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28.大人たちの舞台裏 ①
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薄暗い塔の階段を登るコツコツという靴音が反響する。いつもの事ながら少々不気味だなと副学園長のクラウスは思う。登りきった所に重々しいドアがあり、『学園長室』のプレートがかかっている。クラウスはそのドアをノックした。
「どうぞ」若々しい声が向こうから返ってきた。
「失礼します」とドアを開けると、
本、本、本…。四方八方本だらけの空間がそこには広がっていた。そしてその真ん中に学園長がいた。
「入学試験の合格者が決定したとお聞きしましたが?」
「リストにしてみたんだけど君の意見も聞きたい」
合格者の決定は学園長の専権事項ではあるものの副学園長であるクラウスも意見を述べる事ができる。
「ただし、この2人だけは絶対合格なのは譲らないよ。久しぶりの『金』だからね」
と学園長はリストの名前を指差した。
その名前を見ながら採点の終わった試験用紙をめくる。
「この2人ですね。1人は…ほぼ満点をとってるので全く問題ないですが。もう1人がほぼ0点…あ!でも最後の思考力をはかる問題だけは出来てますね」
どれどれと学園長も試験用紙を覗き込む。
「本当だ。ここだけ見ると12歳の子どもには思えないくらい良いデキだね。物事の裏面も考えに入れていて…あの素朴な村で伸び伸び育ったとは思えないくらいだな」と言い口の端に笑いを浮かべた。
「この子の事ご存知なのですか?」
私情は挟まないタイプの学園長だが、もし知り合いを無理やり入学させるつもりなら問題になりかねない。
「いや、この珍しい名前、王家の直轄地の村の名簿で見た事があるんだ。他になさそうな名前だから間違いないと思う」
なるほど確かに珍しい名前だ。
「学園長さえよろしければ合格でとは思いますが、何らかの手を打たないと、このほぼ0点の子は入学してから困るのでは?」
学園長は口の端の笑みを崩さずに
「そうだね。入学までに授業についてこれるくらいの知識をつけてもらわないと…教え方の上手な先生を派遣して勉強してもらうかな。先生の選択は任せますのでよろしくお願いします。で、残りの合格者は…」
話し合いはまだ続く。
ーーー
クラウスが学園長室のドアを開けると学園長が待ち構えていた。
「早速だけどハインリヒ君の件どうなった?」
「不正入試を認めました。そこまでして学園に入れたかったのですかねえ。入学してしまえば何とかなると思っていたのか…残念です」
先ほどのハインリヒ君の親御さんとのやりとりを思い出すと盛大な溜め息がでる。
「私も騙されたよ。当人を学園で見た時びっくりした。『あんな人に合格出したか?』って。あ!替え玉君をできれば何とか確保してもらえないかな?」
「ご安心を。もうこちらで身柄を家族ごと確保してあります。そのままだと連座で処罰の可能性があるので急ぎました。母親が病気でお金が欲しかったと言ってましたよ、かわいそうに…来年12歳になるのでもう一度学園の試験を本名で受けて欲しいと伝えてあります」
彼らは今は信頼のおける人物に匿ってもらっている。ハインリヒ君の家がどんな手を使って『不正の証拠人』である彼らを消しにくるかがわからないので非常に慎重に事を進めて正解だった。
「弱みにつけ込んだのか、タチが悪いねぇ…ちょっと下品かも知れないけど陛下がどのような処分をするのか楽しみになってきた」
学園長は苦々しい表情を滲ませて表情で両手を擦り合わせた。
「しかしリュ君はあんな場面でも堂々としてましたね。捕まって処刑される可能性もあったのに…何か逃げ出す方策でもあるのか?と思ったくらいですよ」
「…あったんだろうね。勿論ハインリヒ君の不正に気がついていたようだからそれを使えば無罪放免になるとは踏んでいたのだろうけど…物事の裏も読んでいたあの答案を書いた彼となると逃亡する策もあったと考えるのが妥当かな」
と学園長は楽しそうにそう言った。
ーーー
「今すぐ学園長室に来て!」
クラウスは急な呼び出しに慌てて塔の階段を登る。何事が起きたのだろう?
ノックもそこそこに部屋に招き入れられたクラウスは学園長に手紙の束を渡された。その手紙には何と『請求書』がついていたのだ。それもなかなかな金額。
「内容読んでみて」と学園長。
要約すると
『はじまりの村で学園の学生を追ってきた女性(名前も家名も書いてあった)が大暴れをした挙句建国の森に入って出てこなくなりました。古法で〝この村で何か事が起きた時には王族に知らせる〟となっているので王族である学園長にお知らせします。そしてその女性が壊した物の弁償をしてもらいたいのだが、直にその方の家に送っても取り合ってくれるかがわからないので学園を通して請求書を送る事にしたのでよろしくお願いします』と。
前代未聞だ…クラウスの頭は混乱した。
「と、とにかく当人たちに事情を…」
「待て!家と家の関係もあるかもしれないので私たちは今手を突っ込むのは辞めた方がいい。勿論当人から助けを求められたら全力で対応するが…まずは情報を集めましょう。その為に貴族出身の学園の職員を少し借りますよ、貴族の事は貴族に調べてもらうのが1番早いですからね。あと、請求書の代金は私がとりあえずポケットマネーで払います。その後ゆっくりと相手の家への対応を考えましょう。副学園長先生も協力お願いします」
彼らが入学してから次から次へと…
「どうぞ」若々しい声が向こうから返ってきた。
「失礼します」とドアを開けると、
本、本、本…。四方八方本だらけの空間がそこには広がっていた。そしてその真ん中に学園長がいた。
「入学試験の合格者が決定したとお聞きしましたが?」
「リストにしてみたんだけど君の意見も聞きたい」
合格者の決定は学園長の専権事項ではあるものの副学園長であるクラウスも意見を述べる事ができる。
「ただし、この2人だけは絶対合格なのは譲らないよ。久しぶりの『金』だからね」
と学園長はリストの名前を指差した。
その名前を見ながら採点の終わった試験用紙をめくる。
「この2人ですね。1人は…ほぼ満点をとってるので全く問題ないですが。もう1人がほぼ0点…あ!でも最後の思考力をはかる問題だけは出来てますね」
どれどれと学園長も試験用紙を覗き込む。
「本当だ。ここだけ見ると12歳の子どもには思えないくらい良いデキだね。物事の裏面も考えに入れていて…あの素朴な村で伸び伸び育ったとは思えないくらいだな」と言い口の端に笑いを浮かべた。
「この子の事ご存知なのですか?」
私情は挟まないタイプの学園長だが、もし知り合いを無理やり入学させるつもりなら問題になりかねない。
「いや、この珍しい名前、王家の直轄地の村の名簿で見た事があるんだ。他になさそうな名前だから間違いないと思う」
なるほど確かに珍しい名前だ。
「学園長さえよろしければ合格でとは思いますが、何らかの手を打たないと、このほぼ0点の子は入学してから困るのでは?」
学園長は口の端の笑みを崩さずに
「そうだね。入学までに授業についてこれるくらいの知識をつけてもらわないと…教え方の上手な先生を派遣して勉強してもらうかな。先生の選択は任せますのでよろしくお願いします。で、残りの合格者は…」
話し合いはまだ続く。
ーーー
クラウスが学園長室のドアを開けると学園長が待ち構えていた。
「早速だけどハインリヒ君の件どうなった?」
「不正入試を認めました。そこまでして学園に入れたかったのですかねえ。入学してしまえば何とかなると思っていたのか…残念です」
先ほどのハインリヒ君の親御さんとのやりとりを思い出すと盛大な溜め息がでる。
「私も騙されたよ。当人を学園で見た時びっくりした。『あんな人に合格出したか?』って。あ!替え玉君をできれば何とか確保してもらえないかな?」
「ご安心を。もうこちらで身柄を家族ごと確保してあります。そのままだと連座で処罰の可能性があるので急ぎました。母親が病気でお金が欲しかったと言ってましたよ、かわいそうに…来年12歳になるのでもう一度学園の試験を本名で受けて欲しいと伝えてあります」
彼らは今は信頼のおける人物に匿ってもらっている。ハインリヒ君の家がどんな手を使って『不正の証拠人』である彼らを消しにくるかがわからないので非常に慎重に事を進めて正解だった。
「弱みにつけ込んだのか、タチが悪いねぇ…ちょっと下品かも知れないけど陛下がどのような処分をするのか楽しみになってきた」
学園長は苦々しい表情を滲ませて表情で両手を擦り合わせた。
「しかしリュ君はあんな場面でも堂々としてましたね。捕まって処刑される可能性もあったのに…何か逃げ出す方策でもあるのか?と思ったくらいですよ」
「…あったんだろうね。勿論ハインリヒ君の不正に気がついていたようだからそれを使えば無罪放免になるとは踏んでいたのだろうけど…物事の裏も読んでいたあの答案を書いた彼となると逃亡する策もあったと考えるのが妥当かな」
と学園長は楽しそうにそう言った。
ーーー
「今すぐ学園長室に来て!」
クラウスは急な呼び出しに慌てて塔の階段を登る。何事が起きたのだろう?
ノックもそこそこに部屋に招き入れられたクラウスは学園長に手紙の束を渡された。その手紙には何と『請求書』がついていたのだ。それもなかなかな金額。
「内容読んでみて」と学園長。
要約すると
『はじまりの村で学園の学生を追ってきた女性(名前も家名も書いてあった)が大暴れをした挙句建国の森に入って出てこなくなりました。古法で〝この村で何か事が起きた時には王族に知らせる〟となっているので王族である学園長にお知らせします。そしてその女性が壊した物の弁償をしてもらいたいのだが、直にその方の家に送っても取り合ってくれるかがわからないので学園を通して請求書を送る事にしたのでよろしくお願いします』と。
前代未聞だ…クラウスの頭は混乱した。
「と、とにかく当人たちに事情を…」
「待て!家と家の関係もあるかもしれないので私たちは今手を突っ込むのは辞めた方がいい。勿論当人から助けを求められたら全力で対応するが…まずは情報を集めましょう。その為に貴族出身の学園の職員を少し借りますよ、貴族の事は貴族に調べてもらうのが1番早いですからね。あと、請求書の代金は私がとりあえずポケットマネーで払います。その後ゆっくりと相手の家への対応を考えましょう。副学園長先生も協力お願いします」
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