6 / 29
6 洞 ②
しおりを挟む
次の日の朝ショウが何とか仕上げた書類を大事そうに持ったマツナガさんは満足げだった。
「それでは私はこの書類を持って会社に帰ります。ショウさんとケイタロウさんは明日マイクロバスでここから家まで送ってくれるそうなので、そちらでお帰り下さい。では」
本当に仕事だけしに来たんだなマツナガさん、お疲れ様でした。
「あぁ疲れた~。本当にコウ兄さんもマツナガさんも仕事の鬼だよね~。行きたいところあるのに~」
「サボらなければいいんじゃないかな?忙しい訳じゃないでしょ。というか忙しくしているところなんてみた事ないぞ」
と俺が言うと、偉そうに腰に手をあてて、チッチッチッと指をふった。古臭いジェスチャーだが癪に触るのは間違いない。
「この僕を舐めてもらっては困るなあ~。どれだけ役に立つ物を作り、どれだけあの会社に利益をもたらしてるか!」
「利益?あるの?」
「…詳しくは知らないけど沢山!あるはず?」
やっぱり知らないのか。マツナガさんの表情から察するに全く利益無しというか訳ではなさそうだが、その分やらかしてる事も多いからその尻拭いの労力を考えるといいとこトントン…いやマイナスの方が大きいかも。今度コウ兄さんに聞いてみよ。
「でショウお前はどこへ行きたいんだ?危なくない所なら付き合ってやってもいい」
モジモジすんな気持ち悪い。はっきり言え
「ここ!」
と連れてこられたのは
ふぁみりぃどうぶつこうえん
…可愛らしい書体で書かれた看板に目を疑った。ここは
お子様も楽しめるほんわか動物園。勿論猛獣系の動物はおらず色々な動物とふれあえるのがここの売りらしい。周りにいる家族の子供たちが
「パパー!こっちこっち!キリンさんにご飯あげるの!」
「ママ。モルモットさんと写真撮りたーい」
などと大はしゃぎだ。確かにほのぼのとして良い場所なのだが、男2人で行く場所がここ?あいつのチョイスおかしくないか?…でもこの間の砂漠より幾分かましか…
そんなちょっと前向きな気持ちも最初の動物の檻の前で消えた。俺が檻に近づくと中にいた鳥たち(多分孔雀)が
ピギャー!ギャー!
などと叫び怯えて檻の中を逃げ惑い、最後には隅に集まって隠れてしまったのだ。そばにいた家族連れも
「鳥さん隅っこで隠れちゃったよ?どうしたのかな?」
「そうだね?何でだろう…機嫌が悪いのかも知れないから先に他の動物見に行こう」
ごめん。それ多分俺のせい。動物たちにしてみたら
『人間の姿なのに人間じゃない生き物が来た!怖い!』
なんだろう。怖がらせちゃって申し訳ない、ってあいつこれが見たくてここを選んだとか?
「おいショウ!まさかお前…」
「ミイちゃん本物のいろんな動物見た事ないって言ってたから連れて来たかったんだ~」
さっきの子どもたちと同じ邪気のない笑顔がそこにはあった。疑ってごめん。
その後も地獄だった。キリンに餌をあげようとしても、怖がって手の届く範囲には1頭も近づいてこないし、逆にネコ科の動物は異常なくらい俺をガン見&接近してくる。何ならちょっと話しかけてくるヤツもいるが、何か(言語体系?)が違うらしく良くはわからなかったがこれだけは聞き取れた。
「お前新入りか?」
…違います
モルモットとのふれあい広場に至っては、ショウに押し切られて入ったはいいけど、あっという間にモルモットが1匹もいなくなった。正確には俺から1番離れた隅っこに皆固まって怯えてブルブル震えてる。本当にごめんなさい。君たちにストレスを与えるつもりなんてこれっぽっちもないんだ。飼育員さんがふれあい広場始まって以来の珍事にオロオロしているのがいたたまれない。
「お客様申し訳ございません。こんな事はじめてでモルモットたちに何かあったのかもしれません…。そこで一応確認なんですがひょっとしてお客様猛獣なんて飼っていたりとか…そんな訳ないですよねー失礼しました」
飼っていません。本人です。
「それでは私はこの書類を持って会社に帰ります。ショウさんとケイタロウさんは明日マイクロバスでここから家まで送ってくれるそうなので、そちらでお帰り下さい。では」
本当に仕事だけしに来たんだなマツナガさん、お疲れ様でした。
「あぁ疲れた~。本当にコウ兄さんもマツナガさんも仕事の鬼だよね~。行きたいところあるのに~」
「サボらなければいいんじゃないかな?忙しい訳じゃないでしょ。というか忙しくしているところなんてみた事ないぞ」
と俺が言うと、偉そうに腰に手をあてて、チッチッチッと指をふった。古臭いジェスチャーだが癪に触るのは間違いない。
「この僕を舐めてもらっては困るなあ~。どれだけ役に立つ物を作り、どれだけあの会社に利益をもたらしてるか!」
「利益?あるの?」
「…詳しくは知らないけど沢山!あるはず?」
やっぱり知らないのか。マツナガさんの表情から察するに全く利益無しというか訳ではなさそうだが、その分やらかしてる事も多いからその尻拭いの労力を考えるといいとこトントン…いやマイナスの方が大きいかも。今度コウ兄さんに聞いてみよ。
「でショウお前はどこへ行きたいんだ?危なくない所なら付き合ってやってもいい」
モジモジすんな気持ち悪い。はっきり言え
「ここ!」
と連れてこられたのは
ふぁみりぃどうぶつこうえん
…可愛らしい書体で書かれた看板に目を疑った。ここは
お子様も楽しめるほんわか動物園。勿論猛獣系の動物はおらず色々な動物とふれあえるのがここの売りらしい。周りにいる家族の子供たちが
「パパー!こっちこっち!キリンさんにご飯あげるの!」
「ママ。モルモットさんと写真撮りたーい」
などと大はしゃぎだ。確かにほのぼのとして良い場所なのだが、男2人で行く場所がここ?あいつのチョイスおかしくないか?…でもこの間の砂漠より幾分かましか…
そんなちょっと前向きな気持ちも最初の動物の檻の前で消えた。俺が檻に近づくと中にいた鳥たち(多分孔雀)が
ピギャー!ギャー!
などと叫び怯えて檻の中を逃げ惑い、最後には隅に集まって隠れてしまったのだ。そばにいた家族連れも
「鳥さん隅っこで隠れちゃったよ?どうしたのかな?」
「そうだね?何でだろう…機嫌が悪いのかも知れないから先に他の動物見に行こう」
ごめん。それ多分俺のせい。動物たちにしてみたら
『人間の姿なのに人間じゃない生き物が来た!怖い!』
なんだろう。怖がらせちゃって申し訳ない、ってあいつこれが見たくてここを選んだとか?
「おいショウ!まさかお前…」
「ミイちゃん本物のいろんな動物見た事ないって言ってたから連れて来たかったんだ~」
さっきの子どもたちと同じ邪気のない笑顔がそこにはあった。疑ってごめん。
その後も地獄だった。キリンに餌をあげようとしても、怖がって手の届く範囲には1頭も近づいてこないし、逆にネコ科の動物は異常なくらい俺をガン見&接近してくる。何ならちょっと話しかけてくるヤツもいるが、何か(言語体系?)が違うらしく良くはわからなかったがこれだけは聞き取れた。
「お前新入りか?」
…違います
モルモットとのふれあい広場に至っては、ショウに押し切られて入ったはいいけど、あっという間にモルモットが1匹もいなくなった。正確には俺から1番離れた隅っこに皆固まって怯えてブルブル震えてる。本当にごめんなさい。君たちにストレスを与えるつもりなんてこれっぽっちもないんだ。飼育員さんがふれあい広場始まって以来の珍事にオロオロしているのがいたたまれない。
「お客様申し訳ございません。こんな事はじめてでモルモットたちに何かあったのかもしれません…。そこで一応確認なんですがひょっとしてお客様猛獣なんて飼っていたりとか…そんな訳ないですよねー失礼しました」
飼っていません。本人です。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
※毎日18時更新予定です。
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
京都かくりよあやかし書房
西門 檀
キャラ文芸
迷い込んだ世界は、かつて現世の世界にあったという。
時が止まった明治の世界。
そこには、あやかしたちの営みが栄えていた。
人間の世界からこちらへと来てしまった、春しおりはあやかし書房でお世話になる。
イケメン店主と双子のおきつね書店員、ふしぎな町で出会うあやかしたちとのハートフルなお話。
※2025年1月1日より本編start! だいたい毎日更新の予定です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる