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9 洞 ⑤
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「まだ水から上がってないのにシャボン玉割るって信じられねぇ!俺が濡れるの嫌いって知ってるだろう!どうしてくれるんだ!」
何とか少しでも乾かせないかと跳ねてみたり頑張ってみるも無駄骨で、怒りが収まらない。
「ごめ~ん。でも水からは上がれたからいいでしょう?あと目的の物も見つかったし~」
「良いわけない!…ん?目的の物って何だ?」
ふふーんという鼻息まで聞こえてきそうなドヤ顔をさらしたショウは言った。
「それは~これで~す!この壁画で~す」
暗闇に目をこらすとショウの背後の壁一面に絵が描いてあるのが確かに見える。かなりの広さに描かれたもので、動物だったり、お祈りをする人々だったり、狩をする人だったりと内容は様々だ。歴史の教科書とかに載ってそう…まさか!
「この壁画は今月号のここに載ってたんだ~」
ショウが取り出したのはやっぱりあのトンデモ本!今度出版社に抗議のメールいれようかな…それはさておき、この壁画はすごい。線は単純なんだけど、力強いタッチと生々しい描写、美術センスの無い俺ですら分かる…素晴らしい。
「『この壁画は1万年以上前に描かれた物と言われており、江戸時代に鍾乳洞に迷い込んだ農民たちが偶然見つけたが、その後壁画まで辿り着くルートが水没した為行くことが出来なくなり幻の壁画と言われている』だって~」
…水没…だからあの頑丈なシャボン玉の浮袋作ったのか…何故壁画までの道がわかったのかは聞かないぞ、絶対大変で面倒な事になるからな。
そこでちょっと疑問に思いショウに聞いてみる。
「シャボン玉作るより普通にスキューバダイビングで行けば良かったんじゃないか?」
「…バレちゃうから」
「は?」
「そんなライセンス取ったりしたらコウ兄さんにバレちゃうじゃないか『何する気だ!』って。バレたら止められるでしょ~」
当たり前だよ。止められる様な事をしなきゃいいだけなんだよな。何でそこがわからないのか。
ショウのアホさ加減は見ない事にして、壁画を堪能しよう。あ!壁とかのサンプル取るなよ、お前考古学専門外だろう?写真?そんくらいならいいんじゃかな?本当ならフラッシュとかの影響とか考えるべきなのかもしれないけど、もう俺たちここに来ちゃってる時点でごめんなさいだし。…しかし濡れた服が気持ち悪いなあ
「そろそろ帰ろうぜ。洞窟だから分かりにくいけどもう夕方くらいだよな。後はその写真をプロに見せてお任せしよう。ほら、さっきのシャボン玉出せよ」
「…落とした」
「何だと!」
ガバっとショウが土下座を開始した。
「さっき水から上がる時水中にドボンって~」
「じゃあ携帯で連絡」
ショウ土下座続行中
「圏外です」
ほんとだ。アンテナ立って無い。
「…濡れるの諦めてやるからあの水中ドローンに引っ張ってもらって帰ろう。あのおしゃぶり型の空気?ボンベ?はあるし」
土下座の頭の位置が低くなった。
「残念ながらドローンは燃料ギレ、計算ミスです」
「じゃこの間みたいな緊急信号を出す機械とかは?」
「無いです」
詰んだ。百歩譲ってシャボン玉を水中に落としたのは許そう。でも燃料ギレは無い。どういう計算したらそうなるのか、シャボン玉あっても帰れなかったって事か?
途方にくれていると土下座続行中のショウが顔をひょっこりあげた。意外にもその表情に焦りも不安もない、何ならまだ余裕がありそうだ。
「そこで~ミイちゃんにお願いが~」
「何だよ。謝罪しか受け付けないぞ」
「それはさておき~この鍾乳洞水中を通る以外にも地上に戻れる道があるはずなんだ~。で、ミイちゃんに野性?の能力で探ってもらえないかと~」
「…『さておき』って何だ?『野性の能力』って何だ?そんな事やったことないぞ!」
「できる!はず?ここで救助を待つのも悪くないけどいつになるかわからないし~頼むよ~」
確かに体力的にはここで救助を待つ選択肢はありだ。ただここの空気とかが大丈夫なうちに助けてもらえるかわからない…やってみるか。
まず目を凝らして周りを見てみると壁画の端辺りに何本か抜け穴があるのがわかった。これのどれかがショウの言ってた地上に戻れる道なのか?耳をそばだてて音を聞いても水滴が落ちる音しかしない、残念。次は
「戻れたら、ふっかふかのデカいクッション買ってくれ、高いヤツ」
「買わせて頂きます。クッションでもキャットタワーでも何でも~」
「俺が乗れるタワーなんてないだろう!まあいい、約束だからな。こっちだ」
と抜け穴の1つを指差した。その後も分かれ道の度に『こっちはダメ』『こっちだ』と繰り返して進んで行く。洞窟は広くなったり狭くなったりはするが人は通れそう。余り悩まずに決めていく俺にさすがのショウでも不安になってきたのか
「ミイちゃん、簡単に行き先決めてるけどどうやって決めてるの?」
「『空気の臭い』だな」
「『空気の臭い』?」
「外の臭いが空気に混ざっているんだ。それが強い方を選んでる。これも猫の能力の残りなのかな?…大分臭いが強くなってる!そろそろ外に近いぞ!」
外が見えた!でも着いた先は穴の底だった。地上まで何メートルあるんだろう、絶望的だ…見上げると外はもう夜になっていて星が良く見える。
「…ごめん」
疲れ果てた俺たちはそこに倒れ込むように座った。
「ミイちゃんは悪くない。僕がちゃんとしてれば~」
「そうだショウ!お前が全面的に悪い!」
急に穴の上から聞き慣れた大声が聞こえてきた。びっくりして見上げると2人の人間のシルエットが!
「コウ兄さん?マツナガさんもいる!どうしてここが!」
縄梯子が降ろされてきた。助かった。理由なんてどうでもいい。ゆっくり休みたい。
何とか少しでも乾かせないかと跳ねてみたり頑張ってみるも無駄骨で、怒りが収まらない。
「ごめ~ん。でも水からは上がれたからいいでしょう?あと目的の物も見つかったし~」
「良いわけない!…ん?目的の物って何だ?」
ふふーんという鼻息まで聞こえてきそうなドヤ顔をさらしたショウは言った。
「それは~これで~す!この壁画で~す」
暗闇に目をこらすとショウの背後の壁一面に絵が描いてあるのが確かに見える。かなりの広さに描かれたもので、動物だったり、お祈りをする人々だったり、狩をする人だったりと内容は様々だ。歴史の教科書とかに載ってそう…まさか!
「この壁画は今月号のここに載ってたんだ~」
ショウが取り出したのはやっぱりあのトンデモ本!今度出版社に抗議のメールいれようかな…それはさておき、この壁画はすごい。線は単純なんだけど、力強いタッチと生々しい描写、美術センスの無い俺ですら分かる…素晴らしい。
「『この壁画は1万年以上前に描かれた物と言われており、江戸時代に鍾乳洞に迷い込んだ農民たちが偶然見つけたが、その後壁画まで辿り着くルートが水没した為行くことが出来なくなり幻の壁画と言われている』だって~」
…水没…だからあの頑丈なシャボン玉の浮袋作ったのか…何故壁画までの道がわかったのかは聞かないぞ、絶対大変で面倒な事になるからな。
そこでちょっと疑問に思いショウに聞いてみる。
「シャボン玉作るより普通にスキューバダイビングで行けば良かったんじゃないか?」
「…バレちゃうから」
「は?」
「そんなライセンス取ったりしたらコウ兄さんにバレちゃうじゃないか『何する気だ!』って。バレたら止められるでしょ~」
当たり前だよ。止められる様な事をしなきゃいいだけなんだよな。何でそこがわからないのか。
ショウのアホさ加減は見ない事にして、壁画を堪能しよう。あ!壁とかのサンプル取るなよ、お前考古学専門外だろう?写真?そんくらいならいいんじゃかな?本当ならフラッシュとかの影響とか考えるべきなのかもしれないけど、もう俺たちここに来ちゃってる時点でごめんなさいだし。…しかし濡れた服が気持ち悪いなあ
「そろそろ帰ろうぜ。洞窟だから分かりにくいけどもう夕方くらいだよな。後はその写真をプロに見せてお任せしよう。ほら、さっきのシャボン玉出せよ」
「…落とした」
「何だと!」
ガバっとショウが土下座を開始した。
「さっき水から上がる時水中にドボンって~」
「じゃあ携帯で連絡」
ショウ土下座続行中
「圏外です」
ほんとだ。アンテナ立って無い。
「…濡れるの諦めてやるからあの水中ドローンに引っ張ってもらって帰ろう。あのおしゃぶり型の空気?ボンベ?はあるし」
土下座の頭の位置が低くなった。
「残念ながらドローンは燃料ギレ、計算ミスです」
「じゃこの間みたいな緊急信号を出す機械とかは?」
「無いです」
詰んだ。百歩譲ってシャボン玉を水中に落としたのは許そう。でも燃料ギレは無い。どういう計算したらそうなるのか、シャボン玉あっても帰れなかったって事か?
途方にくれていると土下座続行中のショウが顔をひょっこりあげた。意外にもその表情に焦りも不安もない、何ならまだ余裕がありそうだ。
「そこで~ミイちゃんにお願いが~」
「何だよ。謝罪しか受け付けないぞ」
「それはさておき~この鍾乳洞水中を通る以外にも地上に戻れる道があるはずなんだ~。で、ミイちゃんに野性?の能力で探ってもらえないかと~」
「…『さておき』って何だ?『野性の能力』って何だ?そんな事やったことないぞ!」
「できる!はず?ここで救助を待つのも悪くないけどいつになるかわからないし~頼むよ~」
確かに体力的にはここで救助を待つ選択肢はありだ。ただここの空気とかが大丈夫なうちに助けてもらえるかわからない…やってみるか。
まず目を凝らして周りを見てみると壁画の端辺りに何本か抜け穴があるのがわかった。これのどれかがショウの言ってた地上に戻れる道なのか?耳をそばだてて音を聞いても水滴が落ちる音しかしない、残念。次は
「戻れたら、ふっかふかのデカいクッション買ってくれ、高いヤツ」
「買わせて頂きます。クッションでもキャットタワーでも何でも~」
「俺が乗れるタワーなんてないだろう!まあいい、約束だからな。こっちだ」
と抜け穴の1つを指差した。その後も分かれ道の度に『こっちはダメ』『こっちだ』と繰り返して進んで行く。洞窟は広くなったり狭くなったりはするが人は通れそう。余り悩まずに決めていく俺にさすがのショウでも不安になってきたのか
「ミイちゃん、簡単に行き先決めてるけどどうやって決めてるの?」
「『空気の臭い』だな」
「『空気の臭い』?」
「外の臭いが空気に混ざっているんだ。それが強い方を選んでる。これも猫の能力の残りなのかな?…大分臭いが強くなってる!そろそろ外に近いぞ!」
外が見えた!でも着いた先は穴の底だった。地上まで何メートルあるんだろう、絶望的だ…見上げると外はもう夜になっていて星が良く見える。
「…ごめん」
疲れ果てた俺たちはそこに倒れ込むように座った。
「ミイちゃんは悪くない。僕がちゃんとしてれば~」
「そうだショウ!お前が全面的に悪い!」
急に穴の上から聞き慣れた大声が聞こえてきた。びっくりして見上げると2人の人間のシルエットが!
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縄梯子が降ろされてきた。助かった。理由なんてどうでもいい。ゆっくり休みたい。
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