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21 村 ②
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着いた…何本か電車を乗り継いで、その上1日数本しかないバスに揺られてやっと『あの村』に着いた。
びっくりするって聞いていたけど、そんなでもないかな?民家もポツポツあるしごくごく普通の田舎…
遡る事数時間前
「えっ?コウ兄さんもマツナガさんも遅れるって?」
村に行く当日の朝、急に電話がかかってきた。近くの駅で待ち合わせ予定だったコウ兄さんとマツナガさんが急な用事で遅れるとの連絡だった。
「すまん!2、3時間くらいで終わるはずだから待ち合わせ時間の変更を…」
「大丈夫~行き方知ってるし~。ミイちゃんと先に行ってるね~」
俺から電話を引ったくってショウがそう言った。電話口からコウ兄さんの大声がする。
「待て待て!2、3時間なんだから一緒に…」
「サイカイ飽きた~先に行って墓参りしておくよ~じゃ~ね~」
こいつ切りやがった…あと何か『サイカイ』とか言ってなかったか?また何かわけわからん事してるのかな…
そんな俺には構わず
「さ~行こう~先に行ってお掃除しておこう~」
と晴れやかな顔でショウが言った。確かに早めに掃除を始めておけばコウ兄さんも助かるだろう。ちょっと不安だけどじゃ行こうか。
と言う具合で2人でやってきたのだ。道中特に問題も無くスムーズに着いたので拍子抜けし…いやおかしい。俺たちがバスから降りた途端あちこちからワラワラ人が集まってきた。そしてずらっと並んで頭を下げている。…怖。そんな村人を見てショウはため息をつき
「変わってなかった…」
と呟いて顔を上げた。表情は少し強張っているようだ。
村人たちの中から高齢男性が1人ショウの前に出てきた。油断ならない目つきをしているな。
「村長のサヤマです。ショウタロウ様ようこそいらっしゃいました。さ、ご一緒に村の会館へ、おもてなしいたしますのでどうぞ」
村長直々のお誘い?ショウお前って何者?
「…只今私はサイカイ中ですので、おもてなしは不要です。一刻も早く墓参りに行きたいと思っていますので、失礼致します」
珍しくきちんとした話し方で頭を下げるショウ。声のトーンも低い…
村長は残念そうに
「サイカイ中でしたか…ではおもてなしは諦めます。そうそう、コウタロウ様からお伺いかもしれませんがショウタロウ様に是非我が村に住んで頂きたいと願っておりますので、ご一考をよろしくお願いします」
何か上目遣いのこちらを伺う様な感じが嫌だな…
「私は兄の会社で研究員として働く事に生きがいを感じておりますので、こちらに定住は無理です」
おっ、キッパリ言うねえ。でも普段きちんと働いてる様に見えないんだけど?
「…さようですか。ではまた改めて…そう言えばそちらの方はどなたですか?」
残念さと恨みがましさを混ぜたような感情が声に滲んでいる。話してて楽しくない人間は久しぶりだな。
「彼はケイタロウといいます。私たちの遠縁にあたる者で訳あって兄の養子になっております。彼にも墓参りをしてもらいたく今日は連れてきました。ではこれで」
スタスタと歩き出すショウ、とそれについていく俺。周りの村人たちのこそこそ声が聞こえる。
『…断ったよあの人…』
『…あの子はコウタロウ様の隠し子かしら…』
『いやいや、ソウエモン様の…』
『この村に住むのが当たり前なのにねぇ…』
急にくるりとショウが振り向いて陰口を叩いている彼らににっこりと微笑んだ。…陰口はぴたっと止まり慌てて頭をもう一度下げてきた。
「怖がるんなら陰口叩かなきゃいいのに…」
村長だけは無言で森の入り口までついてきたが、そこでやはり頭を下げて
「では私はこちらで失礼します」といなくなった。
やっと解放された気分。それはショウも同じらしく
「やっといなくなった~も~面倒だった~」
喋り方が戻った。全く見えないけどこの山の上に屋敷とお墓があるそうだ。完全なる山道を粛々と登る。
「そう言えばさ、『サイカイ』って何?」
「あ~『斎戒』ね。神様にお詣りする時とかに~身を清める事だよ~。僕も一応昨日から肉は食べてないし、今朝に至っては食事も取ってないんだよ~お腹空いた~。だから一刻も早くお参りをしちゃいたかったんだ~。決まりとはいえ墓参りで斎戒が必要なんて信じられない!それも僕だけ!ね~おかしな決まりだよね~」
神の使いのショウだけは斎戒しないといけないらしい。そう言えば服も上下白だな。変な服装だって思ってごめん。
「あと、隠し子がなんちゃらって俺の事言ってたけど、あれは?」
「…マツナガさんの様に他家から人を預かるのはうちの家では良くやるんだけど、ミイちゃんに関して言えばわざわざ養子にしているし、名前もうちの家系のルールにのっとった『ケイタロウ』だし…隠し子かも~と思われてるんだろうな~。君の見た目年齢からコウ兄さんの学生時代の子とも考えられるし、ソウエモン…僕とコウ兄さんのお爺ちゃんの子でもギリギリいけるから…色々言ってくる人はいるよね~。まぁ気にしない事だね~」
なんてはた迷惑な話だ。
しかしこの村に来てから色々驚きっぱなしだぞ。そうか!コウ兄さんが『びっくりする』ってのはこう言う意味だったのか!やっと合点がいった。
びっくりするって聞いていたけど、そんなでもないかな?民家もポツポツあるしごくごく普通の田舎…
遡る事数時間前
「えっ?コウ兄さんもマツナガさんも遅れるって?」
村に行く当日の朝、急に電話がかかってきた。近くの駅で待ち合わせ予定だったコウ兄さんとマツナガさんが急な用事で遅れるとの連絡だった。
「すまん!2、3時間くらいで終わるはずだから待ち合わせ時間の変更を…」
「大丈夫~行き方知ってるし~。ミイちゃんと先に行ってるね~」
俺から電話を引ったくってショウがそう言った。電話口からコウ兄さんの大声がする。
「待て待て!2、3時間なんだから一緒に…」
「サイカイ飽きた~先に行って墓参りしておくよ~じゃ~ね~」
こいつ切りやがった…あと何か『サイカイ』とか言ってなかったか?また何かわけわからん事してるのかな…
そんな俺には構わず
「さ~行こう~先に行ってお掃除しておこう~」
と晴れやかな顔でショウが言った。確かに早めに掃除を始めておけばコウ兄さんも助かるだろう。ちょっと不安だけどじゃ行こうか。
と言う具合で2人でやってきたのだ。道中特に問題も無くスムーズに着いたので拍子抜けし…いやおかしい。俺たちがバスから降りた途端あちこちからワラワラ人が集まってきた。そしてずらっと並んで頭を下げている。…怖。そんな村人を見てショウはため息をつき
「変わってなかった…」
と呟いて顔を上げた。表情は少し強張っているようだ。
村人たちの中から高齢男性が1人ショウの前に出てきた。油断ならない目つきをしているな。
「村長のサヤマです。ショウタロウ様ようこそいらっしゃいました。さ、ご一緒に村の会館へ、おもてなしいたしますのでどうぞ」
村長直々のお誘い?ショウお前って何者?
「…只今私はサイカイ中ですので、おもてなしは不要です。一刻も早く墓参りに行きたいと思っていますので、失礼致します」
珍しくきちんとした話し方で頭を下げるショウ。声のトーンも低い…
村長は残念そうに
「サイカイ中でしたか…ではおもてなしは諦めます。そうそう、コウタロウ様からお伺いかもしれませんがショウタロウ様に是非我が村に住んで頂きたいと願っておりますので、ご一考をよろしくお願いします」
何か上目遣いのこちらを伺う様な感じが嫌だな…
「私は兄の会社で研究員として働く事に生きがいを感じておりますので、こちらに定住は無理です」
おっ、キッパリ言うねえ。でも普段きちんと働いてる様に見えないんだけど?
「…さようですか。ではまた改めて…そう言えばそちらの方はどなたですか?」
残念さと恨みがましさを混ぜたような感情が声に滲んでいる。話してて楽しくない人間は久しぶりだな。
「彼はケイタロウといいます。私たちの遠縁にあたる者で訳あって兄の養子になっております。彼にも墓参りをしてもらいたく今日は連れてきました。ではこれで」
スタスタと歩き出すショウ、とそれについていく俺。周りの村人たちのこそこそ声が聞こえる。
『…断ったよあの人…』
『…あの子はコウタロウ様の隠し子かしら…』
『いやいや、ソウエモン様の…』
『この村に住むのが当たり前なのにねぇ…』
急にくるりとショウが振り向いて陰口を叩いている彼らににっこりと微笑んだ。…陰口はぴたっと止まり慌てて頭をもう一度下げてきた。
「怖がるんなら陰口叩かなきゃいいのに…」
村長だけは無言で森の入り口までついてきたが、そこでやはり頭を下げて
「では私はこちらで失礼します」といなくなった。
やっと解放された気分。それはショウも同じらしく
「やっといなくなった~も~面倒だった~」
喋り方が戻った。全く見えないけどこの山の上に屋敷とお墓があるそうだ。完全なる山道を粛々と登る。
「そう言えばさ、『サイカイ』って何?」
「あ~『斎戒』ね。神様にお詣りする時とかに~身を清める事だよ~。僕も一応昨日から肉は食べてないし、今朝に至っては食事も取ってないんだよ~お腹空いた~。だから一刻も早くお参りをしちゃいたかったんだ~。決まりとはいえ墓参りで斎戒が必要なんて信じられない!それも僕だけ!ね~おかしな決まりだよね~」
神の使いのショウだけは斎戒しないといけないらしい。そう言えば服も上下白だな。変な服装だって思ってごめん。
「あと、隠し子がなんちゃらって俺の事言ってたけど、あれは?」
「…マツナガさんの様に他家から人を預かるのはうちの家では良くやるんだけど、ミイちゃんに関して言えばわざわざ養子にしているし、名前もうちの家系のルールにのっとった『ケイタロウ』だし…隠し子かも~と思われてるんだろうな~。君の見た目年齢からコウ兄さんの学生時代の子とも考えられるし、ソウエモン…僕とコウ兄さんのお爺ちゃんの子でもギリギリいけるから…色々言ってくる人はいるよね~。まぁ気にしない事だね~」
なんてはた迷惑な話だ。
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