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共闘②
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数人の男たちに取り囲まれ、まぎれもなく歳三がそこにうずくまっている。全身にアザができており、男たちにやられたのは明白だった。
「なんだ?お前…女子か?変な格好だなおい。こいつの知り合いか?」男の一人がさくらの姿を見てにやりと笑ってそう言った。
「まあ、知り合いといえば知り合いだな。お前たちよってたかって何をしているのだ」さくらは男を睨み付けた。
「こいつが悪いんだぜー?俺たちの道場をめちゃくちゃにするからよ」
「どういうことだ」
「こいつはこの辺じゃちょっと有名な道場破りなんだよ。だが卑怯な手で俺たちの道場をやぶった挙句、『看板はいらねえ』なんてナメた真似しやがってよ」
「お前にわかるか?道場を続けられなくなるだけじゃねえ、自分で看板を下げる俺たちの惨めさをよお」もう一人は悲壮感を漂わせて言った。
「くだらぬ…」さくらがぽつりとつぶやいた。
「はあ?」
「要するに、お前らの言っていることはただの逆恨み。逆恨みで歳三をぼこぼこにしたくせに、自分たちを正当化しようとそんな理屈を並べ立てるのだろう。大勢で一人を襲うなんてお前たちの方がよっぽど卑怯ではないか。それに…」
さくらは男たちを睨み付けた。
「こいつは強いぞ。独学だから型が読めなくてお前たちは卑怯だと思ったのかもしれないが、卑怯なのではなくお前たちが弱いのだ」
「なんっだと…!このアマ!おい、こいつもやるぞ!」
男たちは持っていた竹刀を手にさくらに向かってきた。
さくらはすっと身を低くし、男に体当たりすると、竹刀を一本奪った。
「望むところだ。私はお前たちのような者には負けぬ」
そう言うと、さくらは正面から来る男をかわし、その隣にいた小太りの男の腹を突いた。
男はうっとうめき声をあげてその場に倒れた。
そして、さくらは振り向きざまに背後から飛びかかってくる男を竹刀で打ち払った。
「さくら!」
歳三が叫んだ。さくらはいつの間にか復活していた先ほどの小太り男に後ろを取られ、そのまま地面に打ち付けられた。
「へへ、女ぁ、口ほどにもねえな」さくらが最初に竹刀を奪った男が、さくらの頭をぐっと踏みつけた。
「やめろ!」歳三が叫び、男に体当たりした。男は不意をつかれ、尻餅をつき歳三を見上げた。
「くそ、お前、まだそんな体力が…」
さくらは起き上がり、歳三と背中合わせに立った。
「礼を言う」さくらが小さく言った。
「まあな」歳三がにやっと笑った。
「やれるか」
「おう」
二人は五人の男たちに囲まれた。人数では相手に分があるが、さくらも歳三も負ける気はしなかった。
「いくぞ!」さくらが声をあげ、目の前の男の急所を突き、続いて向かってきた男が振り下ろした竹刀を受け止めた。
「はっはっは、女子の力で俺に敵うか!」
「ああ。確かに力では敵わぬな」さくらはにっと笑うとすっと竹刀を引き間合いを開けた。男は力の行き場をなくしよろめいた。
その隙に後ろに周り、同様している男の脳天を思いっきり竹刀で叩き付けた。
男はどさっとその場に倒れ意識を失った。
一方で歳三も、すでに一人目を倒し、もう一人と対峙していた。
「そんな体で何ができるというのだ」男があざだらけの歳三の体を見てにやついた。
「うるせえ。こんなところでやられるわけにはいかねえんだよ!!」そう声をあげた勢いで男の胴を払い、振り向きざまに面を打ち、男を倒した。
残る敵は一人となり、形勢が逆転した。
すると、その男は急に怖気づいたような表情を見せ、「くそ、お、覚えてろよ!!」と捨て台詞を吐いたかと思うと倒れている四人を見捨てて走り去ってしまった。
「ふう…」歳三は息をつくと、へなへなとその場に崩れ落ちた。
「お、おい、歳三、大丈夫か!?」さくらは歳三の肩を掴み、体を揺すった。
「はあ、はあ…大丈夫だ…」
「少し歩くが、試衛館に行くぞ。手当が必要だ」
「へっ、薬屋が手当されるんじゃ世話ねえな」
歳三はよろよろと立ち上がると、荷物を持って境内を出た。
その危なっかしい様子が見ていられず、さくらは歳三の荷物を持ち自分の肩に歳三の腕を回して支えた。
歳三は驚いた様子でさくらを見た。
「さくら…」
「なんだ」
「俺も、礼を言う」
「なんだか、気持ちが悪いな」さくらはくすっと笑った。
「んだよ、人がせっかく…!」歳三が声を荒げた。
「歳三」
さくらは真面目な調子で歳三の名を呼んだ。
「うちに入門しないか」
歳三はそう言われて初めて、さくらの目を見た。だが、それは一瞬で、すぐに顔を背けた。
「…俺もちょうどそう思ってたところだ」
「なんだ。それならば早く言え」
さくらの笑顔を見て、歳三もふっと笑った。
互いに背中を預けて戦ったことで、二人の間には友情のようなものが芽生えていた。
これからは同志として、共に稽古に励もう。
言葉にしなくても、そんなことが互いに伝わったようだった。
その後、土方歳三は天然理心流に正式に入門。
同時に、試衛館に住み込むこととなり、さくらたちと寝食を共にすることになった。
「なんだ?お前…女子か?変な格好だなおい。こいつの知り合いか?」男の一人がさくらの姿を見てにやりと笑ってそう言った。
「まあ、知り合いといえば知り合いだな。お前たちよってたかって何をしているのだ」さくらは男を睨み付けた。
「こいつが悪いんだぜー?俺たちの道場をめちゃくちゃにするからよ」
「どういうことだ」
「こいつはこの辺じゃちょっと有名な道場破りなんだよ。だが卑怯な手で俺たちの道場をやぶった挙句、『看板はいらねえ』なんてナメた真似しやがってよ」
「お前にわかるか?道場を続けられなくなるだけじゃねえ、自分で看板を下げる俺たちの惨めさをよお」もう一人は悲壮感を漂わせて言った。
「くだらぬ…」さくらがぽつりとつぶやいた。
「はあ?」
「要するに、お前らの言っていることはただの逆恨み。逆恨みで歳三をぼこぼこにしたくせに、自分たちを正当化しようとそんな理屈を並べ立てるのだろう。大勢で一人を襲うなんてお前たちの方がよっぽど卑怯ではないか。それに…」
さくらは男たちを睨み付けた。
「こいつは強いぞ。独学だから型が読めなくてお前たちは卑怯だと思ったのかもしれないが、卑怯なのではなくお前たちが弱いのだ」
「なんっだと…!このアマ!おい、こいつもやるぞ!」
男たちは持っていた竹刀を手にさくらに向かってきた。
さくらはすっと身を低くし、男に体当たりすると、竹刀を一本奪った。
「望むところだ。私はお前たちのような者には負けぬ」
そう言うと、さくらは正面から来る男をかわし、その隣にいた小太りの男の腹を突いた。
男はうっとうめき声をあげてその場に倒れた。
そして、さくらは振り向きざまに背後から飛びかかってくる男を竹刀で打ち払った。
「さくら!」
歳三が叫んだ。さくらはいつの間にか復活していた先ほどの小太り男に後ろを取られ、そのまま地面に打ち付けられた。
「へへ、女ぁ、口ほどにもねえな」さくらが最初に竹刀を奪った男が、さくらの頭をぐっと踏みつけた。
「やめろ!」歳三が叫び、男に体当たりした。男は不意をつかれ、尻餅をつき歳三を見上げた。
「くそ、お前、まだそんな体力が…」
さくらは起き上がり、歳三と背中合わせに立った。
「礼を言う」さくらが小さく言った。
「まあな」歳三がにやっと笑った。
「やれるか」
「おう」
二人は五人の男たちに囲まれた。人数では相手に分があるが、さくらも歳三も負ける気はしなかった。
「いくぞ!」さくらが声をあげ、目の前の男の急所を突き、続いて向かってきた男が振り下ろした竹刀を受け止めた。
「はっはっは、女子の力で俺に敵うか!」
「ああ。確かに力では敵わぬな」さくらはにっと笑うとすっと竹刀を引き間合いを開けた。男は力の行き場をなくしよろめいた。
その隙に後ろに周り、同様している男の脳天を思いっきり竹刀で叩き付けた。
男はどさっとその場に倒れ意識を失った。
一方で歳三も、すでに一人目を倒し、もう一人と対峙していた。
「そんな体で何ができるというのだ」男があざだらけの歳三の体を見てにやついた。
「うるせえ。こんなところでやられるわけにはいかねえんだよ!!」そう声をあげた勢いで男の胴を払い、振り向きざまに面を打ち、男を倒した。
残る敵は一人となり、形勢が逆転した。
すると、その男は急に怖気づいたような表情を見せ、「くそ、お、覚えてろよ!!」と捨て台詞を吐いたかと思うと倒れている四人を見捨てて走り去ってしまった。
「ふう…」歳三は息をつくと、へなへなとその場に崩れ落ちた。
「お、おい、歳三、大丈夫か!?」さくらは歳三の肩を掴み、体を揺すった。
「はあ、はあ…大丈夫だ…」
「少し歩くが、試衛館に行くぞ。手当が必要だ」
「へっ、薬屋が手当されるんじゃ世話ねえな」
歳三はよろよろと立ち上がると、荷物を持って境内を出た。
その危なっかしい様子が見ていられず、さくらは歳三の荷物を持ち自分の肩に歳三の腕を回して支えた。
歳三は驚いた様子でさくらを見た。
「さくら…」
「なんだ」
「俺も、礼を言う」
「なんだか、気持ちが悪いな」さくらはくすっと笑った。
「んだよ、人がせっかく…!」歳三が声を荒げた。
「歳三」
さくらは真面目な調子で歳三の名を呼んだ。
「うちに入門しないか」
歳三はそう言われて初めて、さくらの目を見た。だが、それは一瞬で、すぐに顔を背けた。
「…俺もちょうどそう思ってたところだ」
「なんだ。それならば早く言え」
さくらの笑顔を見て、歳三もふっと笑った。
互いに背中を預けて戦ったことで、二人の間には友情のようなものが芽生えていた。
これからは同志として、共に稽古に励もう。
言葉にしなくても、そんなことが互いに伝わったようだった。
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