29 / 51
29.大人たちの舞台裏 ②
しおりを挟む
今日は学園長に業務報告をする日だ。普段ならそんなに変わり映えしない内容なのだが今日は少し違う。どう学園長が反応するか少々楽しみにしながらクラウスはドアをノックした。
「…と言う事がありまして、警察とお子さんを誘拐されかけたご夫婦のお礼の訪問があったとオットー先生から報告がありました」
とクラウスが報告すると学園長は大笑いした。
「捕まえましたか!なかなかやりますね」
でも報告はこれだけではない
「そして追加報告なのですが、その捕獲の際リュ君が石壁を素手で壊した事から身体強化の魔法が使えるのではないかと。とりあえず魔法実習に参加してもらい、ノラ先生に確認してもらう予定にしてます。本人は『馬鹿力』だと言っているらしいですが多分魔法で間違いないとオットー先生が仰ってました」
稀少な身体強化の魔法は確か学園長も研究対象としているので喜ぶかと思ったが、そうではなく感慨深げに頷いている。
「どうかしましたか?」
「昔、調査中彼の村の人たちが『馬鹿力』と呼んでいる物があると知ったのだが、私が詳しく聞こうとしたら村人全員から断られたんだよ。調査が入るのを嫌がっていたので、無理矢理聞くことも出来ずに終わってしまって心残りだったんだ。やっとこれで分かる…彼の村には他に出来る人がいるかもしれないからノラ先生には私から伝えておこう。あとこれは思いつきだけど」
「何でしょう?」
「この間のハインリヒ君のアレの時、リュ君はその『馬鹿力』を使って壁や床を壊して脱出するつもりだったのでは?その後学園の乗馬練習用の馬に乗れば、数時間で村に帰る事が出来る。そこから建国の森に逃げ込んでしまえば…あの森は王国にとって不可侵の聖域の様な場所、誰も手出し出来なくなる」
壁や床…そんな事はと思いたいが。実際石壁を壊しているのだしありうるのか…来賓室がボロボロにされなくて良かったとクラウスは胸を撫で下ろした。
ーーー
1年生の担当のオットー先生は非常に優秀である。それだけでなく親身になって学生に対応していると評判の高い先生だ。そのオットー先生をして手こずらせているのがあの2人だ。
はじまりの村の出来事の後、学園は色々なツテを辿ってルドルフ君とその女性の事を調べてみたが、結果『家同士のトラブルはなし。彼女が無理に結婚を迫って強行手段に出ただけ』と判明した。
それならば(後ろ暗い事がないのだから)ルドルフ君は強い権力を持っている学園に助けを求めてきてもおかしくないはずなのに、全くそのような兆候がない。それどころがリュ君と2人で何とかしようとしているーこれが直近の状況だった。
「やっと彼らに信用してもらえました!」
今朝オットー先生は興奮を隠さずにそう言った。それだけでクラウスには何があったか分かった。その後彼の労を労いながら話を聞き、対応策を練った。といっても少し前から学園内部の調査は行っており、内通者はほぼいないと(調査が未完了なのが数人いるが、この人たちもあと数日で結果がでる)思われ、警備との連携もすぐとれるように準備はしてあった。後は王族である学園長の出番。彼女を何処まで出禁にするのか、他の行動も禁止するのか、王からの命令にするのか、学園からのお願いにするのか…などなど一括してお任せする予定だ。とにかく学生の安全を守るのが学園として1番やらなければならない事なので手落ちがないようにしなければと心に決めたクラウスだった。
ーーー
彼らは今日学園に帰ってくる予定だが大丈夫だろうか?考えられる対策は一応したが…不安だ。
オットーは学園で高い評価を受けている。その為しっかりとまとめる必要の高い1年生を担当する事が多い。その流れで今年も1年生を担当したのだが、まず不正入試が発覚し(その前段階でリュ君の乱暴行為も)、ルドルフ君が追われてあわやという目にあったり、誘拐犯を捕まえた学生がいたりとまだ1年の半分も終わっていないのに大変な事がたくさん起こったのだ。それも全てリュ君とルドルフ君が絡んでいる。
ルドルフ君に関しては非常に真面目で勉強熱心、穏やかですこぶる優等生。強いて欠点を探すとしたら知識欲が強すぎて先生方を質問責めにしている所だろうか?ただ彼は学園を卒業した後、高等な教育をしてくれる学校に入り将来的には「プロフェッサー」になる事を希望しているのでそんな性質も向いていると言える、とても楽しみな学生だ。反面リュ君は
「卒業したら村に戻って木こりをする」
と言っており、勉強には熱心ではない。その上人の話をきちんと聞かないという悪癖があるので困りものだ。しかし以前補習をした時に『やらないと自分が困る物や必要な物』に関しては人並み以上に出来るという事が分かったので、彼にはこれからは勉強の利点を繰り返し教えていくつもりだ。
こんな2人だが事が起きた時に自分たちで何とかしようとする傾向がある。これはまだ学園に信頼できる大人がいない為だと思っており、その信頼できる大人に自分がなっていない事が悲しいかった。
ところが連休前のある日彼らが「助けて欲しい」と話を持ちかけてきた。やっと彼らの信頼を得たのだ。内容は学園で調べ上げていた内容とさほど違いはなかったが、自分たちの口から話してもらえたのが嬉し過ぎてかなり興奮してしまった。お恥ずかしい限りだ。
警備や(彼女の)学園門前町の出禁などかなり大ごとにはなりそうなので、学園全体そして学園長にも強く働きかけていくつもりだ。…学園長には副学園長とノラ先生しか会うことが出来ないのでそこはとても歯がゆいがそれでも精一杯の努力をしていこうと思う。これぞ教師としてのやり甲斐だとしみじみ感じている。
「…と言う事がありまして、警察とお子さんを誘拐されかけたご夫婦のお礼の訪問があったとオットー先生から報告がありました」
とクラウスが報告すると学園長は大笑いした。
「捕まえましたか!なかなかやりますね」
でも報告はこれだけではない
「そして追加報告なのですが、その捕獲の際リュ君が石壁を素手で壊した事から身体強化の魔法が使えるのではないかと。とりあえず魔法実習に参加してもらい、ノラ先生に確認してもらう予定にしてます。本人は『馬鹿力』だと言っているらしいですが多分魔法で間違いないとオットー先生が仰ってました」
稀少な身体強化の魔法は確か学園長も研究対象としているので喜ぶかと思ったが、そうではなく感慨深げに頷いている。
「どうかしましたか?」
「昔、調査中彼の村の人たちが『馬鹿力』と呼んでいる物があると知ったのだが、私が詳しく聞こうとしたら村人全員から断られたんだよ。調査が入るのを嫌がっていたので、無理矢理聞くことも出来ずに終わってしまって心残りだったんだ。やっとこれで分かる…彼の村には他に出来る人がいるかもしれないからノラ先生には私から伝えておこう。あとこれは思いつきだけど」
「何でしょう?」
「この間のハインリヒ君のアレの時、リュ君はその『馬鹿力』を使って壁や床を壊して脱出するつもりだったのでは?その後学園の乗馬練習用の馬に乗れば、数時間で村に帰る事が出来る。そこから建国の森に逃げ込んでしまえば…あの森は王国にとって不可侵の聖域の様な場所、誰も手出し出来なくなる」
壁や床…そんな事はと思いたいが。実際石壁を壊しているのだしありうるのか…来賓室がボロボロにされなくて良かったとクラウスは胸を撫で下ろした。
ーーー
1年生の担当のオットー先生は非常に優秀である。それだけでなく親身になって学生に対応していると評判の高い先生だ。そのオットー先生をして手こずらせているのがあの2人だ。
はじまりの村の出来事の後、学園は色々なツテを辿ってルドルフ君とその女性の事を調べてみたが、結果『家同士のトラブルはなし。彼女が無理に結婚を迫って強行手段に出ただけ』と判明した。
それならば(後ろ暗い事がないのだから)ルドルフ君は強い権力を持っている学園に助けを求めてきてもおかしくないはずなのに、全くそのような兆候がない。それどころがリュ君と2人で何とかしようとしているーこれが直近の状況だった。
「やっと彼らに信用してもらえました!」
今朝オットー先生は興奮を隠さずにそう言った。それだけでクラウスには何があったか分かった。その後彼の労を労いながら話を聞き、対応策を練った。といっても少し前から学園内部の調査は行っており、内通者はほぼいないと(調査が未完了なのが数人いるが、この人たちもあと数日で結果がでる)思われ、警備との連携もすぐとれるように準備はしてあった。後は王族である学園長の出番。彼女を何処まで出禁にするのか、他の行動も禁止するのか、王からの命令にするのか、学園からのお願いにするのか…などなど一括してお任せする予定だ。とにかく学生の安全を守るのが学園として1番やらなければならない事なので手落ちがないようにしなければと心に決めたクラウスだった。
ーーー
彼らは今日学園に帰ってくる予定だが大丈夫だろうか?考えられる対策は一応したが…不安だ。
オットーは学園で高い評価を受けている。その為しっかりとまとめる必要の高い1年生を担当する事が多い。その流れで今年も1年生を担当したのだが、まず不正入試が発覚し(その前段階でリュ君の乱暴行為も)、ルドルフ君が追われてあわやという目にあったり、誘拐犯を捕まえた学生がいたりとまだ1年の半分も終わっていないのに大変な事がたくさん起こったのだ。それも全てリュ君とルドルフ君が絡んでいる。
ルドルフ君に関しては非常に真面目で勉強熱心、穏やかですこぶる優等生。強いて欠点を探すとしたら知識欲が強すぎて先生方を質問責めにしている所だろうか?ただ彼は学園を卒業した後、高等な教育をしてくれる学校に入り将来的には「プロフェッサー」になる事を希望しているのでそんな性質も向いていると言える、とても楽しみな学生だ。反面リュ君は
「卒業したら村に戻って木こりをする」
と言っており、勉強には熱心ではない。その上人の話をきちんと聞かないという悪癖があるので困りものだ。しかし以前補習をした時に『やらないと自分が困る物や必要な物』に関しては人並み以上に出来るという事が分かったので、彼にはこれからは勉強の利点を繰り返し教えていくつもりだ。
こんな2人だが事が起きた時に自分たちで何とかしようとする傾向がある。これはまだ学園に信頼できる大人がいない為だと思っており、その信頼できる大人に自分がなっていない事が悲しいかった。
ところが連休前のある日彼らが「助けて欲しい」と話を持ちかけてきた。やっと彼らの信頼を得たのだ。内容は学園で調べ上げていた内容とさほど違いはなかったが、自分たちの口から話してもらえたのが嬉し過ぎてかなり興奮してしまった。お恥ずかしい限りだ。
警備や(彼女の)学園門前町の出禁などかなり大ごとにはなりそうなので、学園全体そして学園長にも強く働きかけていくつもりだ。…学園長には副学園長とノラ先生しか会うことが出来ないのでそこはとても歯がゆいがそれでも精一杯の努力をしていこうと思う。これぞ教師としてのやり甲斐だとしみじみ感じている。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる