いつも巻き込まれて困ってます!〜ショウとミイちゃんの日常

閑人

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28 村 ⑦

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 昼頃会社の運転手さんが俺たちをお迎えにきてくれた。行きはマツナガさんが運転したが、帰りは『運転するのに充分な休養が取れてない』とコウ兄さんは判断したので、わざわざここまで運転手さんにきてもらったらしい。

 「…こんな田舎まで大変じゃない?」

 と運転手さんにこっそり聞いたら

 「…遠出の手当が出るんです。それもかなりいい金額の。うちの女房なんて『社長さんの遠出があるの?』って嬉しそうに聞いてきましたよ。欲しい物があるんでしょうねー。だから大歓迎ですよ」

 さすがコウ兄さん抜かりがない。車に乗ろうと森を出るとそこには村長をはじめ村人がずらりと勢揃いして頭を下げている。…なんだかここに来た時より頭の下げっぷりがすごい。頭、太ももについてるんじゃない?
 
 コウ兄さんやマツナガさんが村の人たちとご挨拶をしている間に

 「僕ここ~。動画見るから、皆は後ろね~」
 
 とショウは車の3列シートの1番前を1人で陣取り、そこそこ大きい音量で動画を見、大笑いし始めた。興味がないのかもしれないけどさすがに失礼じゃない?
 
 しかし誰もその無礼を咎める事なく挨拶も終わり出発した。後ろの窓からはまだ頭を下げ続けている村人たちが見えている。

 「なんかあったの?コウ兄さん知ってる?」

 「知らん…マツ、なんか言ってたか?」

 人からものを聞き出すのは、見た目柔和で物腰も柔らかいマツナガさんが得意らしい。人の警戒心を解くのが上手なんだろう。コウ兄さんも(他人には)物腰は柔らかいが、ただいかんせん顔が厳ついので…

 「コウさんが挨拶している時こっそり聞いてみたんですけど皆怖がっているようで教えてくれなかったんですよね…本当に何があったのやら。ケイタロウさん、行きはショウさんとずっと一緒だったんですよね、心当たりはありませんか?」

 「…ない。フツーにここに来て、ちょっと話して屋敷に行っただけだよ」

 俺たちは前列でゲラゲラ笑ってるショウをなんとなく見つめた。彼に聞いても『知らな~い』なんだろなあ…
 
 しかし何の動画なんだろう?日本語じゃないから俺には全くわからない。

 「海外のスタンドアップコメディーでしょうかね?とりあえずあの音量ならこちらの話は運転手さんには聞こえないでしょう」
 
 それを聞いてコウ兄さんはこちらに向き直り、顔を近づけて話し出した。

 「…あの屋敷で手記を見つけたのは大収穫だったな、でも巻物はなかった…ひょっとしたら巻物の在処があの手記に書いてあるかもしれん。ヤマモトさんになるべく早めに読んでもらおうと思ってる」

 「巻物?そんな物探してるの?」

 「そうだ。神の縁起とか歴史、家系図、儀式の作法なんかを書いてある巻物だ。マツの実家にはあるんだよな?」

 「…ありますよ。全10巻の仰々しいやつがね。あんな廃れた家に必要ないのに、今でも毎年正月には皆で拝んでいるようですよ」

 吐き捨てるように言い放つマツナガさん。そんな凶悪な顔もできるんだね。

 「もし万が一私があの家の最後の人間になったら、あんな物全部燃やしてやりますよ」

 何があったかは知らないけど…恨み骨髄だね。

 「…それは自由にやってもらうにして、他の神の使いを輩出する家柄にもそのような巻物はあるらしい。うちはジジイが私にきちんと言い残してくれなかったから巻物はここ10年以上行方不明のままだ」

 「お爺ちゃんから巻物の話って全く聞いてないの?」

 「そうだ。巻物の存在もマツの実家の話を聞いて知ったくらいだからな、あのジジイ、死んでも人騒がせな」

 「…それっておかしくない?大事な巻物なんでしょ?マツナガさんのうちなんて年1で拝んでるくらいの。だったら、見せてくれなくても、在処を教えてくれなくても、『巻物がある』くらいはお爺ちゃん言うんじゃないかな?」

 俺の言葉を聞いて一瞬固まったコウ兄さんは何かを思いついたようだ。

 「…そうか、巻物は存在しない…ではクデンか?その可能性があるな!巻物に拘りすぎた。他のうちがそうだからうちも…と思い込んでいた」

 クデン?聞いた事のない言葉だね。

 「口に伝えるで『口伝』ですよ。内容を口で伝えていくやり方です。紙に残さないから盗まれにくいというメリットがありますよ。ただし、あくまでも人間の記憶力に頼るので内容が歪められたり、忘れられたり、その口伝を受けた人間が死んだら途切れるとかがデメリットですかね。…口伝ね…確かに盲点でしたね。だとしたらソウエモン様はショウさんに?」
 
 「…もしそうだとしたら私のこの10年以上の苦労は一体何だったんだ!おい!ショウ!」

 ショウの肩を掴もうとしていたコウ兄さんをマツナガさんが止めた。

 「コウさん、運転手さんに聞こえますよ」

 「チッ、仕方ない」

 そう言うと、ポケットから私用のスマホを取り出して勢いよく何かを打ち、送信した。

 そのスマホってショウとコウ兄さんと3人お揃いで一緒に買ったやつだね。家族割をしようと申し込んだら、店員さんが

 『お父様とその息子さん、同居の叔父様ですね。お父様はどちら?』

 と俺に確認がてら聞いてきたので反射的に

 『きちんとしている方です』

って答えちゃって、ショウがとても落ち込んでるのを見て大笑いしたんだよな。
 
 ポコンとポコンとやりとりをする音がしている。

 『なあに~?』

 『お前はジジイからあの件の口伝を受けたか?』

 『受けてるよ~』

 『何故私に言わない!』

 『聞かれなかったから~。あと内容はコウ兄さんにも言えないよ~。口伝は当主から次代の当主へ、またはその代に神の使いがいればその人物へ、他の人に内容を言ってはいけないって決まりなんだ~』


 コウ兄さんが10年以上悩んでいた事はあっけなく終了した。


 ショウとのメール後、コウ兄さんは魂が抜けたようになっていた。マツナガさんと2人で心配したが家に着く頃にはいつものコウ兄さんに戻っていた。

 一応大丈夫なのか聞いてみると

 「ショウが口伝を受けてようといなかろうと私のやる事は変わらない事に気がついたんだ。むしろあっち方面はショウに任せてもいいと思えた…どうせあいつが何かやらかした時は私が尻拭いするのは決定しているし…」

 それでいいのか?とは思ったが、本人が納得しているのならこちらから口出すのもおかしいよな?

 マツナガさんから盛大なため息が聞こえたのは気にしない事にした。
 
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