30 / 51
30.幕間
しおりを挟む美しい顔が欲しい。
私の人生はそれだけを追い求めているような気がする。『毒花のような』でも『異性を惹きつけてやまない』そんな美しい顔を持つ母は「美しさが全て」と言い切っていた。そしてその口で「あなたは美しくない」とも言っていた。つまり私には何も無いという事だ。
その言葉で呪われたまま私は結婚をした。
母のドレスやアクセサリーなどの浪費が増え、それが借金となり、とうとう私は借金のかたに結婚を強いられた。相手には一度も会った事はなく(夫となった人は『舞踏会で一目惚れした』と言っていたが、私には記憶は無い)私にとっては『生家』という暗闇から『婚家』という暗闇に移動しただけだった。
暗闇とは表したが、結婚生活自体はとても穏やかなものだった。夫が私を愛してくれているのは良く分かったし、婚家の人たちも優しかった。でもいくら「愛してる」と言われても私の呪いは解けなかった。何故だろうか?と考えると、思いつくのは一つだけ。「美しくないから」
夫も婚家の人たちも私同様美しくなかった。一般的に見れば誠実そうな優しい顔立ちなのだが、私の基準では美しくない。なのでせめて生まれてくる子どもだけでも美しい顔をと望んだ。(祖母に似る孫もいるので)しかしそれも無駄だった。2人息子を産んだがどちらも夫に似ていたのだった。夫も婚家の人たちもとっても喜んで愛してくれた。でも私はそんな子供たちをどうにも愛せなかった。自分が産んだ子供なのに愛せなかった。だって「美しくないから」
あと2、3人産めばひょっとして…と諦めずにいた矢先、夫が急死した。私は長男が成人するまでの当主代理となったが、何をすればいいのだろうか?婚家は大きく商売をやっているがそれは軌道にのっており、私の出番はない。当主としての仕事は昔から勤めてくれている執事が教えてくれる通りにやるだけ。そして本来なら1番やるべき子育ては…全くやる気が起きなかった。暗闇が深くなったその頃、ある噂を聞いた。
アウクス家の子どもは美し過ぎて魅了の呪いがかかっている と
私は狂喜乱舞した。そんな家の血筋ならば美しい子どもが生まれるに違いない。その上噂によると母とは違う「清らかで上品な美しさ」らしいではないか!この血筋を手に入れれば母の呪いから解き放たれると確信した。
私に釣り合う年齢の人はいるかしら?…残念ながら釣り合う年齢の人は皆結婚していた。そこで結婚していない方を探してみた。出来れば魅了の呪いの強そうな本家の方がいい。…いた。10歳のルドルフ様だ。私の長男より若いが構わない。求婚をしようとしたら執事にやんわりと反対された。
「年が離れ過ぎてます」と
でも私と夫との歳の差もそれくらいだったのだからいいじゃない?と言って黙らせた。男性が良くて女性がダメって何故なのか分からない。構わず求婚をしたが断られた。何度も何度も断られた。何故かしら?彼は後継でもないし、結婚すれば『質素な生活をしている』と言われているアウクス家に援助もしてあげられる。家訓で『結婚は本人の意思』によると聞いているけどお金は大事よ?ご両親も説得して下さればいいのに…
断られ続けてどれくらいたったのだろう?その間この求婚に反対した使用人たち(執事も含む)を私はどんどん首にした。そして私の言うことを聞いてくれる者をどんどん雇用した。あとで気づいたが、首にしたと思っていた使用人たちは長男が全員再雇用し、自分の手元に置いていた。ちょっと不愉快にはなったが私の邪魔さえしなければまあいいわ。興味もないし。
ところが一大事が起きた。ルドルフ様が学園に入学してしまったのだ。あそこは面会は基本家族だけ、手紙のやり取りすら面倒な手続きがあり、その上寮生活。それも5年間…絶望しかけたが、反面アウクス家の護衛は無くなるのでチャンスだと思い直した。そのままさらってうちに連れて来ましょう。ここでいい生活をすれば考えも変わるに違いない。ルドルフ様の外出時を狙う為手下に学園の門前町で見張らせた。
チャンスはすぐに来た。友人らしい学生とどこかに行くらしく、みすぼらしい馬車に乗り込んだと連絡が来た。その時偶々私も近くにいたので手下と一緒に追いかけた。しかしルドルフ様まであと少しのところで、そのみすぼらしい馬車が目の前で横転して道を塞いだ。道は狭く横をすり抜けるには鬱蒼とした森に入るしかないが私の馬車はそこには入れない。まごまごしているその間にルドルフ様と友人は馬に乗ってどんどん先に行ってしまった。
…謀られたと気づき、その馬車の持ち主に腹が立ったが今はそれどころではない。何とか手下たちが馬車をどけ先に進んだ。道は1本道で先には建国の森とその手前に小さな村があるだけのはず。逃げ場はない。私の勝ちだわ。
ここはどこ?
私たちはルドルフ様が入ったと聞かされた建国の森に入ったが、行けども行けども深い森。入ってすぐ元の道がわからなくなり(後ろを振り返っても来た道自体が無くなっていた)迷い続けている。不思議な事に喉が乾けばすぐ綺麗な泉を発見でき、お腹がすくとすぐ食べられそうな木の実が見つかるといった具合で生きるのには困っていない。「生きるのには」だ。『肉が食べたい』と言って狩りに行った手下がいたが、何も…鳥の1羽もいなかったようだ。言われてみれば動物の気配がない、不気味だ。
どのくらい森の中を迷ったのだろう、私たちはとうとう外に出られた。小さな町だった。私たちは警備の駐在所に連れて行かれた。そこでこの場所が王国のどの辺なのか聞いて見ると地図を指差して教えてくれーー国境沿いの、建国の森とは全く繋がっていない町だった。どこをどうやったらここに出られるのか?と不思議に思っていると
「あんたら、悪い考えを持って建国の森に入ったんだろ?たまにいるんだよな~ここに飛ばされる奴。まあ生きて出られたんだから反省して改心した方がいいよ」
何とか屋敷に戻ると、長男は私の手下たちを次々と首にした。どうやら学園そして陛下に今回の事が知られたらしくかなり怒っている。私の資金源たる婚家の商売の権利もじわじわと取り上げられ、私の懐は寂しくなってきた。そして私を夫の遠縁がいる隣国に送り、幽閉しようとしているという噂が使用人たちの間でなされているようだった。
そしてついに王家からルドルフ様との接見禁止令が出された。面会どころか手紙もダメ、アウクス家の領地も学園の門前町も立ち入り禁止…私は美しい顔を手に入れたかっただけなのに、何故こんな目に合うのかしら?わからない。全くわからない。
でも私は諦めない
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる