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20 村 ①
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今日はヤマモトさんがいつもより忙しそうだ。
サイバー攻撃の後、コウ兄さんは定期的に俺に送ってくるメール(ショウは『愛のメール』と呼んでいる)すら出来ないくらい大忙しなので、これ幸いとショウが犯人に仕返しをした件を俺は黙っていた。会社も損害も出ているんだろうし俺自身も『これくらいの仕返しはいいんじゃない?』と思っているしね。
夕食間際、インターフォンが鳴って、ヤマモトさんが玄関にお客を出迎えに行った。なんとなく嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか?
「ただいまー。急に夕食をお願いしちゃって申し訳ない。おっ!ミイちゃん久しぶりー元気にしてたか?」
お客様はコウ兄さんと
「お邪魔します。今日は我が儘を聞いて下さりありがとうございます。これお土産です。皆さんでどうぞ」
マツナガさんだった。
2人ともこのところ仕事が非常に忙しく疲れ果て…
『疲れた体を癒したい!そうだ!ヤマモトさんのご飯が食べたいぞ!うちに帰ろう!』
と意見が一致したらしい。彼らの精神状態が大丈夫なのか少し気になるが、疲れた時には何らかの癒しが必要だよな。
「うまい!やっぱりこれだよな野菜シャキシャキで疲れが吹っ飛ぶよ」
「…美味しい。豚汁がしみる…」
泣かないでマツナガさん…コウ兄さんかっこまなくてもご飯は逃げないよ。
今日の夕食は焼き魚に野菜炒め、筑前煮に豚汁と言う我が家ではよく登場する定番メニューだった。
久しぶりによく食べる人がいるせいか(ショウは好き嫌いはないけど少食)ヤマモトさんの機嫌がいい。
「コウさん、いつも通り豚汁用のバターをここに置きますからどうぞ」
豚汁にバター?美味しいのかそれ?
「マツナガさん、野菜炒めにお酢どうぞ。お好きでしたよね」
野菜炒めにお酢?本当に美味しいのか?
人の好みってよくわからないなぁ…
穏やかな夕食時間が終わり、片付けも済んだところで2人はヤマモトさんと客間で話を始めた。どうやらただご飯を食べるだけの為に来た訳ではないようだ。
「…で、こちらが契約書です。私たち2人で隅々まで目を通しましたのでヤマモトさんに不利益になる様な条項は入っていないと思いますが、ご確認下さい」
書類を差し出すコウ兄さん。話を聞いてみると、ヤマモトさんオリジナルの『野菜にかけるタレ』を食品会社が商品化したいとの事で、その為の書類だった。
コウ兄さんはこのタレの美味しさに目をつけ、食品会社に依頼して100本ほど試しに作ってもらい、ゴルフのコンペの賞品にしたり、パーティーの手土産にしていたらしい。それが最近になって評判に→商品化の流れになった様だ。とにかく塩分が限りなく少なくて、その上野菜が美味しく食べられるシロモノらしい…それってひょっとして
「ミイちゃんの為に試行錯誤しました」
やっぱり…お手数をおかけしております。頭が上がりません。
「…勿論ヤマモトさんの名前が外に出る様な事はありません」
「材料はヤマモトさんが指定した物だけで…変更はしません。もし勝手に変更した場合には差し止めができますのでご安心を」
「え?もらえるお金が多すぎる?…ヤマモトさんは私たちの第二の母みたいな人なんですからもらえるだけもらっといて下さい。お金は腐りませんよ。なあマツナガさん」
「当たり前ですよ。…会社に迷惑?いやいや、うちも仲介料が入るのでそこは心配しないで下さい」
コウ兄さんやショウは赤ちゃんの頃から、マツナガさんも中学生くらいから大学生くらいまで皆ヤマモトさんに色々面倒見てもらっていたので、恩義を感じているのだろう。2人の言葉の端々からそれが滲んでいる。
「…でもあのタレには『あの村』産の材料も使っているんですが大丈夫ですか?」
ヤマモトさんのこの一言で穏やかな空気が少しピリッとした。『あの村』?
「…そこの話し合いは済んでいてそちらも後は契約するだけになっています。契約自体は食品会社が直接するのですが、私たちも一度顔見せをしておいた方がいいと思うので今度『あの村』に行こうかと…」
コウ兄さんの顔が険しい。本当に行きたくないんだな。多分『あの村』って(俺は行った事がないが)先祖代々住んでいたお屋敷とお墓がある村の事なんだろうけど…でも何でそんなに行きたくないんだろう?
「で、ショウ」
我関せずといった顔で羊羹を食べていたショウが急にコウ兄さんに呼ばれた。喉に詰まらせそう…お茶いるか?
「…な、なに~?」
「お前も来い」
「なんで?僕関係ない~…」
「村から『お前』に来て欲しいと前々から言われているんだ。一目お前に会いたいらしいぞ。本当は村に住んで欲しい様だが…ま、とにかく放置されてる屋敷と墓の掃除をたまにはしなきゃいかんと思ってたんだ。だから来い。ミイちゃんは…気が向いたらおいで。…びっくりすると思うけどね」
びっくりするほどの田舎って事…?どんなだろうちょっと興味あるな。
「…え~ネットすら繋がってない様な所は嫌だよ~」
ネット命だもんなショウ。
そうぐずっているとマツナガさんが
「大丈夫ですよショウさん。あの村は数年前からネットが繋がりますから。ネット通販で物も買えますし、宅配もしてもらえますよ。…強いて言えばUb⚪︎⚪︎とかは無理みたいですけどね」
ニコニコとした顔で追撃してきた。行くしかないんだろうなあ。諦めが肝心だよショウ。
サイバー攻撃の後、コウ兄さんは定期的に俺に送ってくるメール(ショウは『愛のメール』と呼んでいる)すら出来ないくらい大忙しなので、これ幸いとショウが犯人に仕返しをした件を俺は黙っていた。会社も損害も出ているんだろうし俺自身も『これくらいの仕返しはいいんじゃない?』と思っているしね。
夕食間際、インターフォンが鳴って、ヤマモトさんが玄関にお客を出迎えに行った。なんとなく嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか?
「ただいまー。急に夕食をお願いしちゃって申し訳ない。おっ!ミイちゃん久しぶりー元気にしてたか?」
お客様はコウ兄さんと
「お邪魔します。今日は我が儘を聞いて下さりありがとうございます。これお土産です。皆さんでどうぞ」
マツナガさんだった。
2人ともこのところ仕事が非常に忙しく疲れ果て…
『疲れた体を癒したい!そうだ!ヤマモトさんのご飯が食べたいぞ!うちに帰ろう!』
と意見が一致したらしい。彼らの精神状態が大丈夫なのか少し気になるが、疲れた時には何らかの癒しが必要だよな。
「うまい!やっぱりこれだよな野菜シャキシャキで疲れが吹っ飛ぶよ」
「…美味しい。豚汁がしみる…」
泣かないでマツナガさん…コウ兄さんかっこまなくてもご飯は逃げないよ。
今日の夕食は焼き魚に野菜炒め、筑前煮に豚汁と言う我が家ではよく登場する定番メニューだった。
久しぶりによく食べる人がいるせいか(ショウは好き嫌いはないけど少食)ヤマモトさんの機嫌がいい。
「コウさん、いつも通り豚汁用のバターをここに置きますからどうぞ」
豚汁にバター?美味しいのかそれ?
「マツナガさん、野菜炒めにお酢どうぞ。お好きでしたよね」
野菜炒めにお酢?本当に美味しいのか?
人の好みってよくわからないなぁ…
穏やかな夕食時間が終わり、片付けも済んだところで2人はヤマモトさんと客間で話を始めた。どうやらただご飯を食べるだけの為に来た訳ではないようだ。
「…で、こちらが契約書です。私たち2人で隅々まで目を通しましたのでヤマモトさんに不利益になる様な条項は入っていないと思いますが、ご確認下さい」
書類を差し出すコウ兄さん。話を聞いてみると、ヤマモトさんオリジナルの『野菜にかけるタレ』を食品会社が商品化したいとの事で、その為の書類だった。
コウ兄さんはこのタレの美味しさに目をつけ、食品会社に依頼して100本ほど試しに作ってもらい、ゴルフのコンペの賞品にしたり、パーティーの手土産にしていたらしい。それが最近になって評判に→商品化の流れになった様だ。とにかく塩分が限りなく少なくて、その上野菜が美味しく食べられるシロモノらしい…それってひょっとして
「ミイちゃんの為に試行錯誤しました」
やっぱり…お手数をおかけしております。頭が上がりません。
「…勿論ヤマモトさんの名前が外に出る様な事はありません」
「材料はヤマモトさんが指定した物だけで…変更はしません。もし勝手に変更した場合には差し止めができますのでご安心を」
「え?もらえるお金が多すぎる?…ヤマモトさんは私たちの第二の母みたいな人なんですからもらえるだけもらっといて下さい。お金は腐りませんよ。なあマツナガさん」
「当たり前ですよ。…会社に迷惑?いやいや、うちも仲介料が入るのでそこは心配しないで下さい」
コウ兄さんやショウは赤ちゃんの頃から、マツナガさんも中学生くらいから大学生くらいまで皆ヤマモトさんに色々面倒見てもらっていたので、恩義を感じているのだろう。2人の言葉の端々からそれが滲んでいる。
「…でもあのタレには『あの村』産の材料も使っているんですが大丈夫ですか?」
ヤマモトさんのこの一言で穏やかな空気が少しピリッとした。『あの村』?
「…そこの話し合いは済んでいてそちらも後は契約するだけになっています。契約自体は食品会社が直接するのですが、私たちも一度顔見せをしておいた方がいいと思うので今度『あの村』に行こうかと…」
コウ兄さんの顔が険しい。本当に行きたくないんだな。多分『あの村』って(俺は行った事がないが)先祖代々住んでいたお屋敷とお墓がある村の事なんだろうけど…でも何でそんなに行きたくないんだろう?
「で、ショウ」
我関せずといった顔で羊羹を食べていたショウが急にコウ兄さんに呼ばれた。喉に詰まらせそう…お茶いるか?
「…な、なに~?」
「お前も来い」
「なんで?僕関係ない~…」
「村から『お前』に来て欲しいと前々から言われているんだ。一目お前に会いたいらしいぞ。本当は村に住んで欲しい様だが…ま、とにかく放置されてる屋敷と墓の掃除をたまにはしなきゃいかんと思ってたんだ。だから来い。ミイちゃんは…気が向いたらおいで。…びっくりすると思うけどね」
びっくりするほどの田舎って事…?どんなだろうちょっと興味あるな。
「…え~ネットすら繋がってない様な所は嫌だよ~」
ネット命だもんなショウ。
そうぐずっているとマツナガさんが
「大丈夫ですよショウさん。あの村は数年前からネットが繋がりますから。ネット通販で物も買えますし、宅配もしてもらえますよ。…強いて言えばUb⚪︎⚪︎とかは無理みたいですけどね」
ニコニコとした顔で追撃してきた。行くしかないんだろうなあ。諦めが肝心だよショウ。
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