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29 村 後日
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あの村から帰宅後、ショウが熱でダウンした。
「もうだめだ~熱がぁ~ミイちゃん助けて~」
「…お医者さん言ってたでしょ?休めば治るって」
ダウンしてもなおうるさいショウをかかりつけの病院に連れて行ったら、馴染みの先生から
「…インフルとかの感染症ではないね。ひょっとしてまた無理しちゃったかな?一応解熱剤だけは出しておくけど辛い時だけにしてね。あとはヤマモトさんのご飯食べてゆっくり寝ておけば大丈夫。お大事にー」
と言われさっくり帰されたのだった。さすがショウを昔から診てる先生だけはある。ヤマモトさんの事まで知り尽くしているとは…と感心した。
ベッドでまだぐずぐずしているショウが急に
「かいちゅうしるこ食べたい~ミイちゃん買ってきて~」と騒いだ。
かいちゅう…?は?何それ?というか、さっきヤマモトさんに卵入りのおじや頼んでたじゃないか?まだ食べたいのか?
「こっちはおやつだよ~買ってきて~」
仕方なしにショウの部屋を出て、台所でおじやを作っているヤマモトさんに声をかけた。
「ショウから『かいちゅうしるこ』頼まれたから買いに行ってくる。他に何かいるものがあればついでに買ってくるけど?」
「スーパーに行くつもりですか?」
「そのつもりー」
「かいちゅうしるこならスーパーよりも駅前の和菓子屋さんの方が確実だと思いますよ。私は今お願いしたい物はないのでそちらへ行って下さい。お願いします」
財布を持って家を出た。あ、かいちゅうしるこってどんな物か聞いてくるの忘れた。ま、和菓子屋にあるって言ってたし何とかなるか。
駅前の和菓子屋さんは…見た目ちょっとボ…シックな感じの店舗だが商品の和菓子はめちゃ美味い。甘さ控えめなので何個でもいけちゃうを体現したような味だ。
今日もいつものお婆さんが店番をしている。
「すいませーん、かいちゅうしるこってありますか?」
「こちらにございますよ」
と指し示した先にあったのは『懐中汁粉』と書かれたどう見ても最中にしか見えない物だった。これが?…店先で不思議そうにしていた俺に
「懐中汁粉は初めて?」
「そうです。家族が食べたいって言ってるので買いに…でもこれってなんですか?」
お婆さんはふふと笑い。
「若い方は知らないわよね。これはね、簡単に言えばインスタントのお汁粉よ。器に入れてお湯をかけるとお汁粉の出来上がり~美味しいわよ」
なるほど、ショウは餡子もの好きだからな。よし買っていこう。自分の分とヤマモトさんの分も追加して計3個…レジに持って行ったら
「サービスね」
袋に1個追加してくれた。俺はお礼をして、家に帰った。
家に着くとショウはヤマモトさんのおじやを美味しそうに頬張っていた。食欲はあるらしい。あれ?コウ兄さん何故いるの?
「調子が悪いと聞いたんで、仕事切り上げて早退してきた。イオン飲料とゼリーとプリン買ってきたよ。ミイちゃんの分もあるからね」
…社長が『(いい大人の)弟が具合が悪いから早退します』って…マツナガさんが頭抱えてるのが目に見えるようだ。ヤマモトさんも
「私もミイちゃんもいるから大丈夫って言ったんですけどね」
と呆れている。コウ兄さん駄々甘じゃない?ゼリーとプリンはありがたくもらうけどさ。
「…僕が緊急事態って事でコウ兄さんに口伝していい~?」
「緊急事態な奴はおじやを土鍋一杯食べたりしない」
確かに土鍋いっぱいのおじやはほぼ空になっている。
「え~そんな~。口伝を受ければ色々わかるからコウ兄さんも助かるんじゃない?」
「…ま、興味がないと言ったら嘘だな…因みに記憶しないといけない分量はどれくらいだ?」
コウ兄さんは身を乗り出した。
「えっとね…これくらいの量~」
ショウが本棚から取り出したのは厚さ数センチの文庫本一冊。
「そんな多いのか?覚えきれる気がしない…しかしお前はジジイからいつ口伝を受けたんだ?気がつかなかったぞ」
「ほら~よくお爺ちゃんが『ショウ、甘い物食べに連れてってやる』って2人で出かけてたでしょ?あの時だよ~ちまちま数年かけて暗記していったんだ~」
「!アレか!ジジイがショウを贔屓してるって私は思ってたよ…私は全く誘われなかったからちょっと羨ましかった」
その頃を思い出したらしいコウ兄さんが微妙に渋い顔になった。
「え~僕はコウ兄さんが羨ましかったな~。お爺ちゃんコウ兄さんを『次の社長です』『次の当主です』って紹介する為にパーティーとかに連れて行ってたじゃない?自慢の孫なんだろうな~って思ってた。僕は表に出ると困るんだろうな~って」
匙を口に咥えながらあっけらんとショウは言う。
「「………」」
何か分かり合えたのか無言で見つめ合う、意外に良く似た横顔の2人。
すれ違いって怖い。どちらもお爺ちゃんにとっては愛しい孫だったんだろうと思いたい。
ちょっとほのぼのした感じになって来たところで、空になった土鍋を片付けようとしていたヤマモトさんがふと思いついたように言った。
「ショウさん、コウさんが知りたいことだけ教えて差し上げればいいのでは?当主と口伝を受けた人が違う場合は臨機応変にやっていいみたいですよ」
「え?それはどういう?」
「先代の神の使いはソウエモン様の叔父様、つまり当主であったソウエモン様のお父様の弟だったんです。今のコウさんとショウさんと同じ関係ですね。当主が口伝を受けていないので色々困る事が多かったらしく…叔父様がこっそり口伝の内容をお父様に教えたりしていたようですよ。それでバチが当たるような事もなかったと仰ってました」
それを聞きコウ兄さんが恐る恐る
「…因みにどこでその事を?」と質問した。
「勿論、ソウエモン様からですよ。逆に何故コウさんにもショウさんにもその事を伝えてなかったのか私が知りたいくらいです」
「…やっぱりクソジジイだ」
「…お爺ちゃん何で~?」
本当にお爺ちゃんがどうして教えなかったのか不思議だ。ひょっとしてショウとよく似て突拍子もないミスを平気でするタイプだったのかもしれないが、今となってはわからない。
夕食後、4人で仲良く懐中汁粉を食べた。それは穏やかな優しい味だった。一度も食べた事がないのに懐かしい気分になったのが俺は不思議だった。
「もうだめだ~熱がぁ~ミイちゃん助けて~」
「…お医者さん言ってたでしょ?休めば治るって」
ダウンしてもなおうるさいショウをかかりつけの病院に連れて行ったら、馴染みの先生から
「…インフルとかの感染症ではないね。ひょっとしてまた無理しちゃったかな?一応解熱剤だけは出しておくけど辛い時だけにしてね。あとはヤマモトさんのご飯食べてゆっくり寝ておけば大丈夫。お大事にー」
と言われさっくり帰されたのだった。さすがショウを昔から診てる先生だけはある。ヤマモトさんの事まで知り尽くしているとは…と感心した。
ベッドでまだぐずぐずしているショウが急に
「かいちゅうしるこ食べたい~ミイちゃん買ってきて~」と騒いだ。
かいちゅう…?は?何それ?というか、さっきヤマモトさんに卵入りのおじや頼んでたじゃないか?まだ食べたいのか?
「こっちはおやつだよ~買ってきて~」
仕方なしにショウの部屋を出て、台所でおじやを作っているヤマモトさんに声をかけた。
「ショウから『かいちゅうしるこ』頼まれたから買いに行ってくる。他に何かいるものがあればついでに買ってくるけど?」
「スーパーに行くつもりですか?」
「そのつもりー」
「かいちゅうしるこならスーパーよりも駅前の和菓子屋さんの方が確実だと思いますよ。私は今お願いしたい物はないのでそちらへ行って下さい。お願いします」
財布を持って家を出た。あ、かいちゅうしるこってどんな物か聞いてくるの忘れた。ま、和菓子屋にあるって言ってたし何とかなるか。
駅前の和菓子屋さんは…見た目ちょっとボ…シックな感じの店舗だが商品の和菓子はめちゃ美味い。甘さ控えめなので何個でもいけちゃうを体現したような味だ。
今日もいつものお婆さんが店番をしている。
「すいませーん、かいちゅうしるこってありますか?」
「こちらにございますよ」
と指し示した先にあったのは『懐中汁粉』と書かれたどう見ても最中にしか見えない物だった。これが?…店先で不思議そうにしていた俺に
「懐中汁粉は初めて?」
「そうです。家族が食べたいって言ってるので買いに…でもこれってなんですか?」
お婆さんはふふと笑い。
「若い方は知らないわよね。これはね、簡単に言えばインスタントのお汁粉よ。器に入れてお湯をかけるとお汁粉の出来上がり~美味しいわよ」
なるほど、ショウは餡子もの好きだからな。よし買っていこう。自分の分とヤマモトさんの分も追加して計3個…レジに持って行ったら
「サービスね」
袋に1個追加してくれた。俺はお礼をして、家に帰った。
家に着くとショウはヤマモトさんのおじやを美味しそうに頬張っていた。食欲はあるらしい。あれ?コウ兄さん何故いるの?
「調子が悪いと聞いたんで、仕事切り上げて早退してきた。イオン飲料とゼリーとプリン買ってきたよ。ミイちゃんの分もあるからね」
…社長が『(いい大人の)弟が具合が悪いから早退します』って…マツナガさんが頭抱えてるのが目に見えるようだ。ヤマモトさんも
「私もミイちゃんもいるから大丈夫って言ったんですけどね」
と呆れている。コウ兄さん駄々甘じゃない?ゼリーとプリンはありがたくもらうけどさ。
「…僕が緊急事態って事でコウ兄さんに口伝していい~?」
「緊急事態な奴はおじやを土鍋一杯食べたりしない」
確かに土鍋いっぱいのおじやはほぼ空になっている。
「え~そんな~。口伝を受ければ色々わかるからコウ兄さんも助かるんじゃない?」
「…ま、興味がないと言ったら嘘だな…因みに記憶しないといけない分量はどれくらいだ?」
コウ兄さんは身を乗り出した。
「えっとね…これくらいの量~」
ショウが本棚から取り出したのは厚さ数センチの文庫本一冊。
「そんな多いのか?覚えきれる気がしない…しかしお前はジジイからいつ口伝を受けたんだ?気がつかなかったぞ」
「ほら~よくお爺ちゃんが『ショウ、甘い物食べに連れてってやる』って2人で出かけてたでしょ?あの時だよ~ちまちま数年かけて暗記していったんだ~」
「!アレか!ジジイがショウを贔屓してるって私は思ってたよ…私は全く誘われなかったからちょっと羨ましかった」
その頃を思い出したらしいコウ兄さんが微妙に渋い顔になった。
「え~僕はコウ兄さんが羨ましかったな~。お爺ちゃんコウ兄さんを『次の社長です』『次の当主です』って紹介する為にパーティーとかに連れて行ってたじゃない?自慢の孫なんだろうな~って思ってた。僕は表に出ると困るんだろうな~って」
匙を口に咥えながらあっけらんとショウは言う。
「「………」」
何か分かり合えたのか無言で見つめ合う、意外に良く似た横顔の2人。
すれ違いって怖い。どちらもお爺ちゃんにとっては愛しい孫だったんだろうと思いたい。
ちょっとほのぼのした感じになって来たところで、空になった土鍋を片付けようとしていたヤマモトさんがふと思いついたように言った。
「ショウさん、コウさんが知りたいことだけ教えて差し上げればいいのでは?当主と口伝を受けた人が違う場合は臨機応変にやっていいみたいですよ」
「え?それはどういう?」
「先代の神の使いはソウエモン様の叔父様、つまり当主であったソウエモン様のお父様の弟だったんです。今のコウさんとショウさんと同じ関係ですね。当主が口伝を受けていないので色々困る事が多かったらしく…叔父様がこっそり口伝の内容をお父様に教えたりしていたようですよ。それでバチが当たるような事もなかったと仰ってました」
それを聞きコウ兄さんが恐る恐る
「…因みにどこでその事を?」と質問した。
「勿論、ソウエモン様からですよ。逆に何故コウさんにもショウさんにもその事を伝えてなかったのか私が知りたいくらいです」
「…やっぱりクソジジイだ」
「…お爺ちゃん何で~?」
本当にお爺ちゃんがどうして教えなかったのか不思議だ。ひょっとしてショウとよく似て突拍子もないミスを平気でするタイプだったのかもしれないが、今となってはわからない。
夕食後、4人で仲良く懐中汁粉を食べた。それは穏やかな優しい味だった。一度も食べた事がないのに懐かしい気分になったのが俺は不思議だった。
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