浅葱色の桜

初音

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いざ、講武所指南役試験③

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 報告を聞いた周斎は、口をぽかんと開けてさくらと勇を見つめるばかりであった。
「受かったのか…?しかも、二人とも…?嘘だろ…」 
「父上、まさか本当に通るなんて、って顔に書いてありますよ」さくらがたしなめた。
「まあ、まだ最終的な決定ではないんですが、ほぼ決まったようなものだと」勇は顔中をほころばせて付け加えた。
「いや、何にしてもすげえぞ二人とも。俺ぁ鼻高々だ。本当におめでとう」
 周斎は二人の顔を満足げに見た。その目は少しだけ潤んでいるようだった。
「父上?」沈黙を破り、さくらが何も言わない父に声をかけた。
「うん。すげえ。本当にすげえよ。さくらも勇も、俺の自慢の娘だ。自慢の息子だ」
 さくらは、周斎が嬉し涙をこらえているのがわかった。

 一緒に武士になろう。
 もう十年以上も前、そう話した勇との夢は、今ここに実を結びつつある。
 周斎の顔を見ているうちに、そんな実感がさくらの中にふつふつと湧いてくるのであった。

 それからさくらと勇はもちろん、試衛館で仲間たちにこのことを報告した。
 ツネと里江は赤飯を炊き、その夜は当然のように祝いの宴の様相となった。
「まさか本当に二人揃って通っちまうとはなあ!よし、祝いのしるしにこれ見せてやるよ!」
 左之助はおもむろに立ち上がると、上半身の身ごろを開き、腹の傷跡を見せた。
「前にも見たぞ」さくらは言いながらも、可笑しそうにケラケラと笑っていた。
 左之助の腹の傷お披露目はもはや宴会芸の一種であったが、もとはといえば国元で「切腹の作法も知らない野暮侍」などと罵られた時に「それならば」と実際に腹を切ってみせた時の傷跡である。笑いごとではないのだ。
「左之助、祝いのしるしが切腹の傷跡なんて、縁起が悪いだろ」新八がたしなめた。
「いや、むしろ縁起がいいんじゃないですか?だって、切腹して一命を取りとめた傷跡なんだから」平助が笑いをかみ殺すようにしながら言った。
 そんな三人のやりとりを、さくらは笑顔で見つめていた。
「おめでとうございます、さくらさん」
 隣に座っていた山南に声をかけられ、さくらはどきっとして顔をそちらに向けた。
「ありがとうございます」
「お見事です。あなたの真の強さがご公儀に認められたんですね」
 山南の率直な褒め言葉はいつもすとんと心に落ちてくるような気がして、さくらはふわふわと暖かい気持ちになるのがわかった。
「嬉しいです。これからは、ご公儀のためにがんばります」さくらはにこりと微笑んだ。
 さくらの斜向かいでは、勇、歳三、総司、源三郎が赤飯を頬張りながら今日の様子を話していた。
「近藤先生、考査の内容はどんな感じだったんですか?」
 総司が興味深々で聞いたので、勇は試験の内容を話して聞かせた。
「面白いやり方ですね。やはり、指南役を選ぶからには教え方も重要ということか」源三郎が納得とばかりに膝をうった。
「それにしても、私はもう本当に自分のことのように嬉しいです。特にさくらは、小さい頃からずっと見てきましたから」
「やだな源さん、泣いてるんですか?」総司が笑った。
「歳三兄様、どうなさったんですか、ぼうっとなさって」里江がお櫃から赤飯のお替りをよそいながら歳三に話しかけた。歳三はさっきから黙って勇たちの話を聞き、時折さくらの方を見て、赤飯を黙々と食べていた。
「別に」歳三は茶碗を受け取り、お替りの一口目を頬張った。里江は今度は総司の茶碗に大盛りの赤飯をよそいながら、「そうですか?」と訝しげな視線を投げた。
 歳三は赤飯を食べ終えると、勇の顔を真っすぐに見た。
「勝っちゃん」
「おう、なんだトシ?」
「本当におめでとう」歳三は口角を上げてそう言った。
「うん、ありがとう」勇はにぱっと満面の笑みを見せた。
「さくらも」歳三は振り返ってさくらの方に向き直った。
「おめでとう」
 さくらは驚いた表情で歳三を見た。
「なんだ、改まって。少し気持ち悪いな」
「うるせえ。二度は言わねえぞ」
 さくらはふふっと微笑んだ。
「ありがとう」
 宴会は深夜まで続いた。
 さくらも勇も、待ち受ける剣術師範としての職務に胸躍らせ、おおいに宴会を楽しんだ。
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