10 / 29
10 コウタロウの視点 ①
しおりを挟む
あの日の事は今でもはっきりと覚えている。数年前のあの日少し肌寒く、今にも雨が降りそうな空模様だった。いつもの通り仕事をしていると内線が鳴った。
「社長、弟さんが受付にいらしてますがお通ししますか?」
「ショウが?通してくれ」
「かしこまりました」
ショウがこんな都会に来るのは珍しい。いつもは出不精で家にいることが多く、出かけてもウチの会社の研究室くらい。そうでなくても飼い猫のトラが亡くなって以来やや塞ぎ気味だった上、トラの子のミイちゃんもここ数日姿が見えないと聞いて心配していたが…気晴らしに外出出来たなら大歓迎だ。何なら小遣いを奮発してやろうと思っていると、ノックがしてドアが開いた。
そこにはいつものショウと知らない『子』がいた。『子』と言ったが、厳密には中学を卒業したばかりくらいの年頃の男子だ。アッシュグレーのふわふわした感じの髪の毛、スラリと伸びた手足。背はショウより低いが何より大きな目が印象的だ。…何かを思い出させるような…
「友達連れて来たのか?珍しい事もあるもんだ。で、何だ用事は?財布でも落としたか?」
とからかい混ざりに聞いてみると、言い出し難いことでもあるのかモジモジしていたが意を決したようで
「信じてもらえないかも知れないけど『ミイちゃん』なんだ」
ミイちゃん?トラの子の?何を言ってるのか?
「この子『ミイちゃん』なんだ」
それからショウがした話はとんでもない内容だった。遺伝子操作でミイちゃんを人間にしたと言っている。ソファに座ってお茶を飲みながら話すショウに嘘をつく時の癖は出ていない。私は悲しくなった。
元々人間離れしているくらい頭の良い弟は周りからキチンと理解される事がほとんどなく、その為友人と呼べるほどの人間はいない。彼の友人は飼い猫のトラとミイちゃんのみと言ってもいい。そんな大事なトラが老衰で亡くなり、心にダメージを受けているのにフォローすべき私は仕事で忙しく何も出来なかった。寂しくてそんな妄想に取り憑かれてしまってもおかしくはない。
(いい病院で診察とカウンセリングをしてもらおう)
そう判断し、とりあえず話を合わせて一旦自宅に帰らせた。勿論その男の子も一緒にだ。どこの誰かは知らないけれど、無口なその子に『ショウと一緒に帰るか?』
と聞いたらハッキリ頷いたので一時保護だ。
ショウの事を悩みつつ残りの仕事をこなしていると携帯が鳴った。[ヤマモトさん]とディスプレイに表示されている。何かあったかと慌てて電話をとる。
「ヤマモトです。お仕事中すいませんが今よろしいですか?」
昔から家の中の事全般とショウの世話を一手に引き受けてきたヤマモトさんが仕事中に連絡してくる事はとても珍しい。胸騒ぎがした。
「今日ショウさんが『ミイちゃん』さんを連れて来たのですが…」
あぁやっぱり何かあったのだな。
「何かありましたか?ショウに」
「いえショウさんはいつも通りなのですが、『ミイちゃん』さんのことで」
いつものキッパリした口調とは違い何やら口ごもっている。
「その『ミイちゃん』に何か?」
「信じてもらえないかも知れませんが…」
同じセリフショウも言っていたな。
「あの方本当に『ミイちゃん』かも知れません」
「社長、弟さんが受付にいらしてますがお通ししますか?」
「ショウが?通してくれ」
「かしこまりました」
ショウがこんな都会に来るのは珍しい。いつもは出不精で家にいることが多く、出かけてもウチの会社の研究室くらい。そうでなくても飼い猫のトラが亡くなって以来やや塞ぎ気味だった上、トラの子のミイちゃんもここ数日姿が見えないと聞いて心配していたが…気晴らしに外出出来たなら大歓迎だ。何なら小遣いを奮発してやろうと思っていると、ノックがしてドアが開いた。
そこにはいつものショウと知らない『子』がいた。『子』と言ったが、厳密には中学を卒業したばかりくらいの年頃の男子だ。アッシュグレーのふわふわした感じの髪の毛、スラリと伸びた手足。背はショウより低いが何より大きな目が印象的だ。…何かを思い出させるような…
「友達連れて来たのか?珍しい事もあるもんだ。で、何だ用事は?財布でも落としたか?」
とからかい混ざりに聞いてみると、言い出し難いことでもあるのかモジモジしていたが意を決したようで
「信じてもらえないかも知れないけど『ミイちゃん』なんだ」
ミイちゃん?トラの子の?何を言ってるのか?
「この子『ミイちゃん』なんだ」
それからショウがした話はとんでもない内容だった。遺伝子操作でミイちゃんを人間にしたと言っている。ソファに座ってお茶を飲みながら話すショウに嘘をつく時の癖は出ていない。私は悲しくなった。
元々人間離れしているくらい頭の良い弟は周りからキチンと理解される事がほとんどなく、その為友人と呼べるほどの人間はいない。彼の友人は飼い猫のトラとミイちゃんのみと言ってもいい。そんな大事なトラが老衰で亡くなり、心にダメージを受けているのにフォローすべき私は仕事で忙しく何も出来なかった。寂しくてそんな妄想に取り憑かれてしまってもおかしくはない。
(いい病院で診察とカウンセリングをしてもらおう)
そう判断し、とりあえず話を合わせて一旦自宅に帰らせた。勿論その男の子も一緒にだ。どこの誰かは知らないけれど、無口なその子に『ショウと一緒に帰るか?』
と聞いたらハッキリ頷いたので一時保護だ。
ショウの事を悩みつつ残りの仕事をこなしていると携帯が鳴った。[ヤマモトさん]とディスプレイに表示されている。何かあったかと慌てて電話をとる。
「ヤマモトです。お仕事中すいませんが今よろしいですか?」
昔から家の中の事全般とショウの世話を一手に引き受けてきたヤマモトさんが仕事中に連絡してくる事はとても珍しい。胸騒ぎがした。
「今日ショウさんが『ミイちゃん』さんを連れて来たのですが…」
あぁやっぱり何かあったのだな。
「何かありましたか?ショウに」
「いえショウさんはいつも通りなのですが、『ミイちゃん』さんのことで」
いつものキッパリした口調とは違い何やら口ごもっている。
「その『ミイちゃん』に何か?」
「信じてもらえないかも知れませんが…」
同じセリフショウも言っていたな。
「あの方本当に『ミイちゃん』かも知れません」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
※毎日18時更新予定です。
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
京都かくりよあやかし書房
西門 檀
キャラ文芸
迷い込んだ世界は、かつて現世の世界にあったという。
時が止まった明治の世界。
そこには、あやかしたちの営みが栄えていた。
人間の世界からこちらへと来てしまった、春しおりはあやかし書房でお世話になる。
イケメン店主と双子のおきつね書店員、ふしぎな町で出会うあやかしたちとのハートフルなお話。
※2025年1月1日より本編start! だいたい毎日更新の予定です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる