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23 村 ④
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「遅くなっちゃいましたね社長」
私は運転しながら後ろに声をかけた。
「…仕事外ではコウさんでいいと言ったろ、マツ」
そう言うところ頑固だなこの人は。いくら兄弟同然に暮らしてた時期があるにせよ今は私が勤めている会社の社長には違いないのだが…。その辺祖父のソウエモン様によく似ていると以前言ったらとても怒られたので言うのはやめておく。
コウさんの静止も聞かず先に行ってしまった2人を追いかけて私たちも村へ急いではいるがもう夕方だ。
「夜の山道って登れますかね?」
私の記憶が間違いなければあの道は細く、そこそこ急だ。もし日が暮れそうなら森に入るのは諦めてどこかで泊まって明るくなってからにした方が無難だろう。
「そこは心配いらない。それよりもショウが何かをやってしまってないか…」
心配いらない?不審に思ったがコウさんが嘘をついた事はないので信じようか。
「村に着きましたよ。どこに停めますか?コウさん」
「あの森の入り口あたりに空き地があるだろうそこへ停めてくれ。まずは村長に挨拶してくる」
10分後には私たちはもう森の中にいた。
「…いつもなら『宴会に参加しろ』だの『ショウタロウ様にきちんと伝えろ』だのしつこく言ってくるのに今日はなんかやけにあっさりしてましたね、あの村長」
そうなのだ。村長にいつものようなしつこさが全くなく、なんなら土下座でもしそうなくらい低姿勢でこちらの言葉にうなづいているだけだったのだ。村人も家の中から恐々と言った感じでこちらを見ているだけ。
「なにかあったんだろうな…知りたくないが。ともあれ早めに森に入れてラッキーだ。急ごう」
早足に登るがとうとう日が暮れてしまい、森の中は真っ暗になった。
「コウさんどうする?」
と呼びかけたその時、道が光りはじめた。屋敷までの道すじが一本の光の筋になっている。
「…光ってる」
横を見るとコウさんが
「この道沿いには光るキノコやら苔やらが生えていて夜でも足元はバッチリなんだ。何故この道沿いだけにしか生えてないのかは全くわからないがな」
ふふんという鼻息まで聞こえそうな(ドヤ顔というのかな)感じのその喋り方は弟ショウさんに良く似ている。が、多分それも言ったら怒るだろうなと思うのでやめておく。
日頃の運動不足を呪いながら、やっと屋敷が見えるところまで登ってこれた…あれ?
「ケイタロウさんが外で私たちを待ってますよ」
屋敷の外にケイタロウさんがいて、私たちに気がついて懐中電灯を振って出迎えている。細身のシルエットが喜びで跳ねている。遅くなった私たちを心配してくれたんだろう…でも唯一気になるのは背後の屋敷が真っ暗な事だ。何年か前に電気、ガス、水道、ネットが使える環境にしておいたはずなのに…後で確認しておこう。
「そのようだな…出迎えは嬉しいが…何故だかすごく嫌な予感がする…」
全くどこまで心配性なんだか。仕事とかは猪突猛進の勢いでこなすのに、家族の事になると途端にこれだ。
「コウ兄さーん、マツナガさーん!遅かったね。お疲れ様でした。掃除と墓参りは終わってるんだけどね、えっと………」
ケイタロウさんが言い淀んでいる。なんだろう?
「ちょっと質問なんだけど今驚くのと後で驚くのどっちがいい?」
「「質問の意味がわからない」」
しまった、コウさんとハモってしまった。私より一瞬早く気を取り直したコウさんが
「何をしたか知らないが、早く知るに越した事はない。対処も早くできるからな」
というと、ケイタロウさんは、素直にうなづいて
「じゃ、2人ともそのまま屋敷に入って。ショウ!2人到着したよ!そのままでいいよー!今見ておくってー!」
『今見ておく?』ますますわからない。
重々しい玄関を開け、広い土間で靴を脱いで上がる。やはり電気は付いておらず廊下も暗い…いや奥の方で何かが薄ぼんやりと光を発しているようだ。その光がこちらにすぅっと近づいてきて、私の目の前まできた。
人魂だった。
硬直して悲鳴すら出ない。
人魂の正体は燃えているリンだと聞いたことがあるがこれは違うと確信した。何故なら朧げだが目鼻口があるからだ。ただリンが燃えているだけならこうはなるまい。
「ショウ!出てこい!これはなんだ!説明しろ!悪ふざけなら承知しないぞ!」
私の横でコウさんは激怒していた。現実主義のコウさんはこれをショウさんの仕業と判断したのだろう。ところが一緒に屋敷に入ったケイタロウさんが爆弾発言をした。
「あ、これショウの仕業じゃないよ。多分本物の心霊現象だと思う。夕方になったら急に屋敷内のあちこちに出てきてさー、ちょっと目にうるさいんだよね…コウ兄さんが先に見たいって言うんでそのままにしたけど、電気つけると消えるから安心して」
コウさんの怒鳴り声が止まった。ゆっくりとケイタロウさんの方に振り向く。
「…本物?」
「うん、本物。何故か知らないけどいっぱいいるよこの屋敷。ショウはこれをもう少し調べたいって、真っ暗な屋敷内をうろうろしてるよ。ショウ!聞こえる?いい加減ご飯食べようよ!電気もつけるからね!」
すると屋敷の奥の方から
「わかった~今行く~」
といつもののんびりした声が聞こえてきた。
この状況で『ご飯食べよう』?
度胸が座ってるのかそれとも…私にはわからない。
ケイタロウさんが電気をつけると人魂は消え去った。
私は運転しながら後ろに声をかけた。
「…仕事外ではコウさんでいいと言ったろ、マツ」
そう言うところ頑固だなこの人は。いくら兄弟同然に暮らしてた時期があるにせよ今は私が勤めている会社の社長には違いないのだが…。その辺祖父のソウエモン様によく似ていると以前言ったらとても怒られたので言うのはやめておく。
コウさんの静止も聞かず先に行ってしまった2人を追いかけて私たちも村へ急いではいるがもう夕方だ。
「夜の山道って登れますかね?」
私の記憶が間違いなければあの道は細く、そこそこ急だ。もし日が暮れそうなら森に入るのは諦めてどこかで泊まって明るくなってからにした方が無難だろう。
「そこは心配いらない。それよりもショウが何かをやってしまってないか…」
心配いらない?不審に思ったがコウさんが嘘をついた事はないので信じようか。
「村に着きましたよ。どこに停めますか?コウさん」
「あの森の入り口あたりに空き地があるだろうそこへ停めてくれ。まずは村長に挨拶してくる」
10分後には私たちはもう森の中にいた。
「…いつもなら『宴会に参加しろ』だの『ショウタロウ様にきちんと伝えろ』だのしつこく言ってくるのに今日はなんかやけにあっさりしてましたね、あの村長」
そうなのだ。村長にいつものようなしつこさが全くなく、なんなら土下座でもしそうなくらい低姿勢でこちらの言葉にうなづいているだけだったのだ。村人も家の中から恐々と言った感じでこちらを見ているだけ。
「なにかあったんだろうな…知りたくないが。ともあれ早めに森に入れてラッキーだ。急ごう」
早足に登るがとうとう日が暮れてしまい、森の中は真っ暗になった。
「コウさんどうする?」
と呼びかけたその時、道が光りはじめた。屋敷までの道すじが一本の光の筋になっている。
「…光ってる」
横を見るとコウさんが
「この道沿いには光るキノコやら苔やらが生えていて夜でも足元はバッチリなんだ。何故この道沿いだけにしか生えてないのかは全くわからないがな」
ふふんという鼻息まで聞こえそうな(ドヤ顔というのかな)感じのその喋り方は弟ショウさんに良く似ている。が、多分それも言ったら怒るだろうなと思うのでやめておく。
日頃の運動不足を呪いながら、やっと屋敷が見えるところまで登ってこれた…あれ?
「ケイタロウさんが外で私たちを待ってますよ」
屋敷の外にケイタロウさんがいて、私たちに気がついて懐中電灯を振って出迎えている。細身のシルエットが喜びで跳ねている。遅くなった私たちを心配してくれたんだろう…でも唯一気になるのは背後の屋敷が真っ暗な事だ。何年か前に電気、ガス、水道、ネットが使える環境にしておいたはずなのに…後で確認しておこう。
「そのようだな…出迎えは嬉しいが…何故だかすごく嫌な予感がする…」
全くどこまで心配性なんだか。仕事とかは猪突猛進の勢いでこなすのに、家族の事になると途端にこれだ。
「コウ兄さーん、マツナガさーん!遅かったね。お疲れ様でした。掃除と墓参りは終わってるんだけどね、えっと………」
ケイタロウさんが言い淀んでいる。なんだろう?
「ちょっと質問なんだけど今驚くのと後で驚くのどっちがいい?」
「「質問の意味がわからない」」
しまった、コウさんとハモってしまった。私より一瞬早く気を取り直したコウさんが
「何をしたか知らないが、早く知るに越した事はない。対処も早くできるからな」
というと、ケイタロウさんは、素直にうなづいて
「じゃ、2人ともそのまま屋敷に入って。ショウ!2人到着したよ!そのままでいいよー!今見ておくってー!」
『今見ておく?』ますますわからない。
重々しい玄関を開け、広い土間で靴を脱いで上がる。やはり電気は付いておらず廊下も暗い…いや奥の方で何かが薄ぼんやりと光を発しているようだ。その光がこちらにすぅっと近づいてきて、私の目の前まできた。
人魂だった。
硬直して悲鳴すら出ない。
人魂の正体は燃えているリンだと聞いたことがあるがこれは違うと確信した。何故なら朧げだが目鼻口があるからだ。ただリンが燃えているだけならこうはなるまい。
「ショウ!出てこい!これはなんだ!説明しろ!悪ふざけなら承知しないぞ!」
私の横でコウさんは激怒していた。現実主義のコウさんはこれをショウさんの仕業と判断したのだろう。ところが一緒に屋敷に入ったケイタロウさんが爆弾発言をした。
「あ、これショウの仕業じゃないよ。多分本物の心霊現象だと思う。夕方になったら急に屋敷内のあちこちに出てきてさー、ちょっと目にうるさいんだよね…コウ兄さんが先に見たいって言うんでそのままにしたけど、電気つけると消えるから安心して」
コウさんの怒鳴り声が止まった。ゆっくりとケイタロウさんの方に振り向く。
「…本物?」
「うん、本物。何故か知らないけどいっぱいいるよこの屋敷。ショウはこれをもう少し調べたいって、真っ暗な屋敷内をうろうろしてるよ。ショウ!聞こえる?いい加減ご飯食べようよ!電気もつけるからね!」
すると屋敷の奥の方から
「わかった~今行く~」
といつもののんびりした声が聞こえてきた。
この状況で『ご飯食べよう』?
度胸が座ってるのかそれとも…私にはわからない。
ケイタロウさんが電気をつけると人魂は消え去った。
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