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第五話 勇気に変わるネコサンド
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四葉は手渡されたハサミで耳を作った。
その間に、由岐は切り込みを真横に入れてバターを塗り、具材を詰めて皿に並べていく。
子猫のサンドイッチは、あっという間に完成した。
「できた! でも、私が作った耳、不揃いだね。なんか不細工」
「不細工でも、お前がいないとその子猫はここにいなかった。俺は、ただのバターロールサンドを作って食べて終わりだ。役に立っているように見えなくても、そこにいる意味はある。そういうんじゃダメなのか?」
由岐が言わんとしているのは、先ほどの四葉へのアンサーだ。
「役に立たなくても、そこにあっていいものはたくさんあるだろ。集まって悪巧みするわけでもないんだから、年寄りの寄り合いみたいなもんだ。組長が畳まないと決めたなら、畳む必要はない」
「うん……。私、黒羽組を守りたい」
由岐のおかげで、四葉の覚悟は決まった。
お金は何とかして集める。
角館に人がいなくなるまで、自分を含めて誰も極道を必要としなくなるまで、黒羽組を守っていくことが四葉の幸せなのだから。
(茨の道だって大丈夫。お腹が空いたら由岐くんのパンを食べればいいし)
由岐は、店のスツールを調理台のそばに運んできて、四葉を座らせ、自分も腰かける。
「このままだと食べ頃を逃がしちまう。いただきます」
「いただきます!」
両手を合わせて、豪快にバターロールの中央にかぶりつく。
シャキッとした玉ねぎの歯ごたえとツナマヨの組み合わせに強めの塩気がきいている。一口食べたら急にお腹が空いて、四葉は自分が空腹だったと気づいた。
「美味しいものを食べると元気が出るね」
「生き物は何だってそうだろ。地面の蟻も、森の野兎も、極道も、女子高生も、パン屋も、そこにいる理由なんか本当は持ち合わせてねえ。ぐだぐだ考えるからこじれていくんだよ。コーヒー飲むか?」
「うん」
もくもくと食べていく四葉に、由岐はインスタントのコーヒーを淹れてくれた。
熱々のコーヒーと子猫の形をしたバターロールサンドは、お腹の中で混ざり合って、四葉の勇気に変わっていった。
由岐の家に泊まった四葉は、朝方になって屋敷に帰った。
廊下に正座して待っていた助と、由岐の写真を貼った藁人形を柱に打ち付けていた賀来は、いきなり四葉が頭を下げたので面食らった様子だ。
「いきなり出て行ってごめんなさい。色々考えたけど、やっぱり私は黒羽組を続けたい。いつか本当に畳もうって思える日までは守りたいの。このお屋敷も、お銀が生きているかぎりは維持していく!」
そう宣言して、土鋸組の組長に返事を書いた。
『土鋸組の組長、土屋鋳造様。必ずご挨拶にうかがいます。上納金を集めている途中なので少し待っていただけませんか。毎月の支払いについても、私が働き出すまでは猶予をください。黒羽組組長、黒羽四葉』
その間に、由岐は切り込みを真横に入れてバターを塗り、具材を詰めて皿に並べていく。
子猫のサンドイッチは、あっという間に完成した。
「できた! でも、私が作った耳、不揃いだね。なんか不細工」
「不細工でも、お前がいないとその子猫はここにいなかった。俺は、ただのバターロールサンドを作って食べて終わりだ。役に立っているように見えなくても、そこにいる意味はある。そういうんじゃダメなのか?」
由岐が言わんとしているのは、先ほどの四葉へのアンサーだ。
「役に立たなくても、そこにあっていいものはたくさんあるだろ。集まって悪巧みするわけでもないんだから、年寄りの寄り合いみたいなもんだ。組長が畳まないと決めたなら、畳む必要はない」
「うん……。私、黒羽組を守りたい」
由岐のおかげで、四葉の覚悟は決まった。
お金は何とかして集める。
角館に人がいなくなるまで、自分を含めて誰も極道を必要としなくなるまで、黒羽組を守っていくことが四葉の幸せなのだから。
(茨の道だって大丈夫。お腹が空いたら由岐くんのパンを食べればいいし)
由岐は、店のスツールを調理台のそばに運んできて、四葉を座らせ、自分も腰かける。
「このままだと食べ頃を逃がしちまう。いただきます」
「いただきます!」
両手を合わせて、豪快にバターロールの中央にかぶりつく。
シャキッとした玉ねぎの歯ごたえとツナマヨの組み合わせに強めの塩気がきいている。一口食べたら急にお腹が空いて、四葉は自分が空腹だったと気づいた。
「美味しいものを食べると元気が出るね」
「生き物は何だってそうだろ。地面の蟻も、森の野兎も、極道も、女子高生も、パン屋も、そこにいる理由なんか本当は持ち合わせてねえ。ぐだぐだ考えるからこじれていくんだよ。コーヒー飲むか?」
「うん」
もくもくと食べていく四葉に、由岐はインスタントのコーヒーを淹れてくれた。
熱々のコーヒーと子猫の形をしたバターロールサンドは、お腹の中で混ざり合って、四葉の勇気に変わっていった。
由岐の家に泊まった四葉は、朝方になって屋敷に帰った。
廊下に正座して待っていた助と、由岐の写真を貼った藁人形を柱に打ち付けていた賀来は、いきなり四葉が頭を下げたので面食らった様子だ。
「いきなり出て行ってごめんなさい。色々考えたけど、やっぱり私は黒羽組を続けたい。いつか本当に畳もうって思える日までは守りたいの。このお屋敷も、お銀が生きているかぎりは維持していく!」
そう宣言して、土鋸組の組長に返事を書いた。
『土鋸組の組長、土屋鋳造様。必ずご挨拶にうかがいます。上納金を集めている途中なので少し待っていただけませんか。毎月の支払いについても、私が働き出すまでは猶予をください。黒羽組組長、黒羽四葉』
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