いつも巻き込まれて困ってます!〜ショウとミイちゃんの日常

閑人

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26 ヤマモト ①

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 静かだ…彼らがいないとこんなに静かだとは…

 ショウさんたちがお墓参りに行ってしまった昼下がり私は1人静かな家で暇を持て余していた。

 「私も一緒に行った方が良かったかしら?」

 何故なら私の父方のお墓もあの村にあるからだ。

 父の家は代々あるお家にお仕えしてきた。執事と護衛を一緒にしたような仕事をしていたらしい。あくまでも「らしい」。私の父はそのことを私に話すことがほとんどないまま亡くなったからだ。

 父も祖父の後継としてその家ーソウエモン様の家だーにお仕えするはずだったのだが、しかし父が学生の頃、まだ子供のソウエモン様に勉強を教えていると

 「ヤマモトは頭がいいね!学者さんとかいいんじゃない?」

 と無邪気に言われてぐっと口籠ってしまった。ソウエモン様に図星を突かれてしまったのだ。その頃から学問の道に進みたいとぼんやりと思っていたようだが『家の跡を継ぐのが当たり前』と言う時代なだけにそれを言い出せない…そんな父の顔を見てソウエモン様は

 「ヤマモトは好きな道に進めばいい!僕が父を説得してあげる!待ってて!」

 と強く言い、本当に説得してくれのだった。その上、学費もソウエモン様の家でもってくれた。

 「学費は返さなくていいから。その代わりに学問の道が上手くいかなかった場合には戻ってきてソウエモンに仕えて欲しい」

 とソウエモン様の父上から条件をつけられたようだが、今考えても破格の好条件だと思う。

 
 月日が流れ、父は夢を叶え学者になった。そして結婚して私が生まれた。優しい父母…私は幸せに暮らしていた…あの日までは。

 忘れもしない私が中学生になった年、父が急死した。心臓発作であっという間の出来事だった。葬儀の間、私は『朝普通に出かけた人が戻らないなんて事が本当にあるんだな』とぼんやりと考えていたのを覚えている。

 葬儀を終えて母と2人疲れと悲しみで茫然としていると来客があった。借金取りだった。ガラの悪い口調で私たちに脅しをかけるように畳み掛ける。

 どうやら父は友人の借金の連帯保証人になっており、その友人が借金を返さずに逃げてしまったので、お前らが返せ、簡単に言うとそんな感じだった。証文に書いてある金額がちらと見えたが…家の物を全部売っても足りそうにないのは子どもの私ですらわかった。途方に暮れるばかりだった。

 その時玄関のベルが鳴ったので、私が出た。そこには何かを握りしめて仁王立ちしている身なりの良い、しかし顔は厳つい男性がいた。また借金取り?と身構えたが

 「…ヤマモトさんが亡くなったと…海外出張中で連絡が届くのが遅れて…あの…本当ですか?この間手紙頂いたばかりなんです…休みに飲みに行こうって…」

 違うようだ。よく見ると彼が手に握りしめているのは父からの手紙らしい。父の友人にしては年が離れているような気はするが。

 「本当です。父の友人ですか?お線香あげていっ…」

 家の奥から借金取りが母を怒鳴る声がした。ぴくりと彼の眉が不審げに上がる。

 「あの声は何ですか?差し障りがなければ教えて下さい。お力になれるかもしれません」
 
 私はわかる範囲で説明した。何故だが彼に頼れば何とかなるようなそんな気がしたのだった。私の拙い説明を聞いた彼は苦々しい表情をして

 「…私が何とかしましょう。あ、まだ名乗っていませんでしたね、私はカミトウ ソウエモンと申します。お父様と同郷の『友人』です。私のツレも一緒にお家に上がってもいいですか?お線香をあげたいそうなので…」

 彼はそう名乗り、背後に声をかけた。するとツレらしき人が2人音もなく現れてびっくりした。後から聞いたが2人ともソウエモン様の護衛でそして父の遠縁に当たる人たちだった。

 力強く足を踏み締めながらソウエモン様は借金取りのいる、そして父のお骨が安置してある部屋に向かった。

 「お母さん、お父さんのご友人がお線香をあげたいといらしてますのでお通ししました」

 部屋の中の声が一瞬止まる。母の返事を待ち、ソウエモン様たちはお線香をあげると、くるりと借金取りの方に向き直った。護衛の方は私たち母子を背中に庇う。

 「話はさっきお嬢さんから聞いたよ。君たちは連帯保証人だったヤマモトさんに借金を返してもらおうと来たんだね?それで間違いないかな?」

 突如現れた厳つい人に少し圧倒され気味だが借金取りも負けてはいない。

 「そうだ!絶対返してもらわないと!こちらには証文もあるんだぞ!」

 とピラピラと証文を振りかざす。

 「それを見せろ。きちんと確認したら払ってやる」

 借金取りたちも私たちも驚いた。払う?今この人払うって言った?すごい金額なのよ?

 「現金一括で払ってやるから証文見せろ、早く」

 ソウエモン様の勢いに負けて借金取りが証文を差し出す。それをじっと見つめるソウエモン様…

 「このヤマモトさんのサインは偽物だ。よって支払いはしない」

 「なんだと!偽物だと証拠でもあるのか?」

 ソウエモン様はちゃぶ台をバンと叩き

 「私は10年以上ヤマモトさんと手紙のやり取りをしてきたんだ。その私が言うのだから間違いない!信じられないなら警察で筆跡鑑定をしてもらおう!ちょうど手元にヤマモトさんからの手紙もあるしな。…警視庁のミヤタさんに連絡して早急に筆跡鑑定お願いしよう。奥さん、そこの黒電話お借りしてもよろしいですかな?」

 一気にそう言い、黒電話の受話器をあげた。すると借金取りは靴もきちんと履かないまま慌てて逃げ出していった。なんと証文もソウエモン様に渡したままだ。

 「…サカモト、あいつの親分が誰なのか調べてくれ。あんなチンピラだけでこんな大掛かりな詐欺をするとは思えない、頼んだぞ」

 そう言われた護衛さんの1人は足早に後を追って行った。

 詐欺だったのか…安心したせいかどっと疲れが出る。それは母もそのようだった。

 「ありがとうございました。本当にどうしようかと…」

 母はソウエモン様に頭を下げたが…疑問が残る。

 「…本当に詐欺だったの?」

と私は聞いてみた。厳つい顔に似合わず優しくふふとソウエモン様は笑い

 「ヤマモトさんが自慢していたように頭の良いお嬢さんだ。奴らの今の反応を見るまで詐欺かどうかは半々だと私は思ってたよ」

 「半々?」驚いた。あんなに堂々としていたのに。

 「そう。サインの筆跡はよく似ていたし、あの優しいヤマモトさんなら困っている友人の連帯保証人くらい受けてしまいそうだし…」

 確かに父は底抜けに優しかった。お人好しとも言えた。そんな父が頼まれたら…サインするだろうな…

 「ただ『借金の連帯保証人には絶対なってはいけないよ』と私が社会人になった時にヤマモトさんから何度も言われたから、連帯保証人の恐ろしさは知っているはず…だから『半々』かなと。でもね」
 
 ソウエモン様は飾られている父の写真をじっと見つめ

 「ヤマモトさんは優しい人だけど、家族に迷惑がかかるような事を相談せずにするとは到底思えなかった…だから詐欺の方に賭けてみたんだ。まあ証文が本物でもちゃんと支払えば向こうも文句ないだろうし」

 と言い皮肉っぽく口の端をあげた。

 「何よりヤマモトさんの死を悼むこの時間を邪魔する奴は許せなかった。あなたもそう思うだろう?」

 その通りだ。ソウエモン様のお陰でやっと私たち母子は父の死をゆっくり悼む事が出来たのだった。

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