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5 洞 ①
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いい年の大人が床にひっくり返ってジタバタ文句を言っている。長身で黙ってれば整った顔をしているヤツのそんな姿は見るに耐えない…
「ミイちゃん~どっか遊びに行こうよ~」
それ言うの何度目なんだよ。何日か前からずっと言ってるよな?いい加減に諦めろ。家でゴロゴロするののどこが悪いんだ。俺はゆっくりしたいの。あとお前の変な冒険には付き合わないからな。
散々ジタバタしたショウが急にガバッと起き上がった。
「そうだ!ヤマモトさんに休暇をとってもらおう!」
「はあ?」訳わからない事言い始めたぞこいつ。
「ほら、このところミイちゃんのお世話で忙しいかったし~慰労って事で」
「お前の世話の間違いじゃない?」
「え~ミイちゃんのご飯超偏食&超減塩で大変だって言ってたよ~」
まあ確かに否定はしない。猫の時の味覚がまだ残っているらしく塩分のきいたのもあまり好みじゃないし辛い物も苦手だ。その上野菜全般が嫌いときてるので苦労かけている自覚はある。申し訳ないとは思っているが直す気はさらさらないのが現状だ。だからヤマモトさんに休みをとってもらうのは大賛成なのだが
「休暇をとってもらうのは賛成なんだよね?」
「あぁ」
してやったりな表情を浮かべるショウ。その顔コウ兄さんに似てるな。
「じゃあ出かけよう!」
「だから何で?」
「だ~か~ら~。僕たちが家に居なければ気兼ねなく休暇がとれるでしょ?」
「…俺は家に残る。掃除はしなくても大丈夫だし、ご飯はテキトーに食う」
最後の足掻きをしてみるも
「じゃあヤマモトさんにそれ言ってみ?きっと『ミイちゃんが家にいるなら休みはとりません』って言うから」
負けた…俺は出かけることを了承せざるを得なかった。
次の日満面の笑みを浮かべるショウと仏頂面の俺は2泊3日の旅行に出発した。
「マツナガさんすいません。急に運転手頼んじゃって~」浮かれた声のショウ。こら!車の窓に顔をつけて外を見るな!お前は子どもか?
「いいえ、大丈夫ですよ。これも仕事ですから」
そういえばスーツ姿だな。
マツナガさんは30代のちょっと丸いシルエットの穏やかそうなおじさんだが、こう見えても弁護士資格持ちで特許分野のプロだ。
…ショウもきちんとした格好すれば多分イケメンーー目は切れ長の一重で鼻筋も通ってるし、口元もきゅっとしまってるーーでもボッサボッサの髪とダッサダッサの眼鏡で全部台無しなんだよなぁ。残念でならない。
「運転が仕事?」
「そうなんです。ショウさんにお願いした書類が締切過ぎてもまだ出来てないので、会社の保養所で『私の目の前で書いてもらう』予定なんですよ。所謂缶詰めです。だからこそ社長が急な保養所の使用を許可したんです」
「聞いてない!」愕然とするショウ。
「『言ったら逃げられるからギリギリまで言うな』と社長が」
さすが自分の弟の事は良くご存じで
「騙された~ミイちゃんとの旅行が~」
保養所に着いた途端ショウは早速パソコンのある部屋に連行されていった。よし!俺はのんびりしよう。
部屋のテレビでは昔のドラマのスペシャルをやっていた。刑事ドラマのようだ…凄いなコレ。拳銃はバンバン撃つし、車はパトカーだろうが犯人の車だろうがゴロンゴロンと転がって大爆発!時間を忘れて見入っていると、部屋にマツナガさんが入ってきた。
仕事終わったのかな?
「まだです。やる気になれば1、2時間で終わる作業量なのですが…」
ぐずぐずしてるんだろうな…お疲れのようなので冷蔵庫の飲み物をサービスした。
「ありがとうございます。ん?随分と古いドラマ見てるんですね?面白いですか?」
「すっごく面白い!でもこんなに拳銃って撃っていいの?周りに迷惑にならない?」
「絶対ダメです。ドラマだから許されるんですよ」
強めの否定がきたな、真面目なマツナガさんらしい。
「だよねー。こんな拳銃なんかも見たことないし」
すると画面を一緒に見ていたマツナガさんが
「あ、この拳銃昔社長が使ったのと同型ですね」
今何と?
「海外で強盗に囲まれた時普通に使ってましたよ。まさか良い服着た育ちの良さそうな日本人が撃つとは向こうも思ってなかったみたいで驚いてましたね」
と笑いながら言った。怖い。
「いやー『邪魔だうせろ』って言葉『コーヒー1杯下さい』と同じテンションで言う人初めて見ましたよ」
「えええ…で、ほんとに撃ったの?」
「そう、そしてキチンと当ててましたね。強盗の耳上半分無くなっていて私もちょっと驚きました」
「『ちょっと』なんだ驚くの…」
「その後ウチの護衛と警官が来て、事なきをえましたが後処理の方が大変で…」苦々しい表情だ。
「『後処理の方が大変』…」
「私はその時社長の言葉が忘れられなくて…この人に一生ついていこうと思いましたね」
えとそれはどのような?
「『額の真ん中狙ったのに』」
決めた。コウ兄さんには逆らわないようにしよう。
「ミイちゃん~どっか遊びに行こうよ~」
それ言うの何度目なんだよ。何日か前からずっと言ってるよな?いい加減に諦めろ。家でゴロゴロするののどこが悪いんだ。俺はゆっくりしたいの。あとお前の変な冒険には付き合わないからな。
散々ジタバタしたショウが急にガバッと起き上がった。
「そうだ!ヤマモトさんに休暇をとってもらおう!」
「はあ?」訳わからない事言い始めたぞこいつ。
「ほら、このところミイちゃんのお世話で忙しいかったし~慰労って事で」
「お前の世話の間違いじゃない?」
「え~ミイちゃんのご飯超偏食&超減塩で大変だって言ってたよ~」
まあ確かに否定はしない。猫の時の味覚がまだ残っているらしく塩分のきいたのもあまり好みじゃないし辛い物も苦手だ。その上野菜全般が嫌いときてるので苦労かけている自覚はある。申し訳ないとは思っているが直す気はさらさらないのが現状だ。だからヤマモトさんに休みをとってもらうのは大賛成なのだが
「休暇をとってもらうのは賛成なんだよね?」
「あぁ」
してやったりな表情を浮かべるショウ。その顔コウ兄さんに似てるな。
「じゃあ出かけよう!」
「だから何で?」
「だ~か~ら~。僕たちが家に居なければ気兼ねなく休暇がとれるでしょ?」
「…俺は家に残る。掃除はしなくても大丈夫だし、ご飯はテキトーに食う」
最後の足掻きをしてみるも
「じゃあヤマモトさんにそれ言ってみ?きっと『ミイちゃんが家にいるなら休みはとりません』って言うから」
負けた…俺は出かけることを了承せざるを得なかった。
次の日満面の笑みを浮かべるショウと仏頂面の俺は2泊3日の旅行に出発した。
「マツナガさんすいません。急に運転手頼んじゃって~」浮かれた声のショウ。こら!車の窓に顔をつけて外を見るな!お前は子どもか?
「いいえ、大丈夫ですよ。これも仕事ですから」
そういえばスーツ姿だな。
マツナガさんは30代のちょっと丸いシルエットの穏やかそうなおじさんだが、こう見えても弁護士資格持ちで特許分野のプロだ。
…ショウもきちんとした格好すれば多分イケメンーー目は切れ長の一重で鼻筋も通ってるし、口元もきゅっとしまってるーーでもボッサボッサの髪とダッサダッサの眼鏡で全部台無しなんだよなぁ。残念でならない。
「運転が仕事?」
「そうなんです。ショウさんにお願いした書類が締切過ぎてもまだ出来てないので、会社の保養所で『私の目の前で書いてもらう』予定なんですよ。所謂缶詰めです。だからこそ社長が急な保養所の使用を許可したんです」
「聞いてない!」愕然とするショウ。
「『言ったら逃げられるからギリギリまで言うな』と社長が」
さすが自分の弟の事は良くご存じで
「騙された~ミイちゃんとの旅行が~」
保養所に着いた途端ショウは早速パソコンのある部屋に連行されていった。よし!俺はのんびりしよう。
部屋のテレビでは昔のドラマのスペシャルをやっていた。刑事ドラマのようだ…凄いなコレ。拳銃はバンバン撃つし、車はパトカーだろうが犯人の車だろうがゴロンゴロンと転がって大爆発!時間を忘れて見入っていると、部屋にマツナガさんが入ってきた。
仕事終わったのかな?
「まだです。やる気になれば1、2時間で終わる作業量なのですが…」
ぐずぐずしてるんだろうな…お疲れのようなので冷蔵庫の飲み物をサービスした。
「ありがとうございます。ん?随分と古いドラマ見てるんですね?面白いですか?」
「すっごく面白い!でもこんなに拳銃って撃っていいの?周りに迷惑にならない?」
「絶対ダメです。ドラマだから許されるんですよ」
強めの否定がきたな、真面目なマツナガさんらしい。
「だよねー。こんな拳銃なんかも見たことないし」
すると画面を一緒に見ていたマツナガさんが
「あ、この拳銃昔社長が使ったのと同型ですね」
今何と?
「海外で強盗に囲まれた時普通に使ってましたよ。まさか良い服着た育ちの良さそうな日本人が撃つとは向こうも思ってなかったみたいで驚いてましたね」
と笑いながら言った。怖い。
「いやー『邪魔だうせろ』って言葉『コーヒー1杯下さい』と同じテンションで言う人初めて見ましたよ」
「えええ…で、ほんとに撃ったの?」
「そう、そしてキチンと当ててましたね。強盗の耳上半分無くなっていて私もちょっと驚きました」
「『ちょっと』なんだ驚くの…」
「その後ウチの護衛と警官が来て、事なきをえましたが後処理の方が大変で…」苦々しい表情だ。
「『後処理の方が大変』…」
「私はその時社長の言葉が忘れられなくて…この人に一生ついていこうと思いましたね」
えとそれはどのような?
「『額の真ん中狙ったのに』」
決めた。コウ兄さんには逆らわないようにしよう。
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