浅葱色の桜

初音

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四代目襲名④

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 一回戦でかわらけを割られた者、左之助や藤堂といった他流の者たちは、新たにかわらけを額につけた。左之助ら二回戦からの参加者は、一回戦で負けた組に入ることとなっていたので、白組の側に陣取った。
 全員が準備を終えると、再び総司がどん、どんと太鼓を鳴らした。
「始め!」
 男たちが再び駆け出し、互いの軍勢を攻めあった。
 さくらは自分も前線に出て戦いたかったが、自分のかわらけが割られることは即ち赤組の負けを意味するため、必死で我慢し、椅子に座って、周りの男たちの戦いぶりに声援を送っていた。
 やがて、さくらは先ほどとは様子が違うことに気づいた。自分の味方である赤い鉢巻きの男たちが、パリンパリンというかわらけの割れる音を響かせて次々と退場していく。
 さくらは白組に左之助や藤堂が入っているのは知っていたが、あの二人が加わっただけでこんなにも形勢が変わるものか?と訝しげな顔で前方の様子を見守っていた。
「おい、さくら、気をつけろ!」
 歳三が駆け寄ってきた。
「どうしたのだ?なぜこんな急に形勢が変わるのだ?」
「なんだか知らねえけど、白組に強えやつがいる!」
 気がつくと、赤組の軍勢は歳三、山南と、数人の門人だけになっていた。
 さくらは立ち上がり、竹刀をぎゅっと握った。その時、
「おらおらおらあああ!」
 左之助と藤堂が雄叫びを上げながら、走ってきた。
「歳三、後ろ!」
 さくらが叫ぶより一瞬早く歳三は振り返り、左之助の竹刀を受け止めた。
 その隣では、山南が同じく藤堂の竹刀を受け止めたかと思うと、こちらは勢いよくそれを払い、藤堂のかわらけにピシャリと当てた。
「やっぱり、山南さんはお強いですねぇ」藤堂は悔しいなぁ、と言いながらも楽しそうな笑みを浮かべ退場していった。
 山南は続けざまに歳三・左之助のもとに駆け寄ると、横から左之助のかわらけを割った。
「おい、俺がトドメを刺そうと…!」歳三は山南にくってかかったが、すぐに仲間割れしている場合ではないことに気づいた。
 とうとう赤組はさくら、歳三、山南の三人だけになっていた。三人の前に、見知らぬ二人組の男が立ちはだかっていた。
「何モンだ、お前ら」歳三が尋ねた。
「たまたま通りがかった旅の者です。あちらの原田殿がぜひ加わらないか、と」髭面の方、市川宇八郎が答えた。
 さくらと歳三は、すでに退場して見物を決め込んでいる左之助をキッと睨んだ。左之助は「まあまあ落ち着いて」とでも言いたげなへらへらした顔でこちらを見ていた。
「手加減はしねえからな」歳三はそう言うと、もう一人の男・永倉新八と対峙する山南に目をやった。
「山南さん、そっちを頼む」
「ええ、もちろん」
 二人はヤー!と声を上げ、それぞれの敵に向かっていった。
 割れたのは、山南のかわらけと、歳三のかわらけ、そして歳三と相討ちとなった市川のかわらけだった。
「歳三!山南さん!」さくらは呆然として二人を見た。とうとう自分一人になってしまった。
「すみません、さくらさん」山南が謝罪の言葉を述べ、その場を退場した。歳三は何も言わずにさくらの目を一瞥すると、山南に続いて場を空けた。
「あなたが大将ですか」永倉がまじまじとさくらを見た。
「そんなことも知らないで参戦してたのか。何者だ」さくらは凄んだ。そうでもしなければ、この男が放つ圧に気圧されそうだった。
神道無念流しんとうむねんりゅう免許皆伝、永倉新八」
――神道無念流、しかも免許皆伝だと!?なんでそんなやつがこんなところに…!
 さくらはチラリと永倉の背後に目をやった。白組の生き残り達と彦五郎は、勝ったも同然と余裕の表情でこちらを見ていた。他流の者に勝負を任せて高みの見物とは情けない、と思いながらも、そんなことを考えている場合ではなかった。
 さくらは上段に竹刀を構えた。一撃で決めるしかない。対する永倉は正眼に構えた。
「ハーッ!!」
 声を上げ、一気に竹刀を振り下ろしたが、さくらは自分の額が軽くなるのを感じた。
カラン、と音を立て、さくらのかわらけは地面に落ちた。
 
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