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残留②
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さくら達はといえば、この衝撃的な話に驚き、憤り、八木邸に戻るなり「緊急会議」を開いた。
「せっかく来たのに、もう帰っちゃうんですか?まだ清水の舞台を見に行ってないですよ」総司が開口一番、そんなことを言ったので一同は拍子抜けした。
「だよなあ。それにほら、島原の女を拝んでからでも遅くねえんじゃねえか?」左之助が同調した。
「バカ野郎、そういう問題じゃねえんだよ。どうすんだ、勝っちゃん。清川、斬るか」
「土方くん、落ち着いて。今清川を斬ったところで何の得にもならない」
「だがよ、サンナンさん、このままハイそうですかって江戸に戻って、あいつの言いなりになるなんて俺はごめんだぜ」
歳三の発言は、全員の気持ちを代弁していた。
武士になるということは、主君への忠誠を誓い仕えること。いくら背後に帝がいるとはいえ、このままではさくら達の主君は将軍ではなく清川になってしまう。
「それなんだが」
勇が少しだけ言いづらそうに、だがはっきりと切り出した。
「残らないか?京に」
そう言った勇の顔は清々しい程の笑顔で、お気に入りのおもちゃで遊ぶ子供のようでもあった。
「賛成だ」さくらがニヤリと口角を上げた。
「俺たちは俺たちで、一旗揚げようってか」歳三も続いた。
「いいですね!残りましょう!そしたら清水の舞台も見られますし、金閣のお寺もいいですよねえ」
「僕は五重塔も見てみたいなあ」
「総司と平助だけずるいぞ。俺も連れてけ」
「もちろん、左之助さんも一緒に行きましょう」
「お前たち、そういう話は後にしなさい」
逸れた話題を源三郎が軌道修正し、「それでどうします?」と勇に尋ねた。
「残るといっても、残ったところで何ができるのか…」山南が眉間に皺を寄せた。
「上様の警護だろ」歳三が、当たり前だろ、とでも言いたげな表情で言った。
「それはそうなのだが…」
「なんだよサンナンさん、じゃあ江戸に戻るってのかよ」
「いや、もちろん、江戸に戻るという選択肢はない」
山南が力強く言ったので、勇が「決まりだな」と笑った。
さくらは皆の目を見て、意を決した。
「先のことがどうなるかはわからぬが、私たちは京に残って、『将軍警護の浪士組』を続けよう!」
「あ、さくら、おれが言おうと思ったのに!」
「はっは、お前にばかりいい所を持っていかれる私ではないぞ」
さくらと勇はくすり、と笑った。
こんな内輪の間での話し合いで格好つけたところで仕方ないのであるが、胸の内に燃えるような興奮を、口に出さずにはいられなかった。
この一連のやり取りを、芹沢は聞いていたようである。
「あの清川ってやつぁ気にくわねえ。島崎、お前の肝っ玉を見込んで、一緒にやってやるよ」
「ありがとうございます。芹沢さんがいれば百人力です」
さくらは芹沢に笑いかけた。下諏訪宿での一件はあったものの、さくらにとって芹沢はやはり命の恩人であり、侍の先輩であり、頼もしい同志であった。
少なくとも、今は、そうであった。
一方その頃、新徳寺の小部屋では、鵜殿、山岡、佐々木ら浪士取締役が頭を抱えていた。
「山岡!なぜ建白書の内容をよりにもよってあの島崎らに知らせたのだ!」
佐々木が声を荒げた。
「遅かれ早かれ、清川殿の策略は皆の知れるところとなったわけでしょう。それならば、事前に言うも言わぬも同じことかと存じますが」山岡がさらりと答えた。
「何を言う!事前に言ってしまったから、奴らに考える時間を与えてしまった。それであのような勝手な真似を!」
「事前に言わずとも、今頃彼らはここに来て、自分たちは京に残りたいのだが、と申し出ていたでしょうよ。どちらにせよ同じことですよ」
山岡の言葉に佐々木はぐぬぬ、と言葉を詰まらせた。
二人の会話を聞いていた鵜殿が重そうな口を開いた。
「近藤らはまだしも、心配なのは芹沢だ。彼らはこれから、無頼の浪士ということになる。本来ならば、面倒を見てやる必要はないのだが、いかんせん、元は『幕府が連れてきた』浪士たちだろう。何かあった時に、怒りや責任の矛先がこちらに向いてくるようでは困る」
その場にいた他の取締役たちは、確かに、と眉間に皺を寄せた。
その様子を見た鵜殿は、我が意を得たりといった顔をして部屋の襖の向こうに「入れ」と声をかけた。
現れたのは、殿内と家里であった。
全員が、驚いて口をぽかんと開けたまま、二人を見た。
「こやつらに、今一度機会を与えようと思うてな」鵜殿は笑顔を見せたが、その目は笑っていなかった。殿内と家里は伏し目がちになって何も言わずその場に座っていた。
「あの者らが作る浪士組に入って、不穏な動きをすることがあれば逐一報告してもらおう。頼めるな」
「はっ。承知致しました。精一杯務めさせていただく所存にございます」殿内が仰々しく挨拶をすると、未だ開いた口をふさがらぬ幕臣たちをよそに、鵜殿は「励めよ」と満足げに言った。
「せっかく来たのに、もう帰っちゃうんですか?まだ清水の舞台を見に行ってないですよ」総司が開口一番、そんなことを言ったので一同は拍子抜けした。
「だよなあ。それにほら、島原の女を拝んでからでも遅くねえんじゃねえか?」左之助が同調した。
「バカ野郎、そういう問題じゃねえんだよ。どうすんだ、勝っちゃん。清川、斬るか」
「土方くん、落ち着いて。今清川を斬ったところで何の得にもならない」
「だがよ、サンナンさん、このままハイそうですかって江戸に戻って、あいつの言いなりになるなんて俺はごめんだぜ」
歳三の発言は、全員の気持ちを代弁していた。
武士になるということは、主君への忠誠を誓い仕えること。いくら背後に帝がいるとはいえ、このままではさくら達の主君は将軍ではなく清川になってしまう。
「それなんだが」
勇が少しだけ言いづらそうに、だがはっきりと切り出した。
「残らないか?京に」
そう言った勇の顔は清々しい程の笑顔で、お気に入りのおもちゃで遊ぶ子供のようでもあった。
「賛成だ」さくらがニヤリと口角を上げた。
「俺たちは俺たちで、一旗揚げようってか」歳三も続いた。
「いいですね!残りましょう!そしたら清水の舞台も見られますし、金閣のお寺もいいですよねえ」
「僕は五重塔も見てみたいなあ」
「総司と平助だけずるいぞ。俺も連れてけ」
「もちろん、左之助さんも一緒に行きましょう」
「お前たち、そういう話は後にしなさい」
逸れた話題を源三郎が軌道修正し、「それでどうします?」と勇に尋ねた。
「残るといっても、残ったところで何ができるのか…」山南が眉間に皺を寄せた。
「上様の警護だろ」歳三が、当たり前だろ、とでも言いたげな表情で言った。
「それはそうなのだが…」
「なんだよサンナンさん、じゃあ江戸に戻るってのかよ」
「いや、もちろん、江戸に戻るという選択肢はない」
山南が力強く言ったので、勇が「決まりだな」と笑った。
さくらは皆の目を見て、意を決した。
「先のことがどうなるかはわからぬが、私たちは京に残って、『将軍警護の浪士組』を続けよう!」
「あ、さくら、おれが言おうと思ったのに!」
「はっは、お前にばかりいい所を持っていかれる私ではないぞ」
さくらと勇はくすり、と笑った。
こんな内輪の間での話し合いで格好つけたところで仕方ないのであるが、胸の内に燃えるような興奮を、口に出さずにはいられなかった。
この一連のやり取りを、芹沢は聞いていたようである。
「あの清川ってやつぁ気にくわねえ。島崎、お前の肝っ玉を見込んで、一緒にやってやるよ」
「ありがとうございます。芹沢さんがいれば百人力です」
さくらは芹沢に笑いかけた。下諏訪宿での一件はあったものの、さくらにとって芹沢はやはり命の恩人であり、侍の先輩であり、頼もしい同志であった。
少なくとも、今は、そうであった。
一方その頃、新徳寺の小部屋では、鵜殿、山岡、佐々木ら浪士取締役が頭を抱えていた。
「山岡!なぜ建白書の内容をよりにもよってあの島崎らに知らせたのだ!」
佐々木が声を荒げた。
「遅かれ早かれ、清川殿の策略は皆の知れるところとなったわけでしょう。それならば、事前に言うも言わぬも同じことかと存じますが」山岡がさらりと答えた。
「何を言う!事前に言ってしまったから、奴らに考える時間を与えてしまった。それであのような勝手な真似を!」
「事前に言わずとも、今頃彼らはここに来て、自分たちは京に残りたいのだが、と申し出ていたでしょうよ。どちらにせよ同じことですよ」
山岡の言葉に佐々木はぐぬぬ、と言葉を詰まらせた。
二人の会話を聞いていた鵜殿が重そうな口を開いた。
「近藤らはまだしも、心配なのは芹沢だ。彼らはこれから、無頼の浪士ということになる。本来ならば、面倒を見てやる必要はないのだが、いかんせん、元は『幕府が連れてきた』浪士たちだろう。何かあった時に、怒りや責任の矛先がこちらに向いてくるようでは困る」
その場にいた他の取締役たちは、確かに、と眉間に皺を寄せた。
その様子を見た鵜殿は、我が意を得たりといった顔をして部屋の襖の向こうに「入れ」と声をかけた。
現れたのは、殿内と家里であった。
全員が、驚いて口をぽかんと開けたまま、二人を見た。
「こやつらに、今一度機会を与えようと思うてな」鵜殿は笑顔を見せたが、その目は笑っていなかった。殿内と家里は伏し目がちになって何も言わずその場に座っていた。
「あの者らが作る浪士組に入って、不穏な動きをすることがあれば逐一報告してもらおう。頼めるな」
「はっ。承知致しました。精一杯務めさせていただく所存にございます」殿内が仰々しく挨拶をすると、未だ開いた口をふさがらぬ幕臣たちをよそに、鵜殿は「励めよ」と満足げに言った。
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