呪い(?)の解き方知りませんか?

閑人

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48.表舞台の大人たち ③

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 話し合いは副学園長からの謝罪から始まった。

 「今回はこちらの不手際でこのような事になってしまい申し訳ございませんでした。まさか王家の紋章がついた馬車を襲う者がいるとは…今後は気をつけたいと思いますので、お許しいただけないでしょうか」

 そう思うのは当たり前だ。メヒティルト様や私のような貴族なら王家は神のような存在だ。それを襲うなんて想像することすらできない。だから私は学園側に落ち度はないと思っていると伝えるとほっとした顔になり

 「そう言っていただけると助かります。紹介が遅れましたがこちらの2人は担任のオットーと魔法専任のノラです。この2人とリュ君、そして騎士団がご子息の救助に携わりましたので詳細の説明をしてもらおうと思っています」

 痩せた優しそうな先生がオットー先生で、小柄な女性の先生がノラ先生か。冬休み中で学生どころか先生方も帰省してほとんど人がいない為か、どちらもそのような荒事向きでなさそうなのに身体を張ってくれたのかと思うと頭が下がる。

 3人から詳細をうかがったが昨晩使者から聞いたのとほぼ同じのようだ。(ノラ先生が身体強化の使い手だというのには驚いたが)ただ1点、誘拐に気づき学園に知らせてくれた方についてとうとう名前が出なかったのが気になるので聞いてみると

 「それがこちらでも良くわからなくて…推測になってしまうのですが、メヒティルト様側の人間だったのではと私は思っています」

と副学園長は頭を捻りながらそう言った。
確かに残党(いるとすれば)から裏切り者と報復を受ける可能性があるので名乗らずに消えたならば合点がいく。とにかくその方のお陰で早期に解決できたのでもし身元がわかったらお礼をしたいから教えて欲しいと伝えた。
 ん?何故ルドルフもリュ君もなんならハンスさんも笑いを堪えたような変な表情をしているのだろうか?

 「…以上が詳細になります。何か他にご質問等はございますか?」

 隣に座っているルドルフがすっと手をあげた。

 「メヒティルト様はどのような罪になるのですか?」

 先生たちはお互い顔を見合わせた。賢いとは言えまだ12歳、どこまで伝えていいのやら悩んでいるようだ。かくいう私もその1人だ。そんな雰囲気の中

 「王家に喧嘩売ったんだから相当重い罪になるんじゃないか?俺は詳しくないからあれだけど」

とハンスさんが発言した。驚いて止めようとする先生たちに構わず、

 「…いやね、ルドルフ君は多分わかっていて言っているんだと思うよ。なに?減刑でもお願いしたいの?それとも逆?」とざっくばらんに続けた。

 「…減刑を…『助命嘆願』をお願いしたいと思っています。被害者である私から言い出せば効果が高いのではないかと」

 助命嘆願…ルドルフは今回の事件が死罪に当たるともう知っていたようだ。そんなルドルフにハンスさんは問いかけた。

 「なんで?君は誘拐されたんだよ?たまたま今回は早く助けられたけど、ひょっとしたら学園にもおうちにも帰れなくなっていたかも知れないんだよ?そんな悪い奴らの事なんて心配してやる必要ないんだぞ」

優しい声だが少し怒気をはらんでいる。子どもを持つ親なら当然の気持ちだろう。

 「父ちゃん声が怖い。ルドルフ困っているよ」

 「ごめんごめん。リュが同じ目にあったらって思ったらつい。君に怒っているわけじゃないんだ」

 そんな2人の様子を見ていて決心が着いたのかルドルフが話し始めた。

 「リュはあの部屋の中を見たかい?」

 「あぁ半地下の捕まってた部屋ね。いや、とにかく助けなきゃっていっぱいいっぱいで見てないや」

 「そうか。あの部屋はすごい部屋だったんだよ。全てに私に対する心遣いにあふれていたんだ。寒くないように暖炉、厚いカーペット、寝心地の良さそうなベッド。書き物机には上質な紙とペン。クローゼットにはサイズのあった服がかかっていて、テーブルには軽く食べられるお菓子と飲み物が置いてある。そして本棚には本がずらりといった具合にね」

 「本か…かなり調べたんだねルドルフの事」  

 「でも調度や服、本の好みまでは調べられなかったみたいで私好みじゃない物が多かったな」と微笑む。

 「良かったねルドルフ」そういうと2人は目を合わせてにっこり微笑んだ。

 「どこが良かったなんだよ?」ハンスさんがそんな2人に割り込んだ。

 「その辺の好みを把握してたらお屋敷内に情報を流している人がいる事になるんだよ父ちゃん。いなかったんだから『良かった』だよ」

 なるほどそういうことか。2人ともよく頭がまわる。

 「そんな細やかな心遣いが出来る反面、直に話をしてみると実に考えが幼くて驚いたんだ。それらを念頭に置くと彼女は『欲しい物を手に入れようと頑張った』ら、たまたまそれが『王家に喧嘩を売った』事になってしまっただけなのではないかと。多分心のどこかが歪んで、きちんと育っていないところがあるのではないかな…可哀想な人なんだよ」

 「だから『減刑』?ルドルフらしいね」
 
 静かに話しを聞いていた副学園長は後ろのキャビネットに入っていた封筒を取り出して、私の方にそれを差し出した。

 「この手紙を持って王宮へ行けば、すぐ陛下にお会いする事ができる様に学園長が取り計らいました。もしエルンスト様がルドルフ君の気持ちをくんで行動なさるならこれをお使い下さい…元々そのおつもりだったでしょう?」

 さすが学園の重鎮、お見通しだったようだ。私はありがたくその手紙を受け取った。
 

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