いつも巻き込まれて困ってます!〜ショウとミイちゃんの日常

閑人

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10 コウタロウの視点 ①

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あの日の事は今でもはっきりと覚えている。数年前のあの日少し肌寒く、今にも雨が降りそうな空模様だった。いつもの通り仕事をしていると内線が鳴った。

 「社長、弟さんが受付にいらしてますがお通ししますか?」

 「ショウが?通してくれ」

 「かしこまりました」

 ショウがこんな都会に来るのは珍しい。いつもは出不精で家にいることが多く、出かけてもウチの会社の研究室くらい。そうでなくても飼い猫のトラが亡くなって以来やや塞ぎ気味だった上、トラの子のミイちゃんもここ数日姿が見えないと聞いて心配していたが…気晴らしに外出出来たなら大歓迎だ。何なら小遣いを奮発してやろうと思っていると、ノックがしてドアが開いた。

 そこにはいつものショウと知らない『子』がいた。『子』と言ったが、厳密には中学を卒業したばかりくらいの年頃の男子だ。アッシュグレーのふわふわした感じの髪の毛、スラリと伸びた手足。背はショウより低いが何より大きな目が印象的だ。…何かを思い出させるような…

 「友達連れて来たのか?珍しい事もあるもんだ。で、何だ用事は?財布でも落としたか?」

とからかい混ざりに聞いてみると、言い出し難いことでもあるのかモジモジしていたが意を決したようで

 「信じてもらえないかも知れないけど『ミイちゃん』なんだ」

 ミイちゃん?トラの子の?何を言ってるのか?

 「この子『ミイちゃん』なんだ」

 それからショウがした話はとんでもない内容だった。遺伝子操作でミイちゃんを人間にしたと言っている。ソファに座ってお茶を飲みながら話すショウに嘘をつく時の癖は出ていない。私は悲しくなった。

 元々人間離れしているくらい頭の良い弟は周りからキチンと理解される事がほとんどなく、その為友人と呼べるほどの人間はいない。彼の友人は飼い猫のトラとミイちゃんのみと言ってもいい。そんな大事なトラが老衰で亡くなり、心にダメージを受けているのにフォローすべき私は仕事で忙しく何も出来なかった。寂しくてそんな妄想に取り憑かれてしまってもおかしくはない。

 (いい病院で診察とカウンセリングをしてもらおう)
 
 そう判断し、とりあえず話を合わせて一旦自宅に帰らせた。勿論その男の子も一緒にだ。どこの誰かは知らないけれど、無口なその子に『ショウと一緒に帰るか?』
と聞いたらハッキリ頷いたので一時保護だ。

 ショウの事を悩みつつ残りの仕事をこなしていると携帯が鳴った。[ヤマモトさん]とディスプレイに表示されている。何かあったかと慌てて電話をとる。

「ヤマモトです。お仕事中すいませんが今よろしいですか?」

 昔から家の中の事全般とショウの世話を一手に引き受けてきたヤマモトさんが仕事中に連絡してくる事はとても珍しい。胸騒ぎがした。

 「今日ショウさんが『ミイちゃん』さんを連れて来たのですが…」

 あぁやっぱり何かあったのだな。

 「何かありましたか?ショウに」

 「いえショウさんはいつも通りなのですが、『ミイちゃん』さんのことで」

 いつものキッパリした口調とは違い何やら口ごもっている。

 「その『ミイちゃん』に何か?」

 「信じてもらえないかも知れませんが…」
 
 同じセリフショウも言っていたな。

 「あの方本当に『ミイちゃん』かも知れません」
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