればぴたりと殿内の前に出られるかを思案しながら走っていた。しかし次第に前方がガヤガヤと騒がしくなってきた。堀川通が近いのだ。堀川通は夜でも比較的賑やかだ。そこまで出られては、人混みに紛れ目的の人物を見つけるのは難しくなってくる。勇は、一か八か、目の前の角を曲がった。
振り返ると、前方から人影が歩いてくるのがわかった。さらにその後ろから、もう一人。暗くて顔までは見えないが、さくらに間違いないだろう。
勇は、刀の鞘を左手でぎゅっと握り、殿内と思しき人影に近づいていった。
さくらも、前方から勇らしき人影が歩いてくるのを見とめた。今か、と思った。殿内は刀を背中に背負っているので、返り討ちに合う心配はないに等しい。だが、その大きな包みがむしろ盾の役割を果たしており、背中から斬ることは難しい。どうしたものか、と思っていると、殿内が足を止めた。
「先ほどから、なんだ。用があるなら話せばいいだろう」
尾行されていること自体は気づいていたらしい。そう言って振り返った殿内は、尾けていたのがさくらだと知り、ぎょっとした顔をした。
そして、背後からの足音に振り返ると、そこにはすでに刀を抜いた勇が立っていた。
挟み撃ちにされた格好の殿内は、おろおろとした様子でさくらと勇を交互に見ることしかできなかった。
「御免」
さくらはそれだけ言うと、抜刀した。
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今、初めて真剣を握り生身の人間を目の前にしている。
――ためらうな。実戦では、一瞬の隙が命取りになる。
さくらは胸の内で自分に言った。
そして、そう言うであろう父・周斎の顔が浮かんだ。
さくらは一足飛びに殿内の間合いに入り、袈裟懸けに刀を振り下ろした。
肉を断ち、骨を断つ感触。
それは今までに味わったことのない感触であった。
顔には生暖かい返り血がピシ、ピシ、と張り付いた。
同時に、背後から勇が殿内の脳天を割った。
その一瞬で息絶えた男は、その場にバタンと倒れ、ピクリとも動かなくなった。
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