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13 洞 後日 ②
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「いやー久しぶりの外出だー!」
俺は盛大に伸びをし、スキップしそうな気持ちで家を出た。背後ではショウの
「僕も一緒に~」
と言う悲鳴にも似た声がしたが知らん。と言うか今日俺が行くのはあそこだしな…
駅に到着するとコウ兄さんが待っていた。いつもの高そうなスーツではなくてラフなジャケットとパンツ、そして満面の笑みを浮かべている。ゆとりを持って家を出たはずなのに途中で近所の人に捕まってしまい、電車の時刻ギリギリだ、慌てる俺。
「遅くなっちゃってごめん。タナカのおばちゃんに捕まっちゃって…」
「いいんだよー次の電車でも間に合うんだから。さあ行こう」
満面の笑みをたたえたままコウ兄さんは優しい声で言った。…俺に甘い…と言うか無類の猫好きなので『猫全般に駄々甘い』。俺の事も猫に見えてるのだろう。
今日行くのは(人間の)病院。俺がどこも悪くなってないかを確認する為の定期健診だ。猫から人間という有り得ない変化をしているので、どんなところにどんな負担がかかっているかわからないと心配したコウ兄さんが勝手に決めた、半年に一度の恒例行事だ。
病院自体は遠くないので1人でも行かれるが、過保護なコウ兄さんは仕事の都合をつけて絶対に付き添いをしてくれる。ありがたいが、本当は健診後俺と食べる焼肉の為なのかもしれない。…まぁいいか。
健診後ー
俺たちは焼肉屋さんの個室にいた。甲斐甲斐しく肉を俺に焼いてくれるコウ兄さんに
「いつも個室だけど何で?」
と聞いてみると、
「色々人に聞かれたくない話もあるし…あと、ミイちゃんが肉を全く味付けなしで食べ続けても変な目で見られない様にする為かな。本当は完全レアが食べたいかもしれないけど、今胃腸は人間だからやめといた方がいいよ」
そうか…火は通した方がいいのか、残念。
そう言いつつ焼けた肉を俺の皿にどんどん追加していく。たまにそっとサンチュとかの野菜も皿にのせてくるが、それはそっとコウ兄さんの皿に返しておく。何度もこのやりとりを繰り返しているんだからいい加減諦めて欲しいんだよな。
「ヤマモトさんミイちゃんの食事に苦労してるだろうなぁ…。お給料増やしておこう」
…ちょっと風向きを変えよう。
「そういえば、この間のシャボン玉、S案件だったって?何でショウしか作れない物があるの?ショウに聞いたら『僕神さまだから~』ってはぐらかされちゃってさぁ」
コウ兄さんは俯いて自分の分の肉を焼きながら
「神さまじゃなくて神さまの使いなんだよショウは」
え?
コウ兄さんやショウの家系には神さまの使いになる人間が100年くらいに1人くらいのスパンで生まれるらしい。使いといってもただの使いではなくて『神さまの代行』もするので、出来る事が人間離れしているのが特徴。簡単に言えば『したい、やりたいと思ったことのほとんどができてしまう能力』を持っているらしい。それがショウ。
ほとんど?
「そう。神さまではないからね。多分人の生死に関わる事はできないんじゃないかな?」
それができるならショウはトラ…俺の父ちゃんを生き返らせるだろうな。
「その家系は神さまからの恩恵があるらしいよ。うちの神さまだと…お金に困らない様にしてくれているんだと思う。多分」
コウ兄さんの言葉しては『らしい』やら『思う』やら『多分』が多いな。そう問いかけると
「それはね、うちのクソジジイがきちんと私に引き継ぎをしなかったからなんだ。父や母が交通事故で急死して、私が一足飛びに跡を継ぐ事になったのにあのジジイが『もう少しコウが大きくなったらな~』とか言って!そのくせ会社の仕事だけはきちんと押し付けていきやがった…だからそっち方面はわからない事が多くて…」
コウ兄さん強く握り過ぎて箸が折れそうだよ。そういえば『うちの神さま』って言ったけど…
「そうそう。日本には神さまがたくさんいるだろう?そのうちの力が強い神さまには1柱につき1人そういった使いをする人間がいるんだ…多分」
じゃあ日本中人何人もショウみたいな奴が…怖
「それは心配要らない…確かに他にもそういう家系があるけどショウみたいなのはここ200年くらい生まれていないようだよ。多分神さまの力が弱くなってるんじゃないかな…。だからショウは狙われているんだ」
え?何で?神さまの使いだからか?違うか…ショウの能力か…あとはひょっとしてショウがいれば現世利益の恩恵が受けられると思っているとか?
「ミイちゃん当たり…あいつらバカだよ…確かに恩恵はあるけどどっちかというとそれは神さまからの『厄介な人間の面倒を見てくれるお礼』なんだと私は思ってる、そのくらい大変なんだぞアレ。その上他の家から狙われたから、海外留学までさせたのに、そこまで追いかける奴らが出てきて…慌てて日本に戻したり…目の届く所におく方が安全だろうし…あぁあー奴ら全員神さまのバチが当たらないかなぁ…」
とうとうコウ兄さんは怒りを通り越して遠い目になっちゃった。うわー大変、心配が尽きないわけだ。まぁ俺もある意味ショウの能力の被害者なんでなんともいえないなあ…。
とにかく肉食べよう?ほら話に夢中になっちゃってコゲ始めてるよ?ねっねっ?
俺は盛大に伸びをし、スキップしそうな気持ちで家を出た。背後ではショウの
「僕も一緒に~」
と言う悲鳴にも似た声がしたが知らん。と言うか今日俺が行くのはあそこだしな…
駅に到着するとコウ兄さんが待っていた。いつもの高そうなスーツではなくてラフなジャケットとパンツ、そして満面の笑みを浮かべている。ゆとりを持って家を出たはずなのに途中で近所の人に捕まってしまい、電車の時刻ギリギリだ、慌てる俺。
「遅くなっちゃってごめん。タナカのおばちゃんに捕まっちゃって…」
「いいんだよー次の電車でも間に合うんだから。さあ行こう」
満面の笑みをたたえたままコウ兄さんは優しい声で言った。…俺に甘い…と言うか無類の猫好きなので『猫全般に駄々甘い』。俺の事も猫に見えてるのだろう。
今日行くのは(人間の)病院。俺がどこも悪くなってないかを確認する為の定期健診だ。猫から人間という有り得ない変化をしているので、どんなところにどんな負担がかかっているかわからないと心配したコウ兄さんが勝手に決めた、半年に一度の恒例行事だ。
病院自体は遠くないので1人でも行かれるが、過保護なコウ兄さんは仕事の都合をつけて絶対に付き添いをしてくれる。ありがたいが、本当は健診後俺と食べる焼肉の為なのかもしれない。…まぁいいか。
健診後ー
俺たちは焼肉屋さんの個室にいた。甲斐甲斐しく肉を俺に焼いてくれるコウ兄さんに
「いつも個室だけど何で?」
と聞いてみると、
「色々人に聞かれたくない話もあるし…あと、ミイちゃんが肉を全く味付けなしで食べ続けても変な目で見られない様にする為かな。本当は完全レアが食べたいかもしれないけど、今胃腸は人間だからやめといた方がいいよ」
そうか…火は通した方がいいのか、残念。
そう言いつつ焼けた肉を俺の皿にどんどん追加していく。たまにそっとサンチュとかの野菜も皿にのせてくるが、それはそっとコウ兄さんの皿に返しておく。何度もこのやりとりを繰り返しているんだからいい加減諦めて欲しいんだよな。
「ヤマモトさんミイちゃんの食事に苦労してるだろうなぁ…。お給料増やしておこう」
…ちょっと風向きを変えよう。
「そういえば、この間のシャボン玉、S案件だったって?何でショウしか作れない物があるの?ショウに聞いたら『僕神さまだから~』ってはぐらかされちゃってさぁ」
コウ兄さんは俯いて自分の分の肉を焼きながら
「神さまじゃなくて神さまの使いなんだよショウは」
え?
コウ兄さんやショウの家系には神さまの使いになる人間が100年くらいに1人くらいのスパンで生まれるらしい。使いといってもただの使いではなくて『神さまの代行』もするので、出来る事が人間離れしているのが特徴。簡単に言えば『したい、やりたいと思ったことのほとんどができてしまう能力』を持っているらしい。それがショウ。
ほとんど?
「そう。神さまではないからね。多分人の生死に関わる事はできないんじゃないかな?」
それができるならショウはトラ…俺の父ちゃんを生き返らせるだろうな。
「その家系は神さまからの恩恵があるらしいよ。うちの神さまだと…お金に困らない様にしてくれているんだと思う。多分」
コウ兄さんの言葉しては『らしい』やら『思う』やら『多分』が多いな。そう問いかけると
「それはね、うちのクソジジイがきちんと私に引き継ぎをしなかったからなんだ。父や母が交通事故で急死して、私が一足飛びに跡を継ぐ事になったのにあのジジイが『もう少しコウが大きくなったらな~』とか言って!そのくせ会社の仕事だけはきちんと押し付けていきやがった…だからそっち方面はわからない事が多くて…」
コウ兄さん強く握り過ぎて箸が折れそうだよ。そういえば『うちの神さま』って言ったけど…
「そうそう。日本には神さまがたくさんいるだろう?そのうちの力が強い神さまには1柱につき1人そういった使いをする人間がいるんだ…多分」
じゃあ日本中人何人もショウみたいな奴が…怖
「それは心配要らない…確かに他にもそういう家系があるけどショウみたいなのはここ200年くらい生まれていないようだよ。多分神さまの力が弱くなってるんじゃないかな…。だからショウは狙われているんだ」
え?何で?神さまの使いだからか?違うか…ショウの能力か…あとはひょっとしてショウがいれば現世利益の恩恵が受けられると思っているとか?
「ミイちゃん当たり…あいつらバカだよ…確かに恩恵はあるけどどっちかというとそれは神さまからの『厄介な人間の面倒を見てくれるお礼』なんだと私は思ってる、そのくらい大変なんだぞアレ。その上他の家から狙われたから、海外留学までさせたのに、そこまで追いかける奴らが出てきて…慌てて日本に戻したり…目の届く所におく方が安全だろうし…あぁあー奴ら全員神さまのバチが当たらないかなぁ…」
とうとうコウ兄さんは怒りを通り越して遠い目になっちゃった。うわー大変、心配が尽きないわけだ。まぁ俺もある意味ショウの能力の被害者なんでなんともいえないなあ…。
とにかく肉食べよう?ほら話に夢中になっちゃってコゲ始めてるよ?ねっねっ?
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