いつも巻き込まれて困ってます!〜ショウとミイちゃんの日常

閑人

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 「コウさん…いや社長、本当にショウさんに全部お任せでいいんですか?」

 スキップでもしそうなくらい楽しそうにシステム部へ行くショウさんを見送った後、不安そうにしているコウさんに聞いてみた。

 「コウさんでいい。…社員は全員来週まで休みにした、今は警備員と私たちと…ショウしかいないからな…任せるしかないだろう?従業員の生活がかかってるし…お金を払ってもシステムが無傷で帰ってくるとは思えないし…最善の策なんだ…あぁでも不安だー!」

 弱音を吐くなんて珍しい。いつもどんどん決断してがんがん進んで行くコウさんなのに。

 「いいじゃないか弱音吐いたって…相手はお前ーマツだけだしな」

 こう呼び合うと学生時代を思い出し少しこそばゆい気持ちになる。私たちは中高一貫男子校で先輩後輩として知り合い、境遇が似ていた為友人となり、今に至っているのだ。
 
 境遇…お互いに神の使いを輩出する家系に生まれ、そして2人とも神の使いではなかったという点でそっくりだった。

 違うのは我が家はもう数百年は神の使いを輩出しておらず、言わば廃れた家系な事。そして我が家の神の使いの能力は女性にしか表れないので今だに『女尊男卑』を貫くプライドだけは高い一族である事だ。
 そんな家系で男性である私の扱いは想像に難くないだろう。親は見栄を張るために私に希望もしていない学校を受験させ、入学させたはいいものの学費に困り、学年途中で『退学しろ!バイトして稼げ!』と騒ぎ出したくらいの酷い扱いだった。その私の状況をコウさんから聞いたコウさんの祖父(コウさんはジジイと呼んでる)が

 「そんなに要らない子どもならうちにくれ。生活費も学費も払ってやる。手放してくれたらそちらに多少お金を融通してもいい。どうかね?」

 と持ちかけ…次の日にはもう私はコウさんの家で居候を始めていた。何とも手早い。居候と言ったが扱いはコウさんの弟分で、本当に学費も生活費も全部コウさんの家でもってくれた。さすがに大学には行けないと就職を考えていたら、コウさんの祖父に怒鳴られた。

 「お前1人の学費ごときで身代が傾くものか!気にせずどこにでも行け!留学でも!大学院でもだ!」

 嬉しくて涙を流していると肩をポンと叩かれ

 「学費も返さなくていい。お前はうちの家族の一員なんだからな。何か返したいなら1つ願いがある。これからもコウやショウと友達でいてくれ。悪いことをしたらあいつらの頭1発殴ってやれるくらいの近しい関係性でいて欲しい。あいつらには敵が多いからな…頼んだぞ」

と言われたのを思い出した。本当に懐かしい。


 「まぁ確かに不安ではありますがショウさんなら何とかしてしまうんじゃないかなと。でもさすがにお金の振り込み期日には間に合わないと思いますがね。…一息入れませんか?インスタントのコーヒー、紅茶、ハーブティーもありますよ」

 「…紅茶が飲みたい…私がいれよう」

 そして缶の茶葉を出して入れ始めた。いい香りが社長室を満たしいく。

 「…システムの復旧云々より、不安なのはショウがどこまでやってしまうかなんだ…」

 コウさんは昔の話を始めた。
 
 ショウさんが小学校低学年の時担任の先生から酷い扱いを受けた。言葉の暴力だったそうだ。気がついたコウさんの祖父がいくら学校に抗議をしても全く聞き入れてもらえない。それでも何とか校長教頭担任の三者と祖父ショウとの話し合いをもてることになり…

 「何故かまだ高校生の私もつれて行かされた。ジジイは『社会勉強だよ。何にもお前は言わなくていい。あ、何かあったらショウと避難してくれ』って言ってな。…嫌な予感がしたよ」

 「まさか何か起きたんですか?」

 「起きた」

 校長室での話し合いは話し合いにはならなかった。低学年の子どもの話を鵜呑みにするなんてとネチネチとバカにされつづけ、校長も教頭もそんな担任を止めもせずにやにやしているばかり…この時間無駄じゃないか?と思ったあたりで担任が爆弾発言をした。

 『両親が亡くなっているから嘘をついて気を引こうとしてるだけですよ。そんな事もわからないんですか?お爺さん、お孫さんを甘やかしてダメにしてますよ。お兄さんも…いい学校に通っているようですが、勉強はできても中身は…』と

 「そこまで貶せるのは逆にすごいですね。是非裁判所でお会いして同じような目に合わせてみたいですね」

 ちょっと微笑んだコウさんは私の前に紅茶を置いて話を続けた。

 「その発言を聞いて怒ったショウが立ち上がってこう言ったんだ。

 『うちの家族をバカにするな!嘘つきなのは先生じゃないか!もういい!先生もそこでにやにやしているだけの校長先生も教頭先生にももう2度と会いたくない!』

 
 そうしたら次の瞬間何かがあの3人の上に落ちてきて彼らは潰されてた。…落ちてきたのは校長室の天井だったよ。理由は天井の老朽化だと警察は言ってたけどうちの家…いやうちの地域では誰それをも信じなかった。ピンポイントで担任、校長、教頭の上にだけで、私たちにはかけら1つ当たらなかったからね…『彼らにバチが当たった』と皆思っていたよ」

 「ショウさんの能力ですか…潰されたって事は?」

 「いやいや、派手に潰された割には大した事は…入院はしたけど後遺症もなく綺麗に治ったと聞いてる。それよりもそんな3人を小学生とは思えない冷たい目で静かに見つめていたショウが怖かった。で、気がついた。ジジイが私を連れて来た理由はこれを見せる為だとね。『ショウの取り扱いには気をつけろ』って。だからショウに任せるのは怖い…どこまでやってしまうのかわからないからな」

 
 …そんなものを見せられたらそれはトラウマ級の恐怖を植え付けられてもおかしくない。コウさんが祖父を『ジジイ』と呼んで憚らないのはそう言った事の積み重ねなんだろうな。

 「でも今回は仕方ないでしょう?…あ、その3人は結局どうなったんですか?治ったなら学校に戻って来てしまったのでは?」

 紅茶が美味しい。

 「戻ってこなかったよ。そりゃ見舞いに来た人来た人に『あのうちに喧嘩売ったんだって?命があってよかったな』って言われちゃあ…その上彼らが入院した病院がジジイが出資した病院だったんで、ジジイは医者や看護師さんゾロゾロ引き連れて見舞いに行ったんだ。『運が悪かったのう』ってニコニコ笑いながら言ってな。これで彼らも『ヤバい人間を敵に回した』とわかったんだと思うよ。3人とも教職は辞めて郷里に戻ったってジジイが高笑いしながら教えてくれた」

 …ヤバいのはショウさんじゃなくてコウさんの祖父なんじゃ?とは思ったが、その人のお陰で私の今の生活があるのも事実なので黙っておこう。

 ルルルル…内線が鳴った。受話器を取るといつものショウさんののんびりした声。

 「あ~マツナガさん?システムは取り返したよ~。でもね~何か悪いウィルスでも仕込まれてるとまずいからそのチェックをしようと思うんだけど~」

 え?もう?本当に?と驚いていると

 「…お腹空いた~チェックの前にラーメン屋さん行きたい~皆一緒に行こうってコウ兄さんにも伝えて~」

 時計を見ると今午後2時。私もコウさんも昨夜からほとんど何も食べていなかった事に気がついた。

 「わかりました。みんなで食べに行きましょう」

 
 いつのまにか不安な気持ちは吹き飛び、幸せな明るい気持ちに満たされていた。
 
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